フォルクスワーゲンが大きく変わる。IDシリーズ以降の未来を小川フミオが考察する

フォルクスワーゲンが大きく変わる。IDシリーズ以降の未来を小川フミオが考察する

ID.4 GTXやEV版ワーゲンバスを続々投入

独フォルクスワーゲンは、カーボンニュートラル(CO2排出量ゼロ)に向けて、いま、全力疾走している感がある。2021年4月29日には、朝9時に始まり夕方6時まで、同社の積極的な取り組みを「Way To Zero(ゼロへの道すじ)」と題してオンラインで紹介してくれた。

日本のメーカーもかくやと思わせる充実した内容の、オンラインのコンベンション(大会)だった。そこでは、バッテリー製造からサプラインチェーン(部品供給)、製造、さらに充電インフラや街そのもののありかたに至るまで、内容は多岐にわたった。

欧州では2030年までに乗用車1台につきCO2排出量を40%低減するというブランドシュテッターCEO

日本時間夕方4時のスタートにおいて、まず、フォルクスワーゲンCEOのラルフ・ブランドシュテッター氏が登壇。「フォルクスワーゲンでは2025年までにトータルで140億ユーロ(約1兆8445億円)を投資して、車両だけでなく部品や製造の現場に至るまで、大きくゼロエミッションの実現をめざします」とした。

「2030年までには14台の新型車のうち9台をピュアEVとします。これからの新型車のスケジュールは、2021年4月28日(コンベンション前日)のID.4 GTXに始まり、2021年終わりにID.5、2022年にID.BUZZ(タイプ2の現代版)、さらにエントリーレベルのコンパクトなピュアEVと、さまざまなモデルを計画しています」

「Way To Zero」で提示されたピュアEVの発表計画

「古びないデザインこそ、サステナブル」

ここで紹介したいのはデザインだ。ゼロエミッションとデジタル化というふたつの大きな波が避けられないいま、ID.(アイディー)シリーズというピュアEVを続々送りだしているフォルクスワーゲンは、じつに積極的にクルマを変えようとしているとみることが出来る。

フォルクスワーゲンがこれからのクルマのカタチはどうあるべきだと考えているか。興味津々のテーマではないか。どんどんEVのラインナップが拡充していくフォルクスワーゲンブランドのヘッドオブデザイン(デザイン統括)を務める、スロバキア出身のヨゼフ・カバン氏(1973年生まれ)が登場した。

「使うひとのためのデザイン。これがフォルクスワーゲンの基本です。これから私たちが意識するのは、リサイクル性、サステナブル性、それに動物由来の素材(牛革など)を使わないことです。サステナビリティのなかには、長く使われることも含まれます。タイムレスデザイン、つまり古びないものこそ、サステナブルだととらえて、新しい世代のクルマに取り組んでいます」

フォルクスワーゲン、アウディ、シュコダと移ったあと20年からフォルクスワーゲンのヘッドオブデザインを務めるカバン氏

ビートル、ゴルフ、そしてID.4へ

カバン氏が提示したのは、3台のフォルクスワーゲン車。ケーファー(甲虫)とドイツでは呼ばれることもあるタイプ1ビートル、1974年の初代ゴルフ、そして2020年のID.3だ。どれも個性的なルックスで記憶に強く残っているモデルといえる。

「審美性(見た目のよさ)もさることながら、私は、フォルクスワーゲンのデザイナーがもっともやらなくてはいけないのは、そのクルマの目的に合致したデザインをすることだと考えています」

「タイプ1が出たときは、なるべく多くのひとが移動の自由を享受できるような価格とパッケージがもっとも重要な要件でした」とカバン氏。ゴルフ1は、パッケージングの要件に加えて、エンジン性能や空力性能など最新の技術による走りの向上。そして今回のID.シリーズは、さらにもうひとつ、求められている要素を満たすために設計されたという。

2021年4月28日に発表されたID.4 GTXは220kWのパワーを持ち静止から100km/hまでを6.2秒で駆け抜ける

クルマと腕時計は似ている

「私は、クルマと腕時計は似ていると思うんです」。そう語るカバン氏の背後には、高級そうなクロノグラフの線描が映し出された。腕時計には、デジタルもあれば精密クロノグラフもあるし、また、買いやすいものもあれば超がつくほど高価なものも、というぐあい。ただし、これからはそれでは済まない、とコバン氏は言う。そのとき背後に映し出されたのは、Apple Watchを連想させる、いわゆるスマートウォッチだった。

「これまでの腕時計は、価格にかかわらず、主要な機能は時間を計ること、と共通しています。でもスマートウォッチの機能は、あきらかに従来の腕時計とは違います。メッセージの交換もできるし、体調を管理することも可能です」

ゴルフにおけるGTIと同様の位置づけ、とされるID.4 GTX

思い出したジョブスの言葉

たしかに、それで思い出すのは、アップルの操業者のひとりで、2011年にガンで他界するまで同社を引っ張ってきたスティーブ・ジョブスが生前、理想のコンピューターについて語っていた言葉だ。

ジョブスは、2001年に日本のNHKの取材班からのインタビューに「これまでコンピューターは計算とワープロの機能があればいいと考えられてきましたが、コンピューターにはもっとたくさんの機能があります。感情を伝え合うという新しい側面に光が当たり始めていると考えています」と答えた(大意 NHKスペシャル取材班『Steve Jobs Special ジョブズと11人の証言』講談社)。

レッドの挿し色などでスポーティが強調されたID.4 GTXのダッシュボード

その結果(のひとつ)として、文中で例にあげられていたのが、映像処理アプリ「iMovie」だ。撮影した画像や動画をかんたんに編集できれば使うひとの生活が楽しくなる、という点をジョブスは強調していた。

「クルマもどんどん、使うひとのニーズを満たす機能を充実させていく方向へと進むでしょう」と、カバン氏は似たようなことを言う。

2021年4月の上海自動車ショーではID.6をはじめID.ファミリーが並べられた

「本来の目的に合致したデザイン」という原点へ

「2030年にフォルクスワーゲン車の70%がピュアEVになれば、車内のユーザーエクスペリエンスの内容もより充実するでしょうし、自動運転がレベル4になれば、クルマのありかたが大きく変わるはずです」

そのなかには、スマートデバイスに準じた機能も含まれるようだ。先に「古びないものはサステナブルである」というテーゼについて触れたとおり、たんなるカタチでなく、機能などがオンラインでアップデートできれば、クルマも常にフレッシュであり続けられるからだ。

“EV版のワーゲンバス”として登場が期待されている「ID. BUZZ」のコンセプトカー

「私の個人的趣味からいうと、デザインは本来の目的に合致していてほしい。いままで一部のクルマでは、機能を偽装するような見せかけのコスメティクス(飾り)があったのは事実です。実際の排気量よりうんと太く見えるエキゾーストパイプのカッター(先端にはめる飾りの部分)なんて、フェイクもいいとこです」

「新しい時代のクルマでは、そういうものを不要としたいです」とカバン氏。クルマの未来は、ID.シリーズから生まれるかもしれない。そう思わせるオンラインでの取材だった。

REPORT/小川フミオ(Fumio OGAWA)