中嶋一貴が語るダラーラSF19とトヨタGR010ハイブリッド。富士で見られそうな『走りの違い』

 春の訪れとともに、待望の2021シーズンが間もなく幕を開ける。注目すべきシリーズ、そしてドライバーは数多いが、今年も『世界』と『日本』、それぞれの最高峰に立つべく邁進する男がいる。中嶋一貴だ。

 4月4日に富士スピードウェイで開幕する全日本スーパーフォーミュラ選手権では、2014年以来となる3度目のタイトル獲得を目指してVANTELIN TEAM TOM’Sからエントリー。そして5月1日にベルギーはスパ・フランコルシャンで開幕予定のFIA WEC世界耐久選手権には、TOYOTA GAZOO Racingからエントリーを果たす。

 昨年まで3年連続でル・マン24時間レースを制している一貴は今年、LMP1に代わる新規定『ル・マン・ハイパーカー(LMH)』に基づいた新型レーシングカー、『トヨタGR010 HYBRID(以下、GR010)』をWECにデビューさせる大役も担っている。ル・マン4連覇に大きな期待がかかるのはもちろん、日本のファンにとっては9月に富士スピードウェイでこの新型マシンを目にすることができることも、2021年の楽しみのひとつではないだろうか。

 今回は多忙なシーズンを控えた一貴に、スーパーフォーミュラ参戦マシン『ダラーラSF19』とGR010、2台のレーシングカーの印象を聞いた。

 2019年からスーパーフォーミュラにおいて使用されているSF19について一貴は、「基本はSF14の延長で、車重が軽くて空力・ダウンフォースがとてもよく効く、非常にコーナリングスピードの速いクルマです」とその特性を語る。

「空力では、SF14に比べてとくにフロントが強くなった印象です。フロント(のダウンフォース)を出すのは比較的簡単ですが、それに対してリヤをどう出してあげるかが難しいクルマですね」

「(SF19導入)当時はタイヤがミディアムとソフトの2種類あり、いかにミディアムをうまく使うかが重要でしたが、結構苦労した印象があります」

「ただ、クルマとしては全体的に変なクセがなくて扱いやすく、特性も全体的にマイルドだと思います」

 一方、取材時点では2度のテストでステアリングを握ったというGR010について、「規定によって車重が(LMP1時代のTS050ハイブリッドより)重くなっているのと、ハイブリッド含めたトータルのパワーが下がっているので、スピードレンジ的には(スーパーGTの)GT500に近くなっているかもしれません」と一貴。

 1周あたりの燃料使用量規定が撤廃されたことによって、ストレートエンドで燃費をセーブする『燃料カット』が行なわれなくなったことも、ドライバーにとっては新鮮だという。

「燃料カットは入らないですし、ブレーキングに関しても回生を考える必要はなく、スーパーフォーミュラやGTと同じようにブレーキングするだけです」

 昨シーズンまでのTS050では低速から四輪でモーターアシストが使えたため、コーナー立ち上がりで強力な加速を得ていた。しかし、LMHではMGU(モーター・ジェネレーター・ユニット)の搭載が許されるのはフロント車軸のみ、かつ120km/h以上(スリックタイヤ装着時)でないとMGUからのパワーアシストが得られないルールとなった。

「リヤ(エンジン)だけで加速している段階と、フロントも使える段階ではフィーリングはもちろん違います。基本、ルール的にハイブリッドの有無で差が出ないようになっているはずなので、タイヤの摩耗や温度など、細かいところにしか(ハイブリッド=四輪駆動である)アドバンテージは見出せないのではないでしょうか」

今季のWECデビューに向けテストが進められているトヨタの新型ル・マン・ハイパーカー、GR010ハイブリッド
今季のWECデビューに向けテストが進められているトヨタの新型ル・マン・ハイパーカー、GR010ハイブリッド

■富士TGRコーナーでのブレーキングポイントの違いは?

 ここからは、少々強引ではあるが「富士スピードウェイを舞台にSF19とGR010を比較したら」というテーマで、一貴に話を聞いた。

「規定が違うので、レーシングカーとしてのパフォーマンスとしては、SF19の方がすべてにおいて高くなりますね」

 これはもちろんGR010がSF19に対して性能面で劣っているというわけではなく、GR010が立脚するLMH規定が、より多くの参戦メーカーを呼び込むために開発ハードルを下げているがゆえのこと。

 両車のスペックで最も大きな差となっているのは、車重だ。スーパーフォーミュラを戦うSF19ではドライバー込みで670kgのところ、WECのGR010ではドライバーを含まない状態でも1040kg。ドライバー込みでは1100kgを超え、両車には400kg以上の差があることになる。

 たとえばそれは、富士の長いホームストレートエンド、TGR(1)コーナーへのブレーキングで顕著に表れそうだと一貴は言う。

「SF19が1コーナー手前100mでブレーキングを開始するとしたら、GR010は150mとかになるのではないでしょうか」

 なお、かつて一貴がドライブしていたスーパーGTのGT500マシンのブレーキングポイントは「意外にも、スーパーフォーミュラよりも少し手前くらい」だという。

「GT500はタイヤの性能が高く、ピークのダウンフォースもありますからね。いまのLMHは、以前のLMP1にあったハイダウンフォース仕様/ローダウンフォース仕様といった空力の使い分けが許されないルールです。LMHはどちらかと言えばル・マン寄りの空力パッケージとなるので、ル・マン以外のサーキットでは、昨シーズンまでよりだいぶダウンフォースが少ない状態で戦うことになります。そのあたりも、差が大きくなる要因でしょうか」

 車重や空力性能の差はコカ・コーラコーナーやトヨペット100Rコーナーでも表れそうだ。

「クルマが軽いしグリップもするので、SF19の方がライン取りに自由度がありそうです。100Rの入口も幅広く取れますし、出口で外側まで行っても戻って来られる。冬のテストでは基本、全開ですしね。それに比べるとGR010ではやはり車重の違いもあるので、100Rは小回りする(イン側の)ラインになるはずです」

「ただ100RについてはGT500でも小回りした方が、グリップすることが多い。レースウイークは走っている台数も多いので、内側のグリップがどんどん高くなっていくんです。LMHでもGT500と同じように、よりインサイド、インサイド……となっていくかもしれませんね」

 繰り返しになるが、両車の差はあくまで規則の差である。そして、産声を上げたばかりのGR010については「伸びしろ」も多く存在する。

「僕らが開発陣にお願いしているのは、『レースで強いクルマ』。トラフィック(周回おくれ)を処理するときのダウンフォースの抜けなどを減らしてほしい、とリクエストしています」

 間もなく始まる新シーズン、コロナ禍においてグローバルな移動を強いられる一貴にとっては、各国の移動規制や隔離期間などは頭の痛い問題となる。WECのカレンダー変更によりスーパーフォーミュラ開幕戦には出場ができる見通しだが、「現時点では、何レース(スーパーフォーミュラに)出場できるのか不透明な部分はあります」と一貴。

「だからこそ、出られるレースを大事にしたいと思っています。富士は昨年の最終戦、そのあとのテストと、正直いい感触はなかったのですが(苦笑)、幸い開幕前に富士でのテストもありますし、そこできっかけをつかんで開幕戦はいいレースにしたいですね」

 GR010のデビューシーズンとなるWECに関しては「開幕が遅れたことでしっかりと新車の準備ができる。そこはポジティブに捉え、レースを戦っていきたいです」と一貴は言う。

「ただ、今年はルール的にはどんなクルマでもイコールになりますし、(ライバルである)グリッケンハウス、アルピーヌともに、ドライバー含めてまったく油断できない相手。自分たちの仕事をして力を出し切らないと、勝てるレースを落としてしまうことになりかねない。しっかりと気を引き締めて、開幕に臨みたいと思います」

 秋に控える富士での6時間レースについては、「正直、まだそこまではイメージできていないです」と一貴は素直に打ち明ける。

「ただ、昨シーズンの富士のレースがなくなってしまったことで、チームの中でも『富士、行きたいよね!』という声は多いんです。まずは無事にレースが開催されることを願っています」

 ニューマシンのGR010は当然、気になるところではあるが、まずはF1に次ぐ速さを誇るスーパーフォーミュラのSF19を富士で体感しつつ、秋に来日するGR010を見て、2台のマシンが富士スピードウェイを力強く駆け抜ける姿を目に焼き付けたい。

規則の違いが大きいため、レーシングカーとしてのポテンシャルはSF19がGR010を上回る(写真は2020年)
規則の違いが大きいため、レーシングカーとしてのポテンシャルはSF19がGR010を上回る(写真は2020年)

■SF19&GR010スペック比較/富士スピードウェイコースレコード(参考)

■ダラーラSF19&トヨタGR010ハイブリッド 主要諸元比較

ダラーラSF19 トヨタGR010ハイブリッド
全長 5233mm 4900mm
全幅 1910mm 2000mm
全高 960mm 1150mm
車重 670kg(ドライバー搭乗時) 1040kg
エンジン排気量 2000cc 3.5L
仕様 直列4気筒直噴ターボ V型6気筒直噴ツインターボ
エンジン出力 405kW(550ps)以上 500kW(680ps)
ハイブリッドパワー 200kW(272ps)

■富士スピードウェイ 主要カテゴリー コースレコード比較

カテゴリー レコードタイム 記録年/ドライバー
F1 1’17″287 2008年/フェリペ・マッサ
スーパーフォーミュラ 1’19″972 2020年/野尻智紀
LMP1 1’22″639 2015年/マーク・ウェバー
GT500 1’26″386 2020年/山下健太
LMP2 1’28″011 2018年/ロベルト・ゴンザレス
スーパーフォーミュラ・ライツ 1’31″370 2020年/宮田莉朋
F3 1’33″309 2018年/坪井翔
GT300 1’34″665 2020年/川合孝汰