【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第2回】“次に繋がるレース”を目指した開幕戦。ミックの能力と成長に嬉しい驚き

 2021年シーズンで6年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。苦戦を覚悟で迎えた今年の開幕戦は予想通りの結果に終わったというが、「自分たちのやるべきことに集中する」というチームの方針に沿ってミック・シューマッハーはよくやってくれたという。そんなハースの現場の事情を、小松エンジニアがお届けします。

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2020年F1第1戦バーレーンGP
#9 ニキータ・マゼピン 予選20番手/決勝リタイア
#47 ミック・シューマッハー 予選19番手/決勝16位

 開幕戦の週末を迎えるにあたって、ニキータとミックには「自分たちのことに集中しよう」と伝えました。というのも、今のウチの状況ではまだ他のチームとバトルをすることには無理があるので、とにかく自分たちにできることを考えて、やるべきこと、改善できることをひとつひとつやっていかなければいけないのです。レースでは完走することが第一目標で、ふたりでバトルするのではなく、きちんと2ストップ戦略をこなして、タイヤマネジメントができれば必ず次に繋がるということを話しました。

 レース結果は残念ながら想像していた通りになりましたが、ミックは僕が言ったことをを理解してよくやってくれました。一方ニキータはスタート直後に単独スピン、クラッシュを喫してリタイアとなりました。これは特に初戦では絶対に避けなければいけないことで、大きな反省点です。前回のコラムでも書きましたが、ニキータには天性の速さがあります。遅いドライバーを速くすることは難しいですが、速さのある粗削りなドライバーをなんとかいい方向へ導いていくことは可能なので、チーム一丸となってやっていきたいです。

ニキータ・マゼピン(ハース)
2021年F1第1戦バーレーンGP スタート直後に単独スピン、ウォールにクラッシュしたニキータ・マゼピン(ハース)

 ミックのレースを振り返ると、第1スティントではセーフティカー解除後にターン4でスピンをしたので、その影響もあってペースは悪かったです。反対に、よかったのは第2スティント。彼には色々な指示を出しましたが、それらすべてをこなしてくれました。さすがにまだウイリアムズのジョージ・ラッセルとは比べられませんが、第2スティントで同じC3(ミディアム)タイヤを履いていたニコラス・ラティフィと比べると、ミックは良いタイムを刻んでいました。第3スティントはC2(ハード)タイヤを履きましたが、この時のフィーリングも良くて安定して走ってくれました。

 もうひとつよかった点として挙げたいのは、第3スティントで青旗を掲示された時です。青旗が出される際はチームの方から「何周後に誰が追いついてくるから、それまでにタイヤの温度を上げて」などと指示を出すのですが、それもきちんとできていました。抜かせた周はタイムロスがちょっと大きかったのでそこは反省点ですが、そのすぐ次の周には青旗前と同等のラップタイムまで戻していました。

 これについて「よくやったね」と声をかけると、ミックは「抜かせる場所に注意した。自分がDRSを使える場所で抜かせて、抜かれた直後のストレートで常にDRSを使ったんだ」と言いました。初戦でここまで落ち着いて考える余裕があったというのは嬉しい驚きです。

 この週末、ミックはすべてにおいてよくできたわけではありませんが、落ち着いて物事にアプローチしていたなと思います。人の話を聞く耳を持っていて、聞いたことを自分なりに消化する。そしてそれをドライビングに反映できるかどうかという部分でも、できている部分がかなり多かったです。自分のこともそれ以外のことも観察して、話をよく聞いて、頭のなかで整理してそれを行動に移せるというのはすごい能力だと思います。

ミック・シューマッハー(ハース)
2021年F1第1戦バーレーンGP ミック・シューマッハー(ハース)

 もちろん改善点はあります。たとえばスタート直後にはセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)にすぐに抜かれましたし、先にも書きましたがセーフティカー後のスピンもそうです。ピットストップでは、本来止まるべき場所よりも行きすぎてしまい、ピットアウト時にはかなりホイールスピンをさせて加速が鈍ってしまいました。

 話は前後しますが、予選の時にミックのデータやGPSを見ていて、うまくいかなかったなと思ったコーナーがいくつかありました。予選後にミックと話していると、こちらから何かを言う前に「ここのコーナーではプッシュしきれなかったけど、こっちでは突っ込みすぎた」と反省点を話してくれたのですが、ミックが挙げた箇所というのは僕がうまくいかなかったなと思ったところと同じでした。

 つまり彼は自分がどこでクルマの限界を引き出せていないのかをよく理解しているということですし、それは強みでもあります。これも前回書いたことですが、彼は改善点をネガティブに捉えることはせず、いい意味でハングリーです。自分の悪いところをわかっていれば、それを修正するチャンスはありますからね。

 ミックも56周のレースででいろいろなことを学びましたし、チームもデータをたくさん収集できました。とはいえまだ1レースを終えただけですし、今シーズンは23戦と長いので、今後もこのような姿勢でやっていってほしいと思います。

ミック・シューマッハー(ハース)
2021年F1第1戦バーレーンGP ミック・シューマッハー(ハース)
2021年F1第1戦バーレーンGP ニキータ・マゼピン(ハース)
2021年F1第1戦バーレーンGP ニキータ・マゼピン(ハース)

■ハミルトンとフェルスタッペンが優勝を争えるのはF1にとってポジティブなこと

 開幕戦を終えて、同じフェラーリ製パワーユニット(PU)を使うアルファロメオとのギャップは結構あるな、という印象です。ただ今回の開幕戦に関して言えば、アルファロメオに対してミックがいいペースで走れていた場面もありました。ですから、まだまだ差を詰められる可能性はあると考えています。

 PUのパワーについてはデータにも出ていましたが、ある程度取り戻しています。ウチは特にレースに向けて強引にダウンフォースを削って直線スピードを稼ぐといったことはしていませんが、それでもストレートで大幅に遅れをとることもありませんでした。フェラーリの予選結果を見てもそうですよね。メルセデスとルノーとの差は縮まっていると思います。

 他メーカーで言えば、やっぱりホンダが伸びているのではないかと思います。現状で一番能力のあるマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)とルイス・ハミルトン(メルセデス)が優勝を争えるというのは、F1にとってもいいことです。予選でもQ3では最初のアタックでふたりがほぼ同じタイムで、最後のフェルスタッペンのアタックはすごかった。土曜の夜サーキットを出る時に、田辺(豊治/ホンダF1テクニカルディレクター)さんに思わず「すごいですね」と声をかけてしまいました。

マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)
2021年F1第1戦バーレーンGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)

 レースではハミルトンがアンダーカットを仕掛けてなんとか2ストップ戦略で勝ちましたけど、こういう戦いがシーズンを通して続けばファンの方々にとってもいいことですよね。できればそこにフェラーリのシャルル・ルクレールも加わることができれば最高なんですけど。

 それからピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)も予選はよかったですね。ウチはアルファタウリと戦っているわけではないので、彼らのことはタイムしか見ていませんが、角田裕毅選手が初戦を9位で完走したというのは評価されてしかるべきだと思います。

 あとはF1に復帰したフェルナンド(・アロンソ/アルピーヌ)も予選では頑張りましたね。彼は予選一発が速いタイプのドライバーではないけれど、他のドライバーがミスをするなか、アルピーヌをQ3までしっかりと持ち込んだのはさすがです。Q3で彼の無線を聞いていたのですが、アウトラップの早い段階で、落ち着いて何台もいる前のクルマとのギャップをうまく調整していました。フェルナンドだから当たり前のことですが、彼はやっぱり常に状況を俯瞰して把握することができるんですね。今回彼のレースをしっかりと見たわけではありませんが、今後が楽しみです。

ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第1戦バーレーンGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)
フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)
2021年F1第1戦バーレーンGP フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)