【中野信治のF1分析/第2戦】今は許される角田のミス。早くも1ポイントをせめぎ合うチャンピオン争い

 いよいよ始まった2021年F1シーズン。ホンダF1の最終年、そして日本のレース界の至宝、角田裕毅のF1デビューシーズン、メルセデス&ルイス・ハミルトンの連覇を止めるのはどのチームなのか……とにかく話題と期待の高い今シーズンのF1を、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が解説。ドライバー、そしてチーム監督、そしてレース解説者としてのファン視点と、さまざまな角度からF1の魅力をお届けします。第2戦は難しい路面状況で多くのアクシデント、スピンが起きましたが、その背景を中野氏が解説します。

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 2021年F1第2戦エミリア・ロマーニャGPは、またしてもレースは盛りだくさんの内容になりましたね。まずは予選ですが、やはり残念だったのは角田裕毅選手(アルファタウリ・ホンダ)のクラッシュですね。クラッシュしたターン14~15(ヴァリアンテ・アルタ)は、DAZNの中継でも、非常に難しいコーナーだとお伝えしてきました。

 イモラ・サーキットは僕がF1で走行していたときからレイアウトが変わっていますが、2016年にヨーロピアン・ルマン・シリーズで走行したときとは同じです。F1で走行しているときから、ヴァリアンテ・アルタは難しいコーナーでした。

 ヴァリアンテ・アルタは、その前のターン11~12のアクア・ミネラリを抜けてから、ずっと上りが続いた後のシケインです。結構内側の縁石が非常に高くて、マシンを縁石に乗せる角度が重要なコーナーになります。そこでうまくブレーキングポイントを見つけなければいけないのですが、ブレーキングポイントが見えづらいと言いますか、アクア・ミネラリから登って、登ってそこから一瞬下るので、クリッピングポイントやブレーキングポイントが掴みづらいコーナーです。

 ですので、ついつい行き過ぎてしまったり、止まりきれずにブレーキを踏みすぎてしまったりということが結構あります。予選での角田選手のミスに関しては、若干オーバースピードでターン14に入っていったために内側の縁石につけませんでした。あのコーナーはターン14の右コーナーからターン15に向けて左に旋回するところで路面がうねっていて平らな路面ではありません。

 そういった路面のアンジュレーション変化があるので、タイヤのグリップの仕方が一定ではなく、いろいろな要素が重なって非常に難しいコーナーになっています。角田選手のドライバーエラーと言えばドライバーエラーですが、行き過ぎて縁石につけず、オーバースピードでリヤが出てしまうミスがとにかく起こりやすいコーナーです。

 角田選手もちょっとした油断というか……油断とはまた違うと思いますが、予選前のフリー走行での『トラフィック・パラダイス(フリー走行中に渋滞につかまった角田が無線で発したひと言)』無線のように、思うようなタイムが出せずにストレスが溜まっていて、きちんとしたアタックができないということがあったので、角田選手はクルマは良いのに内心は気持ちよく走れていない状況だったように見えます。

 さらにチームメイトのピエール・ガスリーの調子が良かっただけに、それを逆に予選でパフォーマンスを爆発させたいという気持ちも角田選手にはあったと思います。そういった心理的な状況からも、クルマに慣れてきて『よし行ってやるぞ!』というときにミスをするという、新人に起こりやすいミスでイメージがしやすいです(苦笑)。

 角田選手もまだF1参戦2戦目ですからね。いろいろとトライしていくことは良いことですし、あのミスもフリー走行からの流れによるものだと思います。自分自身のメンタルをどうコントロールするかも含めて、今回は多くのことを学んだと思います。

2021年F1第2戦エミリア・ロマーニャGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)が予選でクラッシュ
2021年F1第2戦エミリア・ロマーニャGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)が予選でクラッシュ

 そのほかに予選で目についたのは、レッドブル・ホンダではセルジオ・ペレスの調子が良かったり、マクラーレンのランド・ノリスが好調だったりと、イモラ・サーキットが得意なドライバーと、そうではないドライバーで結果も分かれたのかなとも思います。

 このコースは特殊と言えば特殊で、かつて、それこそシケインができる前はストレートが結構長くて高速サーキットのイメージがあったのですが、新しいレイアウトになってから数字的な速度はそれほど高くはありません。ただ、コース幅やランオフエリアが狭かったりするので、速度域が高くなくてもドライバーにとっては非常にスピード感が高く感じるサーキットです。

 そういった、高い速度からシケインに向けてクルマの向きを一気に変えて走っていくようなコースでので、その走らせ方にタイミングが合っているドライバーが速さを見せていました。ノリスなどは典型的にその走らせ方に合っていました。

 ペレスはこのコースに、そこまで合っているわけではないと思っていましたが、意外でしたね。ペレスにとっては、速度域がそれほど高くないということが対応しやすかったのかなと思います。あとはレッドブル・ホンダのマシンの扱いも、ペレスは2戦目でなんとなく答えが見えてきたみたいに感じます。このコースだけでは一概に判断できないですが、今年のレッドブル・ホンダのマシンは、昨年よりもドライバーにとっては運転が優しいイメージを受けました。

 マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)も予選ではミス(ターン3出口で膨らむ)があったので、そのミスがなければ当然ポールポジションを獲得していたと思います。ルイス・ハミルトン(メルセデス)がポールを獲得しましたが、クルマのポテンシャル的にはレッドブル・ホンダの方が速いように見えました。

 そして予選ではやはり、ポールを獲得したハミルトンの走りですよね。本当に秀逸でした。メルセデスは明らかにレッドブル・ホンダよりも予選一発タイムが出るようなマシンには見えなかったのですが、ハミルトンは本当にうまくクルマを前に進めていました。

 メルセデスのクルマはそれほどリヤがしっかりしているようには見えず、縁石を使いすぎるとクルマが暴れてしまうので、縁石を使うのは最小限に留め、いつものハミルトンの走りとは全然違う走らせ方をしていました。今回はクルマが相当きつかったと思います。オンボード映像を見ていてもそうでした。本当に細かい技を駆使してクルマを暴れないようにうまく走らせて、あのタイムを捻り出したという感じでした。

 決勝レースに関しても、ミスと言っては可哀想なコンディションのなかで、トップドライバーたちのギリギリな走りが見られ、かなり見ごたえがありましたね。レースでは燃料を積んで走るので、またクルマのバランスが異なりますが、レッドブル・ホンダが優勢だなというのは予選を見た印象で受けました。

 トップ争いについては、あのハミルトンがなかなかしないミス(周回遅れをオーバーテイクする際に濡れた路面で止まりきれずコースアウト)をしました。ひさびさにハミルトンのミスを見たというか、ある意味『おっ、ハミルトンもミスをするんだな』という感じでホッとしました(苦笑)。

 あの路面状況だったからこそ起こるミスということもありますし、どうしてもトップまで追い上げたい気持ちもあったので焦りというか、若干急ぎすぎた感はありました。あの濡れた路面の上ではブレーキを手前にしても追い抜けないので、ターン7(トサ)ではまだオーバーテイクに行くべき状況ではなかったと思います。イン側の濡れた路面が空きましたが、あそこは冷静に考えれば行かずに我慢して、その後のストレートで追い抜くというのがセオリーだったと思います。

■フェルスタッペンもハミルトンもコントロールを乱すドライバー泣かせの難しい路面

 一方、フェルスタッペンも赤旗後の再スタートで一瞬ハーフスピンをしてしまい、飛び出しそうになりながらもぎりぎりでコースに戻るという場面がありました。あれも難しい場面でしたね。結局、気温と路面温度がかなり低く、雨上がりの路面でμも低いなか、スリックタイヤでのリスタートはピットアウトしてからの1~2周もそうですが、非常にリスクが伴います。

 いかにドライバーが慎重に走らないとミスを犯してしまう状況のなかでレースをしているかということが、フェルスタッペンのハーフスピンでわかったと思います。それだけ難しいコンディションだったわけですが、フェルスタッペンはギリギリのところでコースに戻って来れたので、本当に運が良かったですね(苦笑)。

 それからバルテリ・ボッタス(メルセデス)とラッセルのクラッシュもありましたが、あのクラッシュもお互いがそれぞれのポジションでどっちも悪いことをしていないのに、『どうしてお前はそんな動きをするの!?』という風に見えたのだと思います。僕はDAZNの中継ときからレーシングアクシデントと言っていたと思うんですけれど、どっちが悪いとも言えません。ボッタス側だと左に曲がってまた左コーナーへのブレーキングポイントです。

 雨上がりの路面で2コーナー(タンブレロ)へのアプローチのイン側は若干濡れていました。ラインは基本的に1本しかなくて、ボッタスはイン側を抑えに行っているけれど、そのままイン側を行くと濡れたところを走らないといけない。そこで若干右にラインを取りたいのがボッタスの心情です。左~左に曲がっていくコーナーなので若干右に寄ってしまいました。

 そして、ボッタス的には1台分アウトに残しているつもりのはずです。ただ左~左に曲がっているコーナーなので、アウト側のラッセルにはボッタスのその一瞬の動きが大きな動きに見えてしまって、必要以上に右に動いてしまいました。ラッセル的には車線が残っていなかったから飛び出したという感じでした。コース幅も狭いですし、ラッセル的にも飛び出すつもりはなかったけれど、少し右側のタイヤがはみ出してしまい、当然ランオフエリアは濡れているので左側に巻き込んでしまいました。

 お互いがもっと慎重になれば、もしかしたら防げたかもしれない。それはタラレバなのでなんとも言えないですが、これでボッタスとラッセルにとって何らかの学習になったのではないかと思います。本当に際どいアクシデントでした。

 そして、エミリア・ロマーニャGPのドライバー・オブ・ザ・デーはノリスでしたが、今回のノリスはいい走りを決勝レースだけではなくしていて、予選ではトラックリミットでタイムを抹消されてしまい、悔しい思いをしたいと思います。

 ですがレースでは本当に落ち着いて最後まで走り、終盤のソフトタイヤもどうなのかなと思ったのですが、きちんと持たせてタイヤマネジメントもしっかりとしていました。レース後半も抑えきることはできませんでしたが、ハミルトンと綺麗なバトルを繰り広げて、本当に見せ場を作ってくれました。

 ノリスは本当に走りにすごくキレがあるドライバーです。以前のハミルトンチックな走らせ方をするのですけど、コーナリングしてポンッとクルマの向きを素早く変えて、誰よりも早くアクセル踏むイメージでクルマを走らせています。その走らせ方がイモラのサーキット特性にすごくあっていたと思いますし、クルマの動きが自分のイメージどおりになってくれると、本当に『おっ!』という速さを見せてくれる走らせ方でもあります。

 フロントに頼りすぎない走らせ方というのは、逆に言うと年齢が若いときでないとできない走らせ方です。ノリスは若いので反射神経もまだまだいいですし、いろいろな部分を含めてこれから数年はいいと思います。そういう若いときにしかその走らせ方・動かし方はできないので、本当に今回はチームメイトのダニエル・リカルドに対しても圧倒的なスピードを見せていました。

2021年F1第2戦エミリア・ロマーニャGP ランド・ノリス(マクラーレン)とルイス・ハミルトン(メルセデス)

 一方の角田選手ですが、まともに走っていれば……ということもありますが、ハーフウエットでの難しいスタート直後に順位を上げたのはさすがだなと思いました。前がごちゃごちゃしていたのもありますが、冷静に周りを見ながら無理をせずに走っていたように思います。ラップタイムも安定していましたし、本当に彼らしいレースの組み立て方で順位を上げていき、スリックタイヤに変えるタイミングもすごく良かったです。

 スリックタイヤに変えたのはチーム、角田選手のどちらが主導したのかは分からないですが、あの状況で早めにスリックに変えるのはそれなりに勇気もいります。ですが、早めに交換してきっちり順位も上げていきました。あの辺りは本当に冷静に対処していたように見えましたし、6~7位まで追い上げるかなと思いましたが、その後のリスタートでスピンをしてしまいました。

 あのスピンは内側の縁石に乗せてちょっとクルマのバランスを崩した状況でしたが、リスタート直前にフェルスタッペンがハーフスピンしていたので分かるとおり、タイヤが冷えていて本当に難しい状況でした。その1周目にブレーキングで行き過ぎてしまたたり、縁石に乗せすぎてしまうと、どうしてもタイヤのグリップの出方が急激に変化してしまいます。そのあたりは経験なのかなと思いました。

 角田選手は2コーナーイン側の縁石にマシンを乗せたのですが、思った以上に縁石に乗せた後のマシンの姿勢が乱れて、タイヤのグリップもなくなり、そのままスピンしてしまったように見えました。

角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第2戦エミリア・ロマーニャGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

 角田選手の前を走行していたのはハミルトンなので、前に出ることも考えてイメージしていたと思います。相手が誰であろうと、自分自身のイメージで走ることが大事で、そのイメージを変えないようにすることがとても大事です。角田選手のスピンも単なるミステイクではあるのですが、自分で考えた結果のミスという風にも見えたので、僕はあまり予選のクラッシュと決勝のスピンに関してネガティブに見ていません。『攻めた結果のミス』ということですね。

 レースは結局、今季2戦目でレッドブル・ホンダのフェルスタッペンが勝利しましたが優勝争い、そしてタイトル争いはハミルトンとがっぷり四つな感じに見えます。そして、今後大接戦になることが予想されることが分かっているので、ハミルトンとメルセデスは最後にきっちりとファステストラップの1ポイントを獲りに来ました。

 今の段階から1点にこだわったような、シーズンエンドに向けた戦いがすでに始まっています。もちろんレッドブル・ホンダもハミルトンとの接近戦は予想していると思いますが、それだけ両チームのマシンの実力は拮抗しているのだと思います。

 ここからメルセデスが調子を上げてくるかもしれないですが、メルセデスもこの2戦を見ても、結構、パフォーマンスはいっぱいいっぱいなんだなということもわかりました。レッドブル・ホンダとしてはなるべく前半戦でたくさんポイントを稼いでおきたいとですよね。

 今後も似たような戦いが続くという予想ができますが、これまで以上にタイヤの選び方・使い方、ポイントの稼ぎ方やチームメイトも含めた戦い方などの『チーム力』というのが試されると思います。見ている側としてはかなり面白いですが、やっている方は痺れますね。本当の意味での『チーム力の戦い』を見ることができるので、我々としてはさらに見どころが増えて面白いと思います。

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中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
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