佐藤琢磨が取材会で3度目のインディ500制覇を誓う「絶対的な速度を上げるべく予選からアプローチを変えていく」

 18日から走行がスタートする第105回インディアナポリス500マイルレース。インディ500連覇を狙う昨年のウイナー佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)がオンライン取材会で勝利への意気込みを語った。

 コロナ禍により異例の8月開催となった2020年のインディ500で、2017年以来となる勝利を挙げた佐藤琢磨。

 インディアナポリス・モータースピードウェイのロードコースで行われた第5戦GMRグランプリを終え、インディ500のプラクティス走行がスタートする前日にオンライン会見を行った。

 画面に現れた琢磨は、まず昨年のインディ500優勝を振り返る。

インディ500直前オンライン取材会に登場した佐藤琢磨
インディ500直前オンライン取材会に登場した佐藤琢磨

「インディ500は今年で12年目になります。2017年の初優勝の時もそうですが、たくさんの思い出があります。そして、昨年の2回目の優勝は、自分にとっても本当に特別な瞬間でした」

「2012年に優勝まであと一歩に迫って、1コーナーでダリオ・フランキッティとの争いの末スピンしてしまい、優勝できなかった時に在籍していたレイホール・レターマン・ラニガン・レーシング。そのチームに8年越しに優勝することができたことが嬉しかった」と琢磨。

 昨年はコロナ禍で無観客となったインディ500。まだまだ状況は収束していないが、今年は40パーセントに集客をしぼり、約14万人がインディアナポリス・モータースピードウェイで観戦することになる。

「パンデミックの最中だったので、観客がいないということがものすごく寂しかったです。インディアナポリス500マイルレースは100年以上の歴史もありますが、30万を超える観客との一体感、雰囲気がとてつもないエネルギーで、これこそがインディ500だとずっと感じています」

「レースにはもちろん集中していましたが、観客のいないグレー一色のグランドスタンドの中で走って、雰囲気がやっぱり足りないと感じていました。今年は14万人の観客が戻ってきます。まだまだ大変な状況の中で、14万人が入れることはすごいことだと思っています」

「インディカーもリーグとして、関係者全員にワクチンを提供してくれましたし、関係者以外とは接触しないバブルの中で安心してレースが行えています。インディアナポリス・モータースピードウェイも州や市と協力して、大量のワクチンを会場で接種できるように手配されました。観客もほとんどがワクチンを接種した状態でレースを観戦することになります」と観客が入ることがモチベーションになっているようだ。

 さらに世界で戦う日本人アスリートたちの活躍にも力をもらっていると語る。

「(全米プロゴルフ選手権のオーガスタを制した)松山英樹選手の活躍も、日本人にとって歴史的なことであり、テレビで観ていてすごく興奮しました。過去、日本人の選手がそれぞれの舞台で世界の頂点に立っており、自分も同じようにその中のひとりとして、レースができていることを重く受け止めています」

「頂いたチャンスなので、ディフェンディングチャンピオンとして全力でインディ500を頑張りたいと思います。言葉で『優勝する』と言うのは簡単なんですが、実際に連覇はものすごくハードルが高いと感じています」

インディアナポリス・モータースピードウェイを走行する佐藤琢磨の30号車
インディアナポリス・モータースピードウェイを走行する佐藤琢磨の30号車

 4月に行った事前テストでは2番手のスピードを記録した琢磨だが、マシンの状態には納得がいってないようだ。

「先月のテストでは、最終的に2番手タイムを記録しました。ニュータイヤを履いた状態で、集団走行でスリップストリームを使って出した速度で、自分の中ではなっとくがいっていない……」

「今年はエアロパッケージ変わって、前のクルマに近づきやすくなりました。全体のダウンフォースがものすごく増えただけでなく、空力効率が上がり、乱気流の中で効率よくダウンフォースを生み出すクルマになっています」

「昨年とはだいぶ違いますね。エアロスクリーンが付いてクルマの空力効率は2019年よりずっと落ちていて、2020年は走行時間が短い中でセッティングを合わせこんでいかなければならなく、優勝した僕たちはいちばんそれができたことになります」

「今年は昨年のベースに各チームがテストを重ねて、IMSでも2回テストがあり、明日から走行が始まる。その中で見えたことは、昨年よりもずっと前のクルマに着いて走るのが楽になっています」

「全体的に底上げされるので単独で逃げるのは難しい。その中でどれくらいのクルマが仕上げられるのか? 大きなチャレンジとしてチームと一緒に進めていきたいと思っています」と琢磨。

 最後に16日に行われたプロ野球MLBのエンゼルスvsレッドソックス戦で5連敗目前の9回2アウトから逆転ホームランを放ったエンゼルスの大谷翔平選手の活躍を引き合いに出し、意気込みを語った。

「最終的にどうなるかわかりませんが、ディフェンディングチャンピオンとして3つ目の優勝リングを狙って、全力を出していきたい。先日の(メジャーリーガー)大谷選手の素晴らしい逆転ホームランから気持ちとエネルギーを頂いて、どんな状況でもインディ500を頑張っていきたいです」

「今年観客が入ってくれること。こういう状況の中でも40%の観客を入れて開催するに至ったインディアナポリス関係者やスポンサー、そして支えてくれるファンの皆さんに感謝して、全力で頑張ります」と琢磨。

■絶対的なスピードを今年は追及

 参加メディアからの質問へと移ると、ひとつひとつに真摯に答え、アツい思いを1時間近く語った。

 昨年のインディ500ウイナーを使ってPRを行うのが伝統のインディ500。今年も琢磨がチケットやインディアナポリス・モータースピードウェイのゲートバナーに登場するなどインディアナポリスは琢磨一色となっており、そのことに質問が及ぶと昨年の経験を振り返る。

「2017年に勝って2018年にインディアナポリスに戻ってきた時も、恥ずかしくなるくらい街中が自分の顔でいっぱいでした。今回も街はバナーがいっぱいあり、実際のチケットを見れていないのですが、チケットの大きいボードを頂いたんです。これもすごく嬉しいですね」

「毎年、インディアナポリスの街をパレードするのですが、コロナのパンデミックで中止になってしまい、昨年は何十年もシーズンシートを買っているロイヤルファンにサプライズプレゼントを届けるイベントがありました」

「60年近くインディアナポリスに通っているおじいさんの家に行きました。連続でインディ500を観戦しているけど2020年は初めて行くことができない。なので、庭でエンジン音を聞きながら応援すると言ってくれました。歴代ウイナーののサインが書いてあるチェッカーフラッグを持っていて、自分もサインをさせていただきました」

「インディ500が人生の一部になっているようなファンの方が、ここを支えてくれているんだと胸が熱くなりました。レース期間中は全ドライバーの名前がストリートの名前になります。街全体が出場する33人のドライバーを称えてくれていると感じながら走ることができ、すごいイベントだと改めて毎年思いますね」とコメント。

 観客が返ってくるのは大きなモチベーションになっていると語る。

「生で観戦することがベストですよね。スポーツだけでなく、音楽や芸術のイベントもそうですが、五感で感じることで熱狂することができると思います。ロードコースのインディGPでも観客が入り、2019年の最終戦以来にドライバーズパレードを行いました」

「F1に上がって、2002年のメルボルンのドライバーズパレードで、外人の観客の中に混ざって、たくさん日の丸や“琢磨頑張れ”と声援が聞こえた時に涙が出るくらい嬉しかった。ドライバーズパレードがめちゃめちゃ楽しくて嬉しかった。それをインディGPで思い出しました」

「コースと観客が離れてはいるんですが、よく見えるんです。手を振ると半分くらいのお客さんがスタンディングオベーションで迎えてくれる。うれしかったですね。インディに来てくれるファンはずっと自分の歴史を見てくれているんだなと……。その景色を見た時に、やっぱりスポーツだと感じましたね」と琢磨。

 またエアロパッケージ変更による燃費について聞かれた琢磨は、「タービュランスの中で強いクルマになりましたが、ダウンフォースが上がりドラッグも上がりました。なので燃費は悪いです」

「難しい問題です。バージボードもディフューザーも自由で、単独で昨年までの燃費にすることはできます。それでは勝てないので、21年のはハイダウンフォース仕様に合わせこむしかない。ダウンフォースの効率を上げつつ、ドラッグを極限まで下げる方向にシフトすると思いますね」

「昨年まで32~33周まで引っ張れて走れたのが、1周少なくなる。全開で28周くらいのドラッグレベルになると思います。その状況だと一列の列車のような状況になってしまう。その中で勝つためにどうするかをこれからやらなければならいけない」

「先頭を走りながら、なるべく抜かれないくらいまでドラッグを削る。それだと2番手、3番手に落ち時に上がってこれず、10番手まで下がってしまったら絶対に上がってこれない。なので走っているトラックポジションと予選が大事になります」

「昨年の勝因は、コンシスタンシー。タイヤを持たせられる安定したクルマづくりでした。予選をそれで戦うと、トップチームに対してスピードが平均時速1マイルほど足りなかった。フロントロウに行けたのは平均値を上げたからです。最高速は1.5~2マイルくらい負けていますが、そこから平均値で勝った」

「レースでも同じですね。スタート直後はあっさり抜かれて3番手に落ちて、フレッシュタイヤの時は速く走りたくても走れない状況でした。ほかのクルマはタイヤが落ちていきますが、僕はほぼ落ちない状況に持っていき、抜かれても抜き返す。最後のディクソンの戦いでも、イエローの前の3周は引き離すかたちだった。タイヤをうまく使える状況になっていたからです」

「今年もラスト50周の2スティントでクルマを変えないで、最後の30周を全力で走ることができるマシンづくりを今年も考えています。ですが、今年はタイヤとタイムの落ち込みが昨年よりもずっと少なくなるはずなので、自分の強みであるタイヤが厳しくなった時にペースを維持できる戦略のアドバンテージが今年はないに等しい」

「なので、絶対的な速度を上げるべく、今年は予選からアプローチを変えるようプログラムを立てています。予選ではフロントロウを狙いますが、平均値を上げるだけでなく、絶対速度をトップチームと同じくらいにしたいですね」と今年のセッティングの難しさを語る。

 インディ500での今年のライバルを最後に聞かれた琢磨は、「(スコット)ディクソンが強いと思います。昨年途中で落ちてしまった(アレクサンダー)ロッシも強力なライバルになると思います。若手ドライバーもくると思いますね」とコメントし、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングの3台目のドライバーとしてスポット参戦するサンティーノ・フェルッチについても言及する。

「同じ環境、同じ道具を使うので、自分のチームメイトもライバルですね。サンティーノ(フェルッチ)は、昨年4位、ルーキーイヤーが9位だったと思うんですが、けっこう暴れん坊なイメージだったけど、昨年は最後コントールして4位に持ち上げており、彼もすごいと思います」

「昨年の決勝ではうまくいかなかったけど、アレックス・パロウもディクソンと同じものを手にしていると思うと強いと思うし、かなり乗ってきているパト(オワード)もそうですよね。言い出すとキリがないですね……でも、やっぱりディクソンがいちばんかな」と語った。

 インディ500は18日からプラクティス走行がスタートし、22、23日に出場33グリッドを決める予選が行われ、28日に最後のプラクティス走行であるカーブデイ。そして30日に決勝レースが行われる予定だ。

 ディフェンディングチャンピオンとして3度目のインディ500制覇を狙う佐藤琢磨。今年はどんな活躍をみせてくれるだろうか。