【GT500開発最前線・トヨタ編】アンチラグを使っても「ホンダさんと同じ周回数でピットに入る」燃費改善への気概

 空力開発は完全凍結。モノコックやサスペンションなども共通パーツ。各社が独自要素を盛り込めるエンジンにしても大型部品は登録制で開発に規制がかけられている、2021年現在のスーパーGT GT500クラス。「じゃあ、クルマは昨年と同じでしょ?」と思いたくもなるが、ホンダ、トヨタ、ニッサンの3メーカー開発陣は2021シーズンに向け、開発の許されるわずかなエリアで改良を施してきている。しかもその努力の一部は、すでに結果となって現れつつある。

 ここでは、メーカーの開発担当者への取材から、2021年型GT500マシンの進化を探る(取材は開幕前に実施)。前回のホンダ編につづき、今回はトヨタ編をお届けする。

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■“燃料節約に最適なコーナー”まで徹底して洗い出し

 2020年シーズン、この年4度目の開催となった富士での最終戦では、GRスープラ37号車が最終コーナーをトップで立ち上がったところでガス欠症状により失速。この結果、手にするはずだったタイトルを失った。この出来事は、TRD(TCD)でエンジン開発を率いる佐々木孝博氏を悔しがらせた。

「私はあまり燃費を気にするのは好きじゃないのですが、最終戦でああいうことがあったので、よく振り返ってみました。あとどれだけ燃料があったらゴールできたんだと。昨年は鈴鹿ともてぎでセーフティカーが入り、先にピットに入って給油した者が勝ちました。そういうことを考えると(ピットストップ)ウインドウは大事で、そのタイミングで入っても走りきれるようにエンジン側で準備しておくべきだと考え、取り組みました」

 ドライバーに燃費を気にして走るよう指示するのが、ひとつの方法だ(これについては後述)。しかし、ドライバーに我慢を強いずに要求を満たすのが佐々木氏のスタンスである。だからドライバビリティを悪化させずに、燃費を向上させるべく開発に取り込んだ。

「燃費に自信があるホンダさんと同じで、今年はウチも自信があります。ホンダさんと同じ周回数で入ります。ホンダさんはアンチラグを使っていないそうですが、ウチはアンチラグを使っても同じ周回数で入ります」

 アンチラグを適用しなければ、燃費は向上する。しかしドライバーからコンプレインが漏れる。それは開発の本筋ではない。19年まではコスワース(ペクテル)製のECUを使っていたが、改変規定導入の20年からはボッシュ製ECUを使うことになった。そのECUに合わせたアンチラグの制御をいったん固めたが、まずはそこを見直し、少ない燃料でアンチラグを効かせたうえでドライバビリティを両立させた。

 それだけではない。いざとなったらドライバーの助けを借りることが必要になるシチュエーションが出てくるかもしれない。しかし、ドライバーに「リフトオフしろ」と指示するだけでは雑にすぎる。

 そこでレースを行なうすべてのサーキットについて、どこのコーナーの何メートル手前でリフトオフすると何%燃費が良くなり、しかも抜かれにくいか、最適な場所を洗い出した。全サーキットをベンチで走らせた後、サーキットで走って相関を取り精度を高めている。ここまでやるほどに、20年最終戦の出来事はショックであり、責任を感じたということだ。

2021スーパーGT第1戦岡山 KeePer TOM’S GR Supra(平川亮/阪口晴南)
2021スーパーGT第1戦岡山 KeePer TOM’S GR Supra(平川亮/阪口晴南)

■「他愛もない部品の不具合」で我慢させていた20年

 性能向上面の準備はしているが「その前にやらなければいけないことがあった」と佐々木氏は言う。実は20年は「他愛もない部品」の不具合により、エンジンが持つポテンシャルをフルに引き出すことができない状態での走りを強いられていた。

「後半戦で37号車に我慢して走ってもらったのは、不具合を抱えていたからです。20年前半のエンジンはウイークポイントを抱えたままレースをしていました。第1戦や第2戦で不具合が起きていれば後半戦に投入する2基目で対策をとることができたのですが、間に合わないタイミングで発覚したので、終盤戦も性能を出し切ることができませんでした」

 燃焼圧を上げると具合の悪い症状が起きてしまうので、セーブせざるを得ない。レース中にオーバーテイクしたいときはパワーを優先するマップに切り換えたが、長時間使うわけにはいかないので恐る恐るだった。

「レース中にオーバーテイクでパワーを使わなかったら寿命が残るので、そのぶんは次に使える。そういうやりくりをしていました。21年はそこが解消したので、20年の段階でもともと持っていたポテンシャルが使えることになります。20年も予選ではフルに性能を出していたのですが、21年は使える時間が長くなるので、そうなるとレースの戦況もだいぶ変わってくると思います」

 そのうえで「プラスアルファを検討中」で「ふたを開けてのお楽しみ」と気を持たせる。

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 この他、シミュレーション技術の向上が開発にもたらした変化など、2021年シーズンに向けたトヨタ陣営の開発の全容は、本日5月1日発売のauto sport臨時増刊『2021スーパーGT公式ガイドブック』内にて詳しく語られている。