自動運転実現のために必要なインフラを考える「SIP」とは?【週刊クルマのミライ】

■「戦略的イノベーション創造プログラム」に参加する8団体が一堂に会するイベントが開催

2021年4月、東京お台場にて「SIP-adus自動運転実証実験プロジェクト」の進捗をアピールする試乗会が開催され、会場に8団体が集まりました。

自動車メーカーがトヨタ、日産、ホンダ、スバル。サプライヤーがコンチネンタルとヴァレオ、そして大学発の自動運転ベンチャーであるティアフォー、さらに自動運転の研究を進める金沢大学といった顔ぶれです。

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SIP第一期の成果である3D高精度マップを利用したクルマは増えている。ハンズオフが可能なアイサイトXを積むスバル・レヴォーグもそのひとつ

自動車メーカーは自動運転テクノロジーを採用した最新の市販車を用意。それ以外の団体は東京臨海部で実施されている実証実験に用いている試験車両を持ち込み体験試乗ができるというイベントでした。

筆者もスバル・レヴォーグに乗り、渋滞時ハンズオフを体感すると同時に、最新世代の運転支援システムである「アイサイトX」が実現する”未来の運転感覚”を味わうことができました。

上級ドライバー顔負けと断言できるほど巧みな車線変更の振る舞いなどリアルワールドで使える先進運転支援システムの最新を知ることができたのです。

さて、このイベントの中心となっているSIPとは「戦略的イノベーション創造プログラム」の略称で、日本の未来のために科学技術イノベーションを推進する国家プロジェクトのことです。

その中にはいくつものテーマがありますが、モビリティの未来につながる自動運転領域をカバーしているのが「SIP自動運転 」というわけです。ちなみに、今回のイベントにもつけられているadusというのは「automated driving for universal services」のこと。自動運転の実用化に向けたシステムやサービスについての実験を進めているところです。

SIP-adus試乗会には、トヨタ・日産・ホンダ・SUBARUといった自動車メーカーのほか、コンチネンタルやヴァレオといったサプライヤー、そしてティアフォーのようなベンチャー、金沢大学の8団体が参加した

そんなSIP自動運転がスタートしたのは2018年ですが、これはSIPでいうところの第二期。それ以前はSIP自動走行システムという名称で第一期の活動が行なわれていました。

そのときに生み出されたのが冒頭で紹介したスバル・アイサイトXでも使われている「ダイナミックマップ(高精度三次元地図)」です。このダイナミックマップ実現の道筋をつけたことで、アイサイトXのほか、ホンダセンシング・エリート、日産のプロパイロット2.0,トヨタのアドバンスドドライブといった運転支援システム、自動運転技術が実現しました。

このように技術自体は個社が競い合いますが、そのために必要なインフラ整備など協調領域に関する部分で尽力するのがSIPの活動方針です。こうした活動を国家プロジェクトで進めることにより、技術開発・法的整備・社会的受容という自動運転実現に重要なファクターがそれぞれの領域において成熟・進化しているのです。

自動運転について日本は規制が厳しくて世界に遅れを取っていると主張したがる人もいますが、ホンダ・レジェンドが世界で初めてとなる自動運転レベル3の市販化を成し遂げたように、SIPの活動などもあって、日本の自動運転はじつは進んでいるといえるのです。

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すでに10万個以上の出荷実績を持つというヴァレオのレーザースキャナーを搭載したテストカー

そして第二期となるSIP自動運転では、冒頭でも記したように東京臨海エリアにおいて一般道での自動運転に必要なシステムの進化とサービスの拡充を進めています。今回の試乗会に集まった、コンチネンタル、ヴァレオ、ティアフォー、金沢大学という4団体は、そうした臨海エリアにおける実証実験で使っているクルマの試乗や技術のプレゼンテーションを行ないました。

このエリアでは、33箇所の交差点すべてに自動運転向けにアレンジした信号情報を発信するタイプの信号機を備えるなど、いわゆる路車間通信といわれる領域での整備がどのように必要なのかの実証実験を進めています。

上記4団体の中で、たとえばヴァレオの使っているテストカーを紹介しましょう。

この車両の特徴は、自動運転に欠かせないレーザースキャナーと呼ぶセンサーだけで自動運転を可能としている点にあります。レーザースキャナーについては、すでに10万個以上の量産実績を持つヴァレオは、そのセンサーだけを使って市街地での自動運転を可能としているのがポイントです。

冗長性を考えれば複数のセンサーを搭載して、それをフュージョン(連携)させて利用するのが正攻法で、ヴァレオのテストカーでもカメラとレーザースキャナーをフュージョンさせていますが、レーザースキャナーだけでも自動運転を可能というほど、このセンサーのポテンシャルは高いということです。

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金沢大学のテストカーは自動運転における信号情報の必要性などを評価している

もう一台、金沢大学の実験車両についても紹介しましょう。

こちらは、自動運転ではオーソドックスなベロダイン・ライダー社のLiDARを軸にしたセンサーを搭載して市街地での自動運転を実現しているという車両です。ベースはレクサスRXですが、そのラゲッジスペースには制御コンピュータがぎっしりと詰め込まれているなど、いかにも実験車といった風情です。

これまでも長年、自動運転の研究を行ない、区画線が見えなくなるような雪道での自律走行についても独自のノウハウを持っているという金沢大学ですが、今回の臨海地区における実証実験では、信号機が発進する情報の必要性を検証することもテーマのひとつだといいます。

kanazawa-univ-system市街地での自動運転を実現するクルマの場合、そのほとんどがカメラによって信号を判別しているといいます。ですから信号情報がなくても自動運転は可能なのだそうです。ただしカメラだけで判別しようとすると逆光などで判別できないこともありますし、また信号を予測した制御というのも難しくなります。

ならば、すべての交差点に情報発信が可能な信号機をつけるのが理想ですが、それはコストアップになりますし、また日本中の交差点に高価な情報発信タイプの信号機を整備するのは現実的ではありません。

そうした視点から信号情報の発信の重要度を検証する必要があるわけで、金沢大学の実証実験によるデータは重要といえるのです。

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LinuxとROSをベースとしたオープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」を軸に、自動運転車の実装も手掛けるティアフォー社。無人タクシーの運用で多くの実績を持つ

このように、SIP自動運転(第二期)プロジェクトにおける臨海エリアでの実証実験は、市街地での自動運転に向けて必要な情報を収集、分析するのが目的といえます。こうした、ある意味で目立つ場所で自動運転の実証を行なうことは社会的受容の高まりにもつながることでしょう。

一般道での自動運転実現には、複雑な一般道のダイナミックマップ作成というハードルも越えなければいけないのですが、日本の自動車業界が自動運転領域において世界のトップを走り続け、安全な移動体験が一日でもはやく実現できる日が楽しみですし、そのためにもSIP自動運転の活動を応援したいと思うのです。

自動車コラムニスト・山本晋也