ロールス・ロイスがカリナン ブラック・バッジに込めた「したたか」な戦略【Playback GENROQ 2020】

ロールス・ロイスがカリナン ブラック・バッジに込めた「したたか」な戦略【Playback GENROQ 2020】

Rolls-Royce Cullinan Black Badge

ロールス・ロイス カリナン ブラック・バッジ

反逆の証明

ロールス・ロイス躍進を支えるカリナンに強烈な個性を放つブラック・バッジが登場した。V12エンジンやブレーキなど随所に手が加えられ、さらに魅力を高めたその中身を確かめた。

ロールス・ロイス カリナン ブラック・バッジのインテリア

「なぜ、ロールスはブラック・バッジをラインナップするようになったのか?」

ロールス・ロイス初のSUV、カリナンにブラック・バッジ仕様が追加された。ゴースト、レイス、ドーンにも用意されるブラック・バッジは、その名のとおりダークカラーをあしらったエッジーなデザインを採り入れるとともに、走りの面でもダイナミックな要素をほのかに加えたシリーズ。これがことのほか人気で、モデルによっては40%を越えるシェアを得ているという。

なぜ、ロールス・ロイスはブラック・バッジをラインナップするようになったのか? そこには同社の巧妙な販売戦略が隠されていた。

「10年前、ロールス・ロイスのお客さまは平均年齢が56歳でした」と切り出したのは、同社のチーフエグゼクティブを務めるトルステン・ミュラー-エトヴェシュ。「しかし、近年はこれが43歳まで若返っています。驚くべきことに、この数字はMINIさえも下回っており、ロールス・ロイスはいまやBMWグループでもっとも顧客の平均年齢が若いブランドとなりました」

ロールス・ロイス カリナン ブラック・バッジのシート

「若い層に注力したラインナップを構築し、それにマッチしたプロモーションを展開」

ミュラー-エトヴェシュが現職に就任したのはおよそ10年前。その直後に市場の詳細な将来予測を行ったところ、今後はIT産業や投資などで巨万の富を築く若者が急速に増えるとの結果が得られた。そこでロールス・ロイスはこれまでより若い層に注力したモデルラインナップを構築するとともにこれとマッチしたプロモーションを展開。結果として若年層の取り込みに成功しただけでなく、既存の顧客層からの支持も獲得したという。

「長年のお客さまのなかには老舗ブランドのかじ取り役を務めていて、今まさにそのブランドの若返りに取り組んでいる方が少なくありません。そういった方々が私たちの変革にも深い共感を覚えてくださったのです」とミュラー-エトヴェシュは付け加えた。

広い意味で捉えればカリナンもロールス・ロイスの新しい方針に沿って誕生したモデルといえる。そのターゲット層はなんと20代もしくは30代。ビジネスシーンですでにロールス・ロイスを愛用している彼らが週末に家族で出掛けるクルマを想定して開発されたのがカリナンなのだ。

ロールス・ロイス カリナン ブラック・バッジのサイドビュー

「傑出した静粛性は標準仕様とまったく同じ」

その端的な例がロールス・ロイスにしては細いCピラーを採用した点にある。通常、ロールス・ロイスでは後席乗員のプライバシーを確保するため、Cピラーを極端に太くしている。しかしカリナンは6ライト・ウインドウのもっとも後ろの窓を通常より拡大した。外の眺めをよくし、後席の子供を退屈させないようにしているのだ。

ここでカリナン ブラック・バッジと短いツーリングに出かけてみることにしよう。ダイナミックな走りを目指したからといって、カリナン ブラック・バッジが騒々しいエンジン音を響かせたり足まわりが極端に引き締められているわけではない。傑出した静粛性は標準仕様とまったく同じ。乗り心地は、足まわりに鋭い入力が加わったときにはドスッという鈍いショックが伝わるものの、その程度はごく軽く、しかも荒れた印象は一切与えない。ファントムに続いてこのカリナンにも採用された新ボディ構造“アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー”は、ときとして従来のロールス・ロイスより一段硬めのダンピングを感じさせることがあるが、カリナン ブラック・バッジの場合もその延長線上にあると考えれば納得できる範囲だ。

ロールス・ロイス カリナン ブラック・バッジの走行シーン

「速いペースでコーナーリングしてもロールはわずかで、これは異例中の異例だ」

カリナンでワインディングロードを本格的に走るのは今回が初めてだが、想像した以上にスポーティな走りを楽しめたのはブラック・バッジのおかげだったかもしれない。かなりのペースでコーナーに進入してもロールはわずか。カリナンの高い着座姿勢を考えれば、これは例外的なことといえる。一方、ステアリングを切り始めた直後は軽いアンダーステアも看取できるが、一度態勢を整えてしまえば、そこからスロットルペダルを踏み込んでいっても走行ラインがアウトに膨らんでしまうことはないので安心感は強い。

当然ながら29ps/50‌Nm増となった、600ps/900Nmを生み出すV12 6.75リッターエンジンの力強さにはまったく不満を覚えない。急な上り坂のワインディングロードでも、気がつけばハイパフォーマンスなスポーツカーと同じ速度域に到達していたといえば、その実力をわかっていただけるだろう。しかも車検証の記載車重は2.9トンに迫るのだから、恐ろしいほどのパワーといって間違いない。それでいてどんなに大きな負荷をかけてもエンジンはただ粛々と回るだけでその存在を強く訴えることはない。また、発進のときに一切のショックを感じさせることなく、「ヌルッ」と動き始める様はほかのロールス・ロイスとまったく同様。この点ひとつとっても、彼らが考える「真のラグジュアリーカー像」が明確に現れているかのようだ。

ロールス・ロイス カリナン ブラック・バッジのリヤスタイル

「若い顧客の期待に応える選択肢としてブラック・バッジをアピール」

キャビンの仕上がりは、いかにもロールス・ロイスらしいものだった。明るいパープルのレザーはやはりブラック・バッジ向きだが、周囲のインテリアから浮いている印象は薄く、むしろブラックのレザーとの相性は良好でしっくりと馴染んでいる。もちろん、レザーの手触りは極上で、「手のひらに吸い付くよう」とはまさにこのことと思えるほどしなやかな感触だ。

同じインテリアでいえば試乗車にはウッドではなく凝った網目模様のカーボンコンポジットがフェイシアに用いられていた。もっとも、その織り目も光にかざしてようやくわかる程度でそれほど主張は強くなく、ブラック・バッジにぴったりの素材。この辺はロールス・ロイスの提案力を物語っているように思う。

総じて、ブラック・バッジはベースであるカリナンの本質的なバリューを保ちつつ、刺激的なスパイスをひとつまみだけ加えた味付けに整えられているように思う。ちなみに、ロールス・ロイス自慢のビスポーク・プログラムを活用すればブラック・バッジとほとんど変わらない外観に仕上げることもできるらしい。では、なぜブラック・バッジは誕生したのか?

「若い顧客の期待に応える選択肢をロールス・ロイスが用意していることを示すショーケース」これこそブラック・バッジの役割ではないかと私は睨んでいる。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/平野 陽(Akio HIRANO)

【SPECIFICATIONS】

ロールス・ロイス カリナン ブラック・バッジ

ボディサイズ:全長5340 全幅2000 全高1835mm
ホイールベース:3295mm
車両重量:2750kg
エンジン:V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:6748cc
最高出力:441kW(600ps)/5250rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/1700-4000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/45R22 後285/40R22
最高速度:250km/h(リミッター作動)
CO2排出量:377-370g/km(WLTP)
車両本体価格:4530万円

※GENROQ 2020年 4月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。