V12は存続? MTはディスコン? アストンマーティンが進める衝撃的な最新展開をムアースCEOに訊く

V12は存続? MTはディスコン? アストンマーティンが進める衝撃的な最新展開をムアースCEOに訊く

アファルターバッハを強化した実力者

アストンマーティンはいま変革のまっただなかにある。新しいCEOを迎え、モデル計画の見直しを進めるアストン。たとえば、ヴァルキリーはエンジンもデザインも変更、といったぐあいだ。同社の新しいCEO、トビアス・ムアース氏にオンラインで語ってもらった。

アストンマーティン ラゴンダの“いま”を説明する。このテーマで、限られた数のジャーナリスト向けのオンラインインタビューが実施されたのは、2021年4月20日。ホストは、2020年8月に同社のCEOに就任したトビアス・ムアース氏。クルマ好きなら、あるいはムアース氏が、それまでメルセデスAMGのCEOを務めていたことをご存知かもしれない。

ムアース氏は、これまで四半世紀にわたってダイムラーAGに籍をおき、AMG(メルセデスAMG)のCEOとして2013年以来、さまざまな開発計画に携わってきた。なかには、モデルバリエーションの多様化や、電動化プロジェクトなども含まれる。

2014年以来アストンマーティン ラゴンダの陣頭指揮をしてきたアンディ・パーマーCEOの後継者にムアース氏が選ばれた理由として「エンジニアリングの知識と、すぐれた製品計画と、利益率の高い企業運営の手腕」を同社ではあげている。

アストンマーティン ラゴンダのトビアス・ムアースCEO

新トップが語るアストンの“あるべき姿”とは

実際、英国ゲイドンにあるアストンマーティン ラゴンダのオフィスからのオンラインインタビューは、かなり衝撃的な内容だった。ムアース氏はちょっと気難しい経営者という印象があったが、今回はそれを払拭するように終始笑顔。ほほえみをたたえながら、12気筒エンジンの将来や、ラゴンダブランドの将来計画まで、大胆な内容を次々に語ってくれたのだった。

そのとき記事公開は5月12日以降と決められたので、この記事を届けられるまで、うずうずしていた。以下に一問一答のかたちで、アストンマーティンラ ゴンダのムアースCEOの発言を紹介していこう。

ムアースCEOが工場を止めたワケ

──ムアースCEOがアストンマーティン ラゴンダで最初に行ったのは工場の稼働停止、という記憶が鮮烈です。

「私は2020年8月に就任しました。そのとき驚いたのは、在庫が3000台もあったことです。アストンマーティンのようなメーカーにとって年産に匹敵する台数です(実際にアストンマーティン ラゴンダが掲げている台数目標は年産7000台)。エクスクルーシブな存在感がなにより重要なアストンマーティンにとって、在庫を持つという状況は好ましくありません。そこで工場の稼働を一時停止しました」

──対策はうまくいきましたか。

「おかげで2020年の年末までにストックがはけて、いってみれば配管の詰まりもなくなりました。ストックがないと、顧客は不満を持つのでは、という意見もあります。たしかに北米や中国ではとくにその傾向があります。でも半数以上のアストンマーティンの顧客は、自分好みの仕様をオーダーして納車を待つことを、むしろ楽しみにしているのです。ビルト・トゥ・オーダー(注文生産)もアストンマーティンの大きな魅力であります」

──アストンマーティンのいわば“体質”を変えようと考えていますか。

「アストンマーティンは、需要に応じて製品を作る(Demand-driven)会社であるべきと私は考えています。私たちは、販売店に行けば商品がバックヤードに並んでいるような商売をするのではないのです。重要なのはプロダクトの内容。たとえば年に9000台とか売ることばかりが念頭にくると、ブランドが毀損(きそん)してしまうんじゃないかと思います」

ヴァルハラはV8のミッドシップHVに

──新しいCEOとして、アストンマーティンの製品戦略を引き継いでいくつもりですか。

「私が就任したとき、なんの製品戦略もありませんでしたよ(笑)。会社はほんとうに資金不足だったのです。2020年初頭はとくにひどい状態でした。そこからなんとか頑張って在庫を処分して、2020年末はいい状態に持ち直していきました。いまは開発資金も得られて、新しい計画を練っているところです。たとえば、現存のスポーツカーシリーズはすべてフェイスリフトを行います」

──フェイスリフトだけですか。

「いやいや、いろいろなプランがあるんです。身近なところからいって、現行車のテコ入れを例に出したんです。それ以上のことだって考えています。たとえば、ヴァンテージ。ボディ剛性が高く、ねじれ剛性にもすぐれ、操縦性のポテンシャルはものすごく高いのに、世間の評価は不当に低い。私としては信じられないんです。ほんのすこし手を入れればうんと速くなるんです。こういうことでも、アストンマーティンは強くなる。可能性がいろいろあるんです」

──そのなかには、2021年に出るとされているヴァルハラも含まれますか。

「ヴァルハラについては、予定していた3.0リッターV6エンジンの開発を中止しました。V8を新たに開発してミッドシップします。もちろんハイブリッドです。スタイリングを今やりなおしているところで、かなりクールなクルマに仕上がると思います」

アストンマーティン ヴァルキリーのV12エンジン

12気筒+HVで1000馬力超のヴァルキリー!

──2022年のヴァルキリー、さらに次世代のヴァンキッシュという計画もありますね。

「ヴァルキリーは、直列6気筒なんていう噂もあったようですが、当初の予定どおり12気筒をハイブリッドシステムと組み合わせて1000馬力を超えるハイパワーをもつサーキット用マシンにしようと思っています。ヴァンキッシュは、これらとは違うプラットフォームを使う予定です」

──メルセデスAMGと積極的に共同開発をする計画もありますか。

「いまのところ、共同開発の計画はありません。ただし、(メルセデスAMGを傘下にもつ)ダイムラーAGは、アストンマーティン ラゴンダの20パーセントの株式を取得しているため、リソースを活用できる立場にあります。たとえば、メルセデスAMGのプラグインハイブリッド用プラットフォーム『P3』を供給してもらって、新しいモデルを開発する、とか。付け加えておくと、P3プラットフォームを使っても、AMG GT(73e 4MATIC)やポルシェ パナメーラと市場で競合するモデルにはしないつもりです。独自のポジションを見つけます」

12気筒はアストンにとって“特別”

──12気筒エンジンはまだ作り続けるのですね。

「たしかにアストンマーティンは将来ラインナップを電動化することを発表しています(2030年にラインナップの90%を電動化、と2021年3月に発表)。でも、やっぱりトルクがたっぷりある独特の乗り味を堪能できる12気筒エンジンは特別なものです。すぐには無くすことはないでしょう。いつか、このエンジンが時代にそぐわなくなる日は来るだろうから、そのときに(生産中止か否かは)考えることだろうと思っています」

──ヴァンテージに載せているマニュアル変速機はどうでしょうか。

「これについては、もっとはっきり言います。ラインナップから落とします。現行ヴァンテージが製造中止になるより前に、マニュアルシフトができるモデルはカタログからなくなります。たしかに、ポルシェなどは911 GT3にマニュアル変速機を用意します。ただマーケットが違いますよね。エミッションコントロール(CO2規制)のことなどを考えると、マニュアル変速機はアストンマーティンの生産規模に合わない、という結論が背景にあります」

アストンマーティンDBXのフロントビュー

まずはDBXの追加車種を2モデル投入

──ヴァルキリーやヴァルハラほどスペシャルではないモデルの計画はありますか。

「DBXの追加車種をまず予定しています。ひとつは2021年第4四半期に、さらにもうひとつを、2022年の第2四半期に発表することになるでしょう。DBXのために開発されたプラットフォームはすばらしい出来で、発展性もあります。ここから、さまざまなモデルが展開できると考えています。2023年までに10台の新車を出す計画です。おっと、ドイツのスポーツカーメーカーのなかには、追加車種を新車と数えているところもありますよね。それにならうとしたら、10台以上です」

──かつて、セカンドセンチュリープランを提唱していましたが、引き継ぎますか。

「2016年あたりですね。7年間で7台の新車を出す、としていましたね。それはもう存在しません。アストンマーティンは新しくなったと考えてください。2024年から25年にかけて、アストンマーティンの販売台数を1万台ぐらいに引き上げることも考えています。なにより大事なのは、内容の濃さであり、同時に利益率の高さですけれど」

気になるラゴンダブランドの行方は

──将来の計画のなかに、かつてピュアEVのラグジュアリーカーブランドにすると発表されていたはずのラゴンダも含まれていますか。

「ラゴンダは・・・なかなかむずかしい問題です。たしかに歴史のあるブランドで、いっときはアストンマーティンよりプレステージが高かった。なので、それを活かすべきかもしれません。でも今のところ、(EVブランドとなるべき)ラゴンダに多額のマーケティング費用を注ぎ込むぐらいならアストンマーティンに、と私は考えています。限られた投資を分散させるのは、いまのアストンマーティンにとっていいことではないでしょう。なにはともあれ、ラゴンダについては、近い将来、結論を出そうと考えています」

REPORT/小川フミオ(Fumio OGAWA)