ブガッティのビスポークを生み出す魔術師。顧客の理想を形にする名アドバイザーが生み出した傑作の数々に迫る

ブガッティのビスポークを生み出す魔術師。顧客の理想を形にする名アドバイザーが生み出した傑作の数々に迫る

理想的の“ひと皿”を作る総料理長

クルマやスーツ、シューズ、ヨット、そして家具に至るまで、高級を銘打つ商品を購入する顧客のほとんどはビスポークを選択する。自身の好みや使用用途に合わせ、専門家とじっくり相談し、世界にひとつだけの仕様をあつらえるのが常道だ。もちろんブガッティもその例に漏れず、まったく同じ仕様というのはふたつとない。

しかしビスポークは、メニューが多ければ多いほど難しい。膨大なリストの中から、アラカルトで好きなものをピックアップし、ひと皿のまとまりある料理に仕上げるにはシェフ・ド・キュイジーヌの助けが不可欠となる。勝手気ままに組み合わせては、せっかくの素材も台無しになりかねない。そして、ブガッティのビスポークにおける総料理長といえるのが、仏モルスハイムのアトリエで働くヤッシャ・シュトラウブである。

ブガッティのDesign & Sales Representative、ヤッシャ・シュトラウブ

幼少時から育んだブガッティ愛

ブガッティの“Design & Sales Representative(デザインとセールスの代理人)”であるシュトラウブは、カスタマイゼーションプログラムのエキスパートであると同時に、ブガッティ車のエクステリアを手掛けるデザイナーでもある。2018年に登場したディーヴォ、そして2019年デビューのチェントディエチのエクステリアデザインにも深く関わってきた。

シュトラウブは、幼少の頃からエットーレ・ブガッティのエンジニアリング能力やジャン・ブガッティが誇ったデザインの才に魅了されてきた。その強い想いに突き動かされた彼は、モルスハイムで夢の仕事をついに手に入れることになった。デザインの現場に関わりながら、顧客とも直接繋がるという特殊な立場に身を置くシュトラウブだが、ブガッティの歴史とプロダクトに対する彼の深い理解こそが、完璧なビスポークを生み出す源となっている。

「僕が毎日やっている仕事は、いくつもの情熱をつなぎ合わせること。顧客の皆様にとって、人生に一度ともいえる機会を提供するのが役割のひとつです。クルマやモータースポーツに馴染みのある方なら誰しも、ブガッティの名を聞けば心が揺さぶられるでしょう。私自身、会社に入る前からずっと、ブガッティというブランドと共に生き、共に呼吸をしてきました」

ブガッティ シロン“ゼブラ”のノーズ

芸術的なドローイング技術

顧客の理想の1台を作り上げる傍らで、シュトラウブはデザインチームとともにカラー&トリム開発へ日々携わっている。2020年11月に20台限定で発売されたシロン スポールの特別仕様「Les Legendes du Ciel’(レ レジャンド ドゥ シエル)」にも関与しており、“ガウチョ”風レザーに描かれたハンドスケッチを手掛けている。また、2011年に登場したヴェイロンの「L’Or Blanc(ロル ブラン)」を想わせるカラーリングを施した、ワンオフモデルの「シロン ゼブラ」にも自身の芸術的な手腕を投入している。シュトラウブは言う。

「(ゼブラの)アイデアはお客様ご自身で発案されたもので、ブガッティのカスタマイゼーションには限界がないことを証明するべく、我々が手掛けました。シロンの流れるようなボディラインに合わせるべく、塗装前に新しいマスキング手法を採り入れました。また、このような塗装にまつわるいくつかの技術は、すでにヴェイロンのロル ブランで確立されていました」

シロン スポールの特別仕様「Les Legendes du Ciel’(レ レジャンド ドゥ シエル)」のキャビン

塗装色を特別に開発することも

特別仕様車はその限りではないが、ブガッティは常に34種類の標準カラーオプションを用意している。そのカラーパレットの中に、自分の好みが見つけられない場合はシュトラウブの出番となる。数千のカラーオプションを提示してもなお納得がいかないときは、リクエストに応じて特別な塗装色をいちから作り出していく。

また、レザーとステッチが各32種類、カーペットが19種類、シートベルトも11種類を常にラインナップしているが、希望に添えない場合は別の選択肢を準備するのがブガッティ流だ。シュトラウブは顧客がメニューを決定するプロセスに同席し、彼が打ち合わせ中に描いたハンドスケッチとともに、顧客ごとの“レシピ”帳をプレゼントするそうだ。

ヤッシャ・シュトラウブによるデザインスケッチ。

100年後も色褪せないブガッティを

セールス&オペレーション部門のディレクター、ヘンドリク・マリノフスキーは次のように語っている。

「ヤッシャの役割というのは、デザイン作業の延長線にあると考えています。そうして、顧客と会社を結びつけるのが彼の仕事です。ブガッティが作るすべてのクルマは傑作であり、モルスハイムのアトリエを出ていく車両は、今後数世紀にわたり伝説となるものです。そのインパクトは100年経っても色褪せないでしょう」

モルスハイムに建つブガッティのカスタマーラウンジ

ブガッティのビスポークを希望する顧客は、モルスハイムを訪れシュトラウブと打ち合わせを行なう。理想のビスポークを作り出すためには、仕様が決定するまで数ヵ月かかることもあるという。シュトラウブは言う。

「お客様ご自身がとても明確なアイデアをお持ちで、30分ですべてが決まるようなこともありますし、数ヵ月かけて慎重に決めていくこともあります。自分だけのブガッティを作り上げる旅へ、お客様を誘う。私はこの仕事を愛しています。そしてひとつとして同じ旅路はないのです」