レースに勝つも勝負どころで苦しんだホンダ陣営。エンジン燃費効率は大きな武器に【第2戦富士GT500決勝】

「クルマとエンジンがメーカーごとにどうだったかより、どちらかと言うとタイヤ……。それでスティントごとに『このメーカーのこのタイヤが速かった』とか、次のスティントは『これが速かった』みたいななかで、たまたま(レース距離も)110周で最後に4台になったのかな、って。見方を変えると、トヨタさんが第1スティントのタイヤを当てていたら、我々はもう全然叶わないなぁ、って」

 17号車Astemo NSX-GTが2021年初勝利を挙げ、第2戦という早い段階、そして富士スピードウェイという“敵地”を制した週末を、そんな謙虚な言葉で振り返ったのは、ホンダのGT500開発を率いる佐伯昌浩ラージ・プロジェクトリーダーだ。

 2年ぶりゴールデンウイーク開催の500km戦、2度のピット作業義務付け条件での勝負となった第2戦は、現行規定2年目を迎える2021年型では初の挑戦。昨季からFRとした新生NSX-GTとしてはもちろん、未知の耐久戦となる。

 昨季は都合4度の開催となった富士では4戦中3戦でフロントロウを獲得し、2度のポールポジションを射止めてはいたが、クルマの素性把握と持ち込みタイヤ選択の相関で「毎回手探り」の戦いを強いられてきた。

 そこから1年間の解析データを踏まえ、車両特性を整理した2021年仕様NSX-GTの開発では、車体側で「最高速で負けている部分に対して、最終コーナーからの脱出速度や誰よりもブレーキングポイントで奥までいけるような車体バランスの追求(ホンダ徃西友宏氏)」で対抗し、エンジン側では「出力向上と同じ程度の力の入れ具合で、パワーユニット全体の徹底した軽量化(佐伯LPL)」に取り組み、チリツモの努力を重ねて運動性能向上に寄与する方針を打ち出して来た。

 しかし、シーズン出だしの開幕岡山は上位4台をトヨタ陣営が占拠。最大40kgのサクセスウエイト(旧称:ウエイトハンデ)を搭載したライバルに対し、反撃を期した富士の予選日だったが、8号車ARTA NSX-GTがポールタイムまで0.003秒に迫る2番グリッドを確保したものの、1号車STANLEY NSX-GTは1コーナーでハーフスピン状態に陥り、17号車Astemo NSX-GTはトラフィックで満足にアタックできず。

 さらにダンロップタイヤを装着する2台も、16号車Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTは午前のギヤボックストラブルが祟り、64号車Modulo NSX-GTを含め「ダンロップさんに対して予選でのパフォーマンスというのが上手く車両側で引き出し切れないという部分もあって、ほんとわずかな差ですが敗退して(佐伯LPL)」しまう。

「開幕戦でもそうでしたけど、なかなかオーバーテイクするのが難しい車両。我々が選んでいるタイヤっていうのは安定したラップタイムが刻めるように。そうなっていれば、充分順位を上げていくレースができるんじゃないかな、という風に考えてます」と、決勝前に語っていた佐伯LPL。

「同じレベルであれば、なかなか抜けないというのが開幕戦でも同じことが起きてますので、なんとか我々が選んだタイヤを上手く使い切るっていうところ、そこがカギになると思います」

 その言葉を受けるかのように、フロントロウ2番手の8号車ARTA NSX-GT福住仁嶺はスタートで首位を奪うと、セーフティカーの余波で2番手に戻りながら粘りのレースを展開し、GR Supraとの間合いを詰めていくペースを披露。同じく後方では、リスタート時点で最後尾発進の1号車STANLEY NSX-GTがトップ10圏内に浮上。17号車Astemo NSX-GTも最初のピットストップウインドウ時点で今季初導入となったFCY(フルコースイエロー)の好機を捉え、第2スティントでトップへと浮上する。

スタートでポールスタートのWedsSport ADVAN GR Supraをオーバーテイクし、トップに浮上したARTA NSX-GTの福住仁嶺
スタートでポールスタートのWedsSport ADVAN GR Supraをオーバーテイクし、トップに浮上したARTA NSX-GTの福住仁嶺

■ARTAが見せた驚速ピット作業は燃費効率に優れている証左か

「はっきり言ってもっと苦しいレースになると思ってたんで、それに比べたら8号車が飲み込まれずに頑張ってた。『これはもう少し頑張れるのかな〜』って思ってたら段々タイヤが合わなくなってきて……」

 最終、第3スティントに向けては17号車の塚越広大を再び送り出す際に左フロントタイヤの脱着に手間取るというトラブルもあったにせよ、攻防を繰り広げた末に前に出られた36号車au TOM’S GR Supraや、首位浮上後に迫って来た14号車ENEOS X PRIME GR Supraに対し防戦の構え。さらに3番手の表彰台圏内を走行していた1号車STANLEYは、昨季最終戦とは逆のシチュエーションで37号車KeePer TOM’S GR Supraにフィニッシュ目前でパスされてしまう。

「8号車と17号車は、最後は2台とも同じ(種類の)タイヤを履いていました。8号車は結局、3スティントとも全部同じスペックでいったはずです。17号車は最終スティントだけ8号車と同じものにしましたが、第1、第2は同じ種類。なので8号車はスタートからゴールまですごい温度変化のあるなかで、1種類で走り切った」と明かしてくれた徃西氏。

 路面温度は決勝スタート時の35℃から終盤は24℃ほどまで低下しており、それだけの温度レンジを1スペックで走り切ったのは収穫。チームとしてイエロー区間のミスさえなければ確実に優勝戦線に留まっていた。

「まあそれがベストじゃないですけど、NSX-GTのなかでだと8号車がどのスティントもアベレージが良かったですね。デグラ(デーション)もなかった。ただ、スタート直後でもしっかりマッチしていた8号車のタイヤのままだと、さすがに……最後は厳しかったかもしれない」

 一方で、勝利を収めた開幕戦直後にライバル陣営をして「良かったんですけど、何かこう……素直に喜べない」「他社さんがこのまま終わるとは思えないので……」と言わしめたエンジン面に関しては、佐伯LPLが冒頭のコメントと変わらぬテンションで続ける。

「エンジン? ウチはもう常にフルパワーで走らせてるんで。これ以上、出せるものはないなぁ。ちょっと……使い方、考えようかな。ときどきこうパチって切り替えたら、ビュンと行くようなやつ(笑)」

 そう冗談混じりに振り返った佐伯LPLだが、依然として車体特性も含めたストレートスピードではGRスープラに分があるものの、昨季前半の富士2戦で多数目撃されたような圧倒的落差でのパッシングシーンはその数が減り、最高速が劣る分だけ戦いにくい決勝でも、粘るシチュエーションが増えたように感じられた。

 そして見逃せないのが最後のピットストップで8号車ARTAが見せた39.5秒という驚異的作業速度。これは給油時間の短さも意味するもので、今回はFCYが絡んで「燃費的には余裕ができた」状況ではありつつも、ライバルに対し明らかに静止時間が短い事実は、それだけ燃費効率に優れている証左のように受け取れる。

 また富士はそもそも感度が低いコースではあるものの、今回のNSX-GTはアンチラグもごくわずかながら使用するなど、ここでも燃料使用方法にバリエーションを出せる状況であることが窺える。

 改めて、車体開発を預かる徃西氏は「(サクセス)ウエイトが軽めのGRスープラ勢にぶっちぎられてもおかしくない、という想定もしていましたが、実際は開幕戦で成績が良かった重いクルマの仕上がりとレースペースが良く、そういう点で我々も順位を上げられた。でも基本は去年と力量差は変わっていない。ガチンコで勝ち切るというもうヒト押しの最後の戦闘力が必要だと再認識しました」と振り返れば、「やり返した……ほどではないですね。対他車という面で見ると、去年からあんまり大きく変わってないかな、っていう風な捉え方をしてます。最後のスティントで良いラップを刻めなかったっていうのは、そこは今後の課題」と佐伯LPL。

 同様に、ここまでの公式テストや実戦での数値から「ニッサンのエンジンも進捗の幅が大きい」と見ており、第3戦鈴鹿以降もわずかな開発領域で相手が進んだ分だけこちらも進む、一歩も引かない勝負が続いていく。

FCY(フルコースイエロー)の好機を捉え、第2スティントでトップへと浮上したAstemo NSX-GT
FCY(フルコースイエロー)の好機を捉え、第2スティントでトップへと浮上したAstemo NSX-GT
第2戦富士を制した Astemo NSX-GTの塚越広大/金石勝智監督/ベルトラン・バゲット
第2戦富士を制した Astemo NSX-GTの塚越広大/金石勝智監督/ベルトラン・バゲット