不気味な緊張感が漂っていたスーパーGT岡山公式テスト。チャンピオンを争った2チームが抱える不確定要素

「気分はワイスピな感じでした」

 スーパーGT岡山公式テスト初日、午後のセッション最後で1分18秒121という全体のトップタイムを刻んだRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GTの大湯都史樹は、独特な表現で渾身のアタックを振り返った。その言葉にチーム2年目の笹原右京は「迷言ですね」と思わず口元を緩めた。

 大湯は、難所マイクナイトに「ワイルドスピードみたいに、クルマが壊れてもしょうがないくらいの勢いで飛び込んだ」という。

「もちろん壊さないですけどね。クルマがじゃじゃ馬なので、アクセルを戻すときに足を痙攣させながら(開度を)微妙にコントロールしていました。それにしてもGT500は難しいですね」

 結果的に大湯が記録したそのタイムが、2日間をとおしてのベストとなった。GT500ルーキーの大湯が最速だったことだけでなく、ダンロップタイヤ装着車が全体のベストだったのもサプライズだった。過去4年間を振り返ると、岡山のテストでダンロップ装着車がここまで速かったことはなかったからだ。

 昨年まで、GT500のダンロップ装着車は64号車、すなわちModulo NSX-GTの1台のみだった。しかし、今シーズンはRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GTがヨコハマからダンロップにスイッチ。彼らが新しいシューズをいかに履きこなすのか、大きな注目が集まるなかでのトップタイムだった。

 昨年、ダンロップを履くModulo NSX-GTは、レースで2回ポールポジションを獲得し“一撃”の速さはすでに証明していた。それでもウエイトや燃料リストリクターなど全車ハンデがない状態でのトップタイムは、やはりインパクトが大きかった。全車完全には手の内を見せないテストであったとしても、以前よりパフォーマンスが向上しているのは間違いないだろう。

「昨年まで履いていた(ヨコハマ)タイヤとは特性がまったく違ったので、最初は戸惑いましたが、2日間を走ってだいぶ理解が深まりました。一発のピークは非常に高いのですが、ロングランでのパフォーマンス低下が大きく、そのバランスをとることが今後の課題です」と笹原。

 今回のテストでは基本的に笹原がセットアップを担当し、ある程度仕上がったところで大湯が乗り、ニュータイヤを試しながら経験を積むというアプローチがとられた。

 予選は速いが、決勝での落ち幅が大きいのがダンロップの弱点であり、今回のテストである程度の改善は見られたようだが、それでもブリヂストンを履くSTANLEY NSX-GTと比較すると、依然ロングランでのタイム低下は顕著だった。今後、それをどう改善するかが大きな課題である。

Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT
Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT
笹原右京と大湯都史樹
笹原右京と大湯都史樹

■昨年チャンピオンを争った2チームが抱える不確定要素

 GT500ルーキーとしては『FIA-F2帰り』の松下信治も速さを示した。佐々木大樹に代わりカルソニック IMPUL GT-Rをドライブすることになった松下は、4セッション中3セッションでチームメイトの平峰一貴を上まわるタイムを出すなど実力を発揮した。走行条件が異なるとはいえ、松下の速さはチームにとってもニッサン陣営にとってもポジティブな要素に違いない。

 ニッサン系チーム総監督の松村基宏氏は「平峰と松下はどちらもアグレッシブなドライビングなので、クルマのセッティングも含め相性はいいと思います。一方、佐々木の針に糸をとおすようなドライビングは、高星(明誠)に近いのでいいコンビになると思います」と、ドライバー布陣の変更に自信を持っているようだ。

 ロングランでのタイムなども含め、全体的に見ると、やはり昨年タイトルを争ったチームは安定感があった。とくにトムスとTEAM KUNIMITSUはアイテムの試験やタイヤのテストなど着々と開発メニューを消化していた。ただし、彼らが現在大きな不安を抱えているのも事実である。

 昨年タイトルを獲得し、新たにSTANLEYのスポンサーを得たTEAM KUNIMITSUは、昨年髄膜炎を患い入院した牧野任祐の回復が遅れ、今回のテストでは武藤英紀が代役を務めた。

 今後牧野がテストに参加できるかどうか、さらには開幕戦岡山に出場できるかどうかも不明であり、仮に出場できたとしても事前に岡山でテストをできていないことと、体力低下の両面で大きな不安が残る。パートナーとの時間をかけた関係構築を重視する山本尚貴にとっては、大きな痛手に違いない。

 そのTEAM KUNIMITSUに最終戦でタイトルを奪われたTGR TEAM KeePer TOM’Sは、今年ニック・キャシディに代わりサッシャ・フェネストラズが平川亮のパートナーとなるはずだった。

 しかしフェネストラズはシーズンオフに日本を離れ、コロナ禍で入国規制が強まったことで戻ることができない状態が続いている。今回のテストにも参加できず、今後の見通しも不透明だ。平川はまだ一度もテストでフェネストラズとステアリングを共有しておらず、開幕戦岡山の出場も厳しそうだと考えている。

「泳いでも来いという感じですね」と平川。

「彼がいなくても開発は進められますが、それをサッシャ(フェネストラズ)が気に入るかどうか分からないし、コミュニケーションの問題もあるので。僕としては、シーズンをとおして同じドライバーと戦いたい気持ちはあります」

 今回フェネストラズの代役は阪口晴南が努め、しっかりと速さを示した。それでもGT500の経験は充分ではなく、タイヤの使い方、安定性、トラフィックの処理など改善しなければならない課題はまだ少なくないとチームは見ている。

 すでにKeePer TOM’S GR Supraには阪口の名が記されており、岡山での開幕戦は彼が乗る可能性が高そうだ。そして、状況次第ではそのまま阪口がレギュラーとなる可能性も完全には否定できない。

 昨年、最後の最後まで激しくタイトルを競った彼ら2チームは、正規ドライバーのひとりがテストをできないまま、開幕戦を迎えようとしている。そのせいだろうか、週末の岡山国際サーキットには何ともいえない不気味な緊張感が漂っていた。

 タイヤサプライヤーのスイッチ、ドライバーの移籍と欠場の可能性、そして水面下で加速するエンジン開発競争。不確定要素が多くあるなかでベストなパッケージを得るのは一体どのチームか? その答えは、4月の第1戦岡山で明らかとなる。

ドライバー交代練習を行う山本尚貴と武藤英紀
ドライバー交代練習を行う山本尚貴と武藤英紀
平川亮
平川亮
2021スーパーGT岡山公式テスト KeePer TOM'S GR Supra
2021スーパーGT岡山公式テスト KeePer TOM’S GR Supra