ロールス・ロイスが驚愕のコーチビルド「ボート・テイル」を発表! 4年を費やし完成した「究極の贅沢」

ロールス・ロイスが驚愕のコーチビルド「ボート・テイル」を発表! 4年を費やし完成した「究極の贅沢」

Rolls-Royce ‘BOAT TAIL’

ロールス・ロイス ボート・テイル

富裕層が望んだ愛車の“オートクチュール”

何かを買い求めるとき、隅から隅までこちらの思う通りに仕上がっている商品なんてめったにお目にかかれない。サイズがほんのちょっとだけ大きいとか色がわずかに明るいとか、必要ない機能まで付いているとか、どこかしらに相容れない部分があって、でもそれは「些細なこと」と納得できるから、お財布を開いているのである。ところが富裕層の方々は経済的余裕があるがゆえに、こうした「些細なこと」でもどうにか排除して、自分が100%満足できる商品が欲しいと思い、それを実行する。

クルマ業界で“コーチビルダー”あるいは“カロッツェリア”と呼ばれるそれは、元々の由来は馬車の製造会社を意味していたが、顧客の要望に応じて主にボディや内装だけを1点モノのオートクチュールに仕上げる車体の製造・架装会社のこと。1960年代頃からロールス・ロイスにも、「マリナー」「パークウォード」「フーパー」といったコーチビルダーが存在していた。彼らが「ロールス・ロイスが欲しいけれど、もっと自分好みにしたい」という富裕層の強いこだわりに応えていたのである。

ロールス・ロイス ボート・テイルのフロントビュー

「コーチビルド」はロールス・ロイスの新たな柱に

ロールス・ロイスが公開した「ボート・テイル」はある顧客からの注文に応じて製造したコーチビルド・モデルである。ロールス・ロイス・モーター・カーズ最高経営責任者のトルステン・ミュラー・エトヴェシュ氏は次のようなコメントを添えた。

「本日、わたしたちは『ロールス・ロイス ボート・テイル』を発表できることを誇りに思います。同時に、コーチビルドが当社の将来のポートフォリオに永続的に存在していくことを確認いたしました」

ロールス・ロイス ボート・テイルのリヤビュー。ルーフ開

「歴史的にも、コーチビルドはロールス・ロイスにとってブランドのルーツとも言える重要な存在です。わたしたちはいつの時代においても、常にお客様の声に注意深く耳を傾けてきました。お客様はみなさん、真のラグジュアリーを追求した独創的製品をわたしたちと共に創造することで、ブランドとの関係を深めたいと考えていらっしゃいます。『ボート・テイル』は極めて特別な3人のお客様との4年間の共同作業の集大成でもあります」

「ロールス・ロイス・コーチビルドのお客様は、設計から製造に至る各段階で、それぞれ密接に関わっています。わたしたちはお客様の性格や個性や趣向といったニュアンスを正確に理解するために、コミュニケーションを丁寧にとりながら作業を進めていきます。お客様が製作過程の細部にまで参加するという機会をご提供できるのが『ロールス・ロイス・コーチビルド』であり、これこそが本物のラグジュアリーであると自負しています」

ロールス・ロイス ボート・テイルのリヤデッキ

「いままで見たことがないものを作って欲しい」

つまり、古の時代であれば「コーチビルダー」という外部の専門業者が手掛けていた仕事を、自社で対応する環境を整えたのがロールス・ロイス・コーチビルドということのようである。

そもそも2017年に、ロールス・ロイスは「スウェプテイル」と呼ぶモデルをお披露目している。これもまた、ある顧客の要望に応えた商品だったが、その後こうした依頼がロールス・ロイス本社にいくつか届くようになり、グッドウッドに常設のコーチビルド部門を新設したという経緯があったそうだ。

ロールス・ロイス ボート・テイルのキャノピー

今回の3名の顧客には、現代の船舶デザインに造詣が深いという共通点があったそうで、Jクラス(国際ユニバーサルルールでもっとも大きなクラス)のヨットの純粋なフォルムをモチーフにすることが決まった。同時に、ロールス・ロイスのシャシーに船体の造形を移植する「ボート・テイル・タイポロジー」を現代の手法で表現したいという、デザインチームが長年抱いていた願望とも一致していたそうだ。

顧客からは「いままで見たことがないものを作って欲しい」との注文があり、3台のクルマはボディこそ共通だが、細部についてはそれぞれの顧客の要望を採り入れることで合意を得た。実は、ロールス・ロイスは過去に「ボート・テイル」という名のモデルを発表している。顧客のひとりはロールス・ロイスのコレクターで、彼が1932年型のボート・テイルを所有していたことも、今回のコンセプトの一端になっていた。

ロールス・ロイス ボート・テイルの俯瞰目リヤビュー

ボンネットは手塗りのグラデーション

全長5.8mにも及ぶボート・テイルは、伸び伸びとしたプロポーションと上品な面構成に目を奪われる。フロントはパンテオン・グリルとヘッドライトの組み合わせによってこのクルマが紛れもないロールス・ロイスであることを主張する一方で、よく見るとパンテオンは専用の造形となっており、威厳のあるフォーマルな顔つきを若干柔らかくしている。

しかしこのクルマのデザイン上での特徴はやはりサイドからリヤへかけての部分だろう。左右に回り込んだウインドウスクリーン、後方に向けて天地方向に薄くなっていくサイドビューなどは、ボートをモチーフにしていることが明確に伝わるディテールだ。さらに、車両後部は後甲板を意味する「アフト・デッキ」と呼ばれ、“カレイドレーニョ・ベニア”を帯状に貼り込んでいる。リヤエンドに向けてテーパードしている様とあわせて、まるで船尾のような美しい造形となっている。

ボディカラーは顧客のお気に入りであるとともに海洋をイメージするブルーを基調に、フレークを混ぜて光の当たり具合によって輝く特注の塗料を採用。ボンネットは昨今のロールス・ロイスでは初めて、熟練工による手塗りのグラデーションとした。

ロールス・ロイス ボート・テイルのリヤデッキに格納されたカトラリーセット

リヤデッキに隠された“宝箱”

リヤデッキには特別な仕掛けが隠されている。ボタンを押すとデッキが蝶の羽根のほうに大きく開き、宝石箱のようなボックスが姿を現す。中には食前酒用と料理用のクリストフル社製カトラリーが収まっており、屋外での食事を楽しめるようにもなっているのである。もちろん冷蔵庫も備えており、シャンパンに強い思い入れのある顧客の要望に応え、ヴィンテージ・シャンパーニュの適正温度である摂氏6度まで急速に冷やすこともできる特注品である。

インテリアもエクステリアカラーのブルーを基調に上品にまとめられているが、目を惹くのが時計である。顧客のひとりがスイス・ボヴェ(BOVET 1822)社の時計のコレクターということもあり、ロールス・ロイスと協同で3年の歳月を費やして開発した特注のダッシュボード・クロックだという。車載時計としてトリムにセットできるのはもちろん、外して腕時計としても使えるとのこと。また、グローブボックスにはアルミニウムとレザーでしつらえたモンブランのペンが収まる専用のケースも備えられている。

ロールス・ロイス ボート・テイルのリヤビュー。リヤデッキ開

ボート・テイルは認証を取得した公道走行可能なモデルであり、シャンパンやカトラリーが走行中でも音を立てないようにするなど、他のロールス・ロイスと同等の動的テストを行った後に納車されたそうだ。「究極」という言葉が高級車に使われることが多いけれど、今後はロールス・ロイス・コーチビルド以外には使えないなと思った。

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)