フォルクスワーゲンはゲームチェンジャーとなるか。ソフトウェア開発に注力する理由を小川フミオが考察

フォルクスワーゲンはゲームチェンジャーとなるか。ソフトウェア開発に注力する理由を小川フミオが考察

新型ゴルフは“デジタルハッチバック”へ

日本でも間もなく発売される新型「フォルクスワーゲン ゴルフ」。ゴルフ8などとも呼ばれるように、8世代目になったゴルフは、マイルドハイブリッド化された999cc 3気筒エンジン搭載モデルも設定。海外では走りっぷりのよさが高く評価されている。一方、いわゆるデジタル技術の充実ぶりも特筆点である。

「トラベルアシスト」と名づけられたアダプティブクルーズコントロールやレーンキープを統合した運転支援システムをはじめ、ヘッドアップディスプレイ、「イノビジョン」なるダッシュボードのTFT液晶モニター、eSIMを備え「We Connect」あるいは「We Connect Plus」というオンラインベースの機能とサービスが使える装備など、すらすらとあげられる。

VWのリサーチ&デベロップメント担当取締役トーマス・ウルブリッヒ氏(左)とマーケティング担当取締役クラウス・ツェルマー氏

明日の競争に打ち勝つために

これらをゴルフ8が採用したのは、単にトレンドだからのひとことで片付けられない。そこが今回の大事なポイント。「純粋な自動車製造業からソフトウェア志向のモビリティプロバイダーへ」転身することを謳うフォルクスワーゲンにとって、重要なものばかりなのだそう。

そのことを明確に定義したのが、さる2021年6月8日に、独ウォルフスブルクのフォルクスワーゲンAG本社で開催した「イノベーショントーク」だ。オンラインでの記者会見で、第1回の主題は「ソフトウェア・オフェンシブ」。つまり、ソフトウェアによる攻勢、というものだった。

「ソフトウェアこそ、来たるべき時代の差異化と価値創造を通して競争に打ち勝つための重要な要素」。フォルクスワーゲンでは、今回のオンライン記者会見にあたって、上記のようにプレスリリースで記述している。

新型フォルクスワーゲン ゴルフのコクピット

「ソフトウェアこそが未来への鍵」

ソフトウェアといってもカバーする領域は広い。簡単にいうと、ハードウェアの対概念。つまり、従来クルマにおける主要な開発テーマだった“走る・曲がる・止まる”は、シャシーやサスペンションやエンジンといった物理的なもの、つまりハードウェアの性能。それ以外の性能がソフトウェアともいえる。

たとえば、アダプティブクルーズコントロールやブレーキアシストもソフトウェアといえるし、液晶モニターを使ったインフォテインメントシステムも同様だ。スマートフォンでナビゲーションやエアコンやドアロックがコントロールできるのもソフトウェアにまつわるサービスである。

「ソフトウェアこそ、未来への鍵です」。オンラインの記者会見に出席した、リサーチアンドデベロップメント担当の取締役会メンバーであるトーマス・ウルブリッヒ氏は述べる。「自社で競争力のあるソフトウェアを開発することが、フォルクスワーゲンにとっての最優先事項なのです」と。

フォルクスワーゲンのEV専用プラットフォーム「MEB」のファミリーイメージ

EVを使ったカーシェアをスタート

フォルクスワーゲンの考える近未来の乗用車のありかたは、単にドライブを楽しめるだけでなく、ひとの生活を従来と違ったかたちにするためのもののようだ。具体的には、同社が「Volkswagen We(ウィ)」の名の下に、ユーザーに向けて提供するさまざまなサービスがクルマを通して受けられるようになるというのだ(とりあえずドイツを中心とした欧州)。

すでにベルリンとハンブルクでは電気自動車を使ったカーシェアリングサービス「We Share(ウィシェア)」がはじまっている。今回のオンライン記者会見では担当が姿を見せ、「コロナ禍で一時は停滞していたものの、これからはイタリアやスペインなど欧州にもサービスを拡大していきます」と鼻息荒く語った。

欧州で20万基をこえる充電ステーションを利用できる「We Charge(ウィチャージ)」なども、「Volkswagen We」に含まれる。同社では「ソフトウェアは新しい時代のビジネスモデルの入り口」という。

フォルクスワーゲンの次世代EVコンセプト「トリニティ」のシルエット

クルマの電動化+デジタル化を加速する意味

遠くない将来、電動車ユーザーが大きく増加することを見越して、フォルクスワーゲンではクルマのアーキテクチャーに広範囲のコネクティビティをもたせる。つまり設計段階から、たとえばスマートフォンのような通信機能を盛り込んだクルマを作るのだ。

「電動化とそれに応じたソフトウェアの開発を含むクルマのデジタライゼーションこそ、真の意味でゲームチェンジャーなのです」。フォルクスワーゲン乗用車部門のCEOを務めるラルフ・ブランドシュテッター氏は言う。

ゲームチェンジャーとは自動車メーカーが好む言葉であるものの、iPhoneがそうだったように、フォルクスワーゲンの電動車に乗ることで、ほかでは手に入らないアプリケーションが使えるようになるとしたら、まさに今回の動きこそ、真のゲームチェンジャーになる可能性を秘めている。

ID.モデルには、フロントウインドウ下端、横幅いっぱいに配置される「ID.ライト」が備わる

本社に専用のタスクフォースを設置

ゴルフ8では、ベーシックモデルでも、液晶画面のデジタルコクピットと、インフォテインメントのコントロール画面が2つ並べられた。後者は通信モジュールを使ってオンラインサービスが受けられるもの。デジタル技術は、もはやぜいたく装備ではないのだ。

むしろ、このオンラインサービスをいかに充実させていくか。近い将来のユーザー満足度はそこと密接に関係してくる、と同社では考えている。そのためのソフトウェア開発こそ、いまフォルクスワーゲンが本社にタスクフォースを作って、日々取り組んでいる重要課題という。

フォルクスワーゲン ID.シリーズのARヘッドアップ ディスプレイイメージ

これからの愛車の“アプデ”はリモートで

フォルクスワーゲンでは、2020年の「ID.3」にはじまり、SUVタイプの「ID.4」、ハイパフォーマンスバージョンの「ID.4 GTX」と矢継ぎ早にドイツ本国を中心として欧州市場にピュアEVを投入している。

それらはゴルフよりもさらにデジタル技術との相性がよく、ID.シリーズのオペレーティングシステムはリモートで行われる。「スマートフォンのように寝ているあいだにアップデートされるのです」と、前出のR&D担当取締役トーマス・ウルブリッヒ氏は語る。

フォルクスワーゲン ID.3とID.4による車車間通信イメージ

このリモートのアップデート技術は、「オーバー ジ エア(Over The Air)」と通称され、今後、世界中の自動車メーカーが使うようになっていくと言われている。ここでも、「先鞭をつけたものが商機を得る」(セールス・マーケティング・アフターセールス担当役員クラウス・ツェルマー氏)というフォルクスワーゲンの姿勢がみてとれる。

REPORT/小川フミオ(Fumio OGAWA)