【GR010ハイブリッド詳報】開発経緯と“市販車ベースではない”理由をトヨタ村田久武チーム代表が説明/WEC

 1月15日に発表されたトヨタの新型ル・マン・ハイパーカー(LMH)、『GR010ハイブリッド』。現在ル・マンを3連覇中のトヨタは、TS050ハイブリッドの後を継ぐ新型マシンをどのように開発したのか。トヨタGAZOO Racing WECチーム代表の村田久武氏に聞いた。

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「LMP1の規則はこのままでいいのか、という議論は17年頃から始めていました」と、TGR WECチーム代表の村田久武氏は説明する。12年にTS030ハイブリッドでWECに参戦を始めたときから、プロジェクトの中心にいる人物だ。

「ハイブリッドの技術をレースというフィールドで磨く目的で参戦を始め、それなりにかたちにはなってきました。ただ、開発した技術をどう使うかまでは思いが達していませんでした。レースで磨いた技術を載せたハイパーカーを作ってこそ、ループが完成することに気づいたのです。我々にとってはハイパーカーを作り、それをベースにした車両でル・マンに出ることで、新しい物語が始まることになります」

 ACOフランス西部自動車クラブと話し合いを進めていくなかで、LMH規定がかたちを整えていくことになった。TS050ハイブリッドで磨いた技術をロードゴーイングカーの形態に落とし込んだのが、開発中の市販ハイパーカーだ。そのハイパーカーをベースにLMH規定に合致する車両としたのが、21年3月に開幕する新シーズンに投入する車両である。

 ただし、GT3車両を製作するように、市販車をレース車両に改造したわけではない。完全に別設計だ。

「TS050ハイブリッドという親から生まれた兄弟、あるいは姉妹の関係です」

「市販車を作ろうとした場合、世界各国の法規制をクリアする必要があります。とくに衝突安全の規制がクルマのかたちを決めるようなところがあります。TS050はラジエターをサイドに積んでいますが、それでは衝突安全の規制をクリアすることはできず、フロントに移動する必要があります」

「このような話が至るところにあるため、市販車をレーシングカーにするアプローチは踏まず、プロトタイプカーの子供と市販車の子供にする選択をしました。TS050で磨いてきたレーシングハイブリッドのDNAを、2台のクルマに遺伝させる考えです」

トヨタGAZOO Racing WECチーム代表の村田久武氏(写真は2020年)
トヨタGAZOO Racing WECチーム代表の村田久武氏(写真は2020年)

 ハイブリッドの制御をはじめ4輪駆動の制御やクルマを動的にどうコントロールするか、さらには空力のコンセプトとノウハウは、LMH仕様と市販車で共有する。前者の開発はドイツ・ケルンにあるTGR‐Eで行ない、後者は日本の市販車開発部隊がTGR‐Eと情報共有しながら行なっている。

 だから、このたび発表された『GR010ハイブリッド』は実質的にプロトタイプカーであり、完全新設計だ。LMP1(厳密にはLMP1‐H)規定で設計されたTS050ハイブリッドはフロントだけでなくリヤにもモーターを搭載していたが、GR010ハイブリッドはフロントのみに搭載。エンジンは市販車との関連性の観点から、3.5リッターV6ツインターボとした。

「昔のレーシングカーはある条件に合わせてピンポイントで性能を発揮する作り方でした。今度のLMHは決まった性能ウインドウの中にどのクルマも入ってきます。ピークはみな同じ。遅くなるシーンをなくし、アベレージで速くするのが勝つためのポイントです。また、前のクルマに追い付いたら一気にダウンフォースが抜けるのはダメで、どんな状況でもスパッと抜けるし、雨でも強いオールマイティな性能にしていかなければいけません」

 そういうクルマに仕立てるべく設計し、開発したのがGR010ハイブリッドというわけだ。

2021年1月15日発売のauto sport No.1545誌面
2021年1月15日発売のauto sport No.1545誌面。37ページにおよぶ特集内では、GR010ハイブリッドのさらなる詳細に迫っている