S660は2022年3月で生産終了を発表。累計4万台に届くか?販売台数からスポーツ軽自動車の存在を考えてみた【週刊クルマのミライ】

■デビュー当初の月販目標は800台。2020年実績は2747台。現時点での累計生産は3.2万台

2021年3月12日、ホンダの軽スポーツカー「S660」が生産終了を発表しました。あわせて、事実上のファイナルエディションといえる特別仕様車「Modulo X Version Z」を発売することも発表されました。

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モデューロXバージョンZのメーカー希望小売価格は315万400円。6MTだけの設定だ

デビューした2015年3月30日から約6年での衝撃的な発表です。ただし、実際に生産が終わるのは2022年3月ということで、まだ一年猶予があるということになります。

S660の生産終了に対してさまざまな声があります。スポーツカーの継続性のなさについて批判的な声もあります。騒音規制やAEBS標準化といった規制の影響を指摘する声もあります。しかし、筆者としては「歴史は繰り返す」「欲しい人に行き渡ったのだろう」というのが正直な感想です。

たとえば、平成のABCトリオと呼ばれたマツダ・オートザムAZ-1は兄弟車CARAとの合計で約5000台、ビートの累計生産台数はおよそ3.4万台、カプチーノは2.7万台で、おおよそのイメージでいえば軽自動車の2シータースポーツの市場規模は累計の販売台数ベースで6万台程度となっていました。

このABCトリオがいずれも消えたのちに孤軍奮闘したダイハツ・コペン(初代)の生産台数は輸出仕様を含めても約6.6万台です。日本国内でいえばおよそ6万台の市場規模というのは変わりません。

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ボルドーレッドをアクセントとしたインテリアはモデューロXに共通の仕様だ

現在、軽自動車の2シータースポーツカーはダイハツ・コペン(2代目)と、今回生産終了を発表したS660の2モデルで、まったく違う個性により市場に人気を二分しています。

仮に日本の自動車市場における「この手のモデル」の市場ニーズが累計6万台程度だとすると、それぞれ3万台くらいでリミットを迎えると考えるのが市場調査的には妥当な判断といえるでしょう。

そしてS660の累計生産台数は2021年3月時点で約3.2万台に達したといいます。つまり、市場ニーズは十分に満たした、そろそろ潮時といえるタイミングではあるのです。

実際、デビュー時には一年近いバックオーダーを抱えていたS660で月販目標である800台を超えるフル生産が行なわれていたといいますが、2020年の販売実績は2747台であり、月販平均は200台余りとなっています。生産能力を考えると、まだまだ作れるのに売れていないという状況になっているわけです。

ですが、今回こうしてあと一年での生産終了が公式発表されたことで、S660を新車で買える最後の一年になることが明確となりました。電動化が進む中、軽自動車のみならずミッドシップに純粋なターボエンジンを載せたスポーツカーが再登場する保証はありません。まさにラストチャンスの到来です。

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モデューロX専用アルミホイールはステルスブラック仕様。ドリルドタイプのブレーキローターも備わる

そうしたラストチャンス感によって、これまでずっと迷っていたオーナー候補の多くが、ハンコを押すことを決断すればS660の販売台数はデビュー時のような勢いを取り戻すかもしれません。

もし、そうしてS660の生産能力を目いっぱい引き出すような受注が集まれば、これからの一年間で、9000台程度の新しいS660が生まれる可能性もあります。そうして累計生産台数で4万台を超えることができるのかどうか、注目ではないでしょうか。

とはいえ、最後の特別仕様車「Modulo X Version Z」の315万400円というメーカー希望小売価格を見ると気持ちが萎えてしまうという人も多そう。

ただし、S660の標準車がなくなるわけではありません。エントリーグレードのβは203万1700円、αは232万1000円のメーカー希望小売価格となっています。こちらも軽自動車と考えると高価ですが、2シーターのミッドシップスポーツカーというくくりで考えれば圧倒的にリーズナブル。

はたして、最後の一年間にS660はどれほどの受注を集めることができるのでしょうか。

(自動車コラムニスト・山本晋也)