鳥の羽をダッシュボードに設えたファントム誕生! ロールス・ロイスのビスポークに不可能はない!?

鳥の羽をダッシュボードに設えたファントム誕生! ロールス・ロイスのビスポークに不可能はない!?

Rolls-Royce Phantom Iridescent Opulence

ロールス・ロイス ファントム イリディセント オピュレンス

世界に1台だけの芸術品

ロールス・ロイスのビスポーク(オーダーメイドで自分だけの仕様にする)率は極めて高い。ビスポークの仕様を打ち合わせる部屋には、顧客のインスピレーションを刺激するための様々なヒント──色や素材のサンプル、絵画や工芸品、写真、隕石まで──が用意される。

レザーの種類やボディカラーはもちろんのこと、ダッシュボードに貼り付けるパネルやシートの刺繍、コーチラインの意匠に至るまで、顧客はグッドウッド本社の専門スタッフと納得いくまで膝を詰めて世界に1台だけのロールス・ロイスを完成させていく。まるで自分だけの芸術品を注文するように。

ロールス・ロイス ファントムのビスポーク仕様「Iridescent Opulence」のギャラリー

ダッシュボードを飾る虹色の羽根

このたびアブダビに到着したファントムも、唯一無二のビスポーク仕様。「Iridescent Opulence(虹色の華やぎ)」と名付けられた1台は、まるでアラビア湾の水をそのまま掬いとったような美しいターコイズブルーに塗られている。

あらゆる作品を掲示し、乗員が眺めることができる場所として、ロールス・ロイスはダッシュボード部分を“ギャラリー”と呼ぶ。「Iridescent Opulence」のギャラリーに飾られたのは、なんと鳥の羽根。光のあたる角度によって様々に色合いを変える滑らかで繊細なテクスチャーを、大胆にも工業製品に組み合わせている。

ロールス・ロイス ファントムのビスポーク仕様「Iridescent Opulence」のコーチライン

天然の素材を工業製品に

このパネルを製作したのは、スイスを拠点にする「Natured Squared」という自然素材づかいのスペシャリスト。持続可能性を最重要視し、環境に徹底的に配慮したうえで天然の原材料を採取。高い職人技術により表面材として加工している。彼らの手にかかれば、貝殻も種も樹皮も、ヨットやホテルなど耐久性が求められる場所の床材や天板に変化する。

「Iridescent Opulence」に使われた鳥の羽根は、研究に研究を重ねたうえで持続可能性を考慮し種を選定。3000を超える尾羽を厳選し、ファブリックに注意深く手縫いすることで、これまでに見たことのない加飾パネルとして精製された。マザーオブパールを使用したクロックと組み合わせて、キャビンの一区画に“芸術”を作り上げている。

ロールス・ロイス グッドウッド本社のクリーンルーム

100年後の品質を見据えた生産プロセス

この芸術品ともいえる加飾パネルは、ロールス・ロイスの本社、グッドウッドにあるクリーンルームで工業品として仕上げられる。急激に変化する気温や湿度など厳しい環境下にさらされ続ける自動車のパーツとして天然の素材を用いるためには、徹底した品質管理が必要となるためだ。

とりわけロールス・ロイスのプロダクトは寿命がとても長く、116年の歴史の中で作られたすべてのロールス・ロイス車のうち、3分の2以上が走行可能なコンディションをいまも保ち続けているという。今日作られているファントムも100年後に変わらぬ状態を保てるよう、可能な限りの高品質を追求するロールス・ロイスにとって、クリーンルームはそれを象徴するひとつといえる。

ロールス・ロイス ファントムのビスポーク仕様「Iridescent Opulence」のクロック

限られたスタッフのみが入室できる聖域

この医療現場並みの無菌室を作り上げるために、ロールス・ロイスの専門家は製薬会社やマイクロプロセッサー製造会社を訪問。塵埃の侵入を防ぐべく室内を陽圧に保ち、微粒子数を常時計測するセンサーを備えたクリーンルームを設計した。何らかのコンタミが検知された際には、いつどこに発生したかが分かるようになっている。

クリーンルームで作業できるスタッフは5名だけで、一度に入室できるのは2名までに制限されている。クリーンルーム内は4部屋に区切られており、最初のエリアでは全身についた埃や髪の毛などを徹底的に取り除く。

入室時には、リントフリー(糸くずのでない)医療向けのサージカルウェアやヘアネット、マスク、オーバーシューズを着用。化粧やヘアケア、デオドラント用品の使用は一切許されない。パウダーフリーのラテックスグローブはロールス・ロイス専用に開発されたものを使用している。

ロールス・ロイス グッドウッド本社のクリーンルーム

何重にも張り巡らされた防護壁

クリーンルーム横には搬入経路を設け、保護フィルムで完璧に包んだうえ、二重壁の密閉コンテナに格納したパーツが運ばれていく。クリーンルーム手前でコンテナ外皮は取り払われ、残った内壁はスタッフ同様、さらなる汚れや埃のチェックが行われる。

クリーンルームの入り口にはエアロックを設置したうえ、各エリアの室間差圧を徹底して制御。梱包を剥がされたパーツは、紫外線ライトや高倍率の拡大鏡などを用いて一片の異物も持ち込まないようにするなど、入念な保護策が何重にも設けられている。

作業エリアに入れるのはスタッフ1名と、ひとつのパーツのみ。この空間は完璧な清浄度を保つよう毎週最大8時間かけてクリーニングを実施しているそうだ。最終的なアッセンブリーの前に、パーツはいま一度の紫外線検査を行ったうえで、ようやくファントムの“ギャラリー”へと組み付けられる。

ロールス・ロイス ファントムのビスポーク仕様「Iridescent Opulence」のサイドビュー

気の遠くなるような組み立て工程を経て、ようやく完成するファントムのダッシュボード。顧客がその“作品”を実際に目にすることができるのは、まだまだこの後、幾十にもわたる検査を終えてからのこと。現代のロールス・ロイスは、職人技術と先進テクノロジーの粋、そして充分過ぎるほどの時間を注ぎ込んでようやく完成する、工業製品の芸術といえるのかもしれない。