アウディの内燃機関モデル最高峰「R8」と次世代を担う「e-tron」。両車を富士スピードウェイで検証

アウディの内燃機関モデル最高峰「R8」と次世代を担う「e-tron」。両車を富士スピードウェイで検証

Audi R8 × e-tron Sportback

アウディ R8 × e-tron スポーツバック

今までのアウディとこれからのアウディ

今回の富士スピードウェイにおけるアウディ試乗会では、縦置きアーキテクチャーのRSシリーズがRS 5しかなかった上に、筆者はこれを試乗しなかったから、横置きモジュールのRSシリーズからR8へと乗り換えたそのギャップは、それはものすごかった。

ピットレーンでの存在感。乗り込めば圧倒的に低い着座位置。ドアとセンタートンネルで仕切られたコクピットは戦闘機のような包まれ感で、ドアを閉めるとピシッと密閉性が高まり室内が“しん”と静まりかえる。

アウディ R8クーペの走行シーン

R8の走りはリアリティに満ちた素晴らしいものだった

シートの真後ろには5.2リッターの排気量を持つV10ユニットが収まっていて、ステアリングの赤いスターターを長押しすると、これが豪快に目覚める。間を置かずトランシーバーからは先導するインストラクターの声がノイズと共に短くスタートを告げる。まるで気分はパイロットだ。あぁなんて、贅沢な時間なのだろう!

しかしそんな陶酔のイントロダクションをも吹き飛ばしてしまうほど、R8の走りはリアリティに満ちており、素晴らしかった。

大排気量自然吸気ユニットがもたらす加速感は刺激的で、圧倒的なのにどこか優しい。昨今の大排気量V8ターボもその過給特性は極めてリニアなものとなってきているが、やっぱり自然吸気エンジンのフィーリングは人の感覚に合っている。85.4×92.8mmのロングストロークユニットゆえか、騒音規制への対応か、サウンドは決して甲高い方ではない。しかし回せば回すほど力が漲り、それにともなって音質が高まって行く昂揚感は、ダウンサイジングターボでは得られない。

アウディ R8クーペのインテリア

快感指数の高いV10エンジンがもたらす“美しい”走り

そんな快感指数の高いV10エンジンは、R8のボディにドライサンプ方式で低くミッドマウントされており、この重心の低さがまた普通では味わえない運動性能の高さを実現してくれる。いや、その走りは“美しい”と表現してもよいかもしれない。

路面を手でなぞるかのような接地感の確かさ。そこからハンドルを切っていったときの、リニアながらも穏やかなフィーリング。富士の難所といえるAコーナーを、わずかに車体をロールさせて切り込んでいき、恐ろしいコーナリングスピードのまま平然とやり過ごす体幹バランスの良さは、まさに縦置きミドシップの真骨頂だと言える。

アウディ R8クーペの走行シーン

ロードユースでの紳士的な乗り味とトレードオフされたサス剛性

少しばかり残念なのは、こうした身体能力の高さやボディ剛性の高さに対して、フロントサスペンションの取り付け剛性に不足を感じること。ブレーキングでフロント荷重を高め、これをリリースしながらステアリングを切っていくような場面で、攻め込み過ぎるとフロントが動いて定まらない感覚があり、ターンインで少し不安な挙動を示すことがあるのだ。

これを固めてしまえばきっと、あのロードユースでの紳士的な乗り心地は得られなくなるのだろう。とはいえこれだけ高い運動性能をもっているのだから、やっぱりポルシェ911GT3 RSのようなリアル・アスリート仕様は必要だと思う。

より足まわりを煮詰めたV10プラスがディスコンしたことを考えても、こうしたリアル・スポーツを商売にするのは非常に難しいことなのだろう。そういう意味で言うと同じRSでも、レンシュポルトの歴史を長らく積み上げてきたポルシェは偉大だ。

アウディ R8 LMSの走行シーン

GT3カーの同乗試乗で改めてR8のポテンシャルの高さを知る

ちなみに当日は、昨年型のマシンながらR8をFIA-GT3仕様にした「R8 LMS」の助手席にも乗せてもらうことができた。ドライバーは今季「Audi Team Hitotsuyama」でレギュラーの大役を務めた近藤 翼選手。「いつもの通り走って下さい」というリクエストに真摯に応えてくれた近藤選手の走りは芸術的で、ユーズドながら一昨日のGTを走りきったスリックタイヤのグリップは強烈だった。

レース用に2WDとなり、サスペンションのピボット位置など細かい部分は専用に改良されているものの、このGT3カーは基本的にR8をベースとして作られている。つまりそれだけR8は高いポテンシャルを持ったスーパースポーツなのである。R8もTT同様先行きが見えにくい状況のようだが、これがなくなるのは何とももったいない。その魅力をもっと多くの裕福層にわかって欲しいものである。

アウディ e-tronスポーツバックの走行シーン

ブランド初の市販BEV、e-tronの高速走行を体験

そして最後は「RS」の枠組からは外れるものの、アウディ ジャパンのエクストラ・プレゼントとして、アウディ初の市販ピュアEVである「e-tron Sportback」での高速体験をすることができた。

e-tron Sportbackで何より驚かされたのは静粛性の高さだった。ただその静けさは、モーター駆動のEVだから実現できたのかといえば、そうではない。むしろエンジンがもたらすノイズやバイブレーションがなくなったことによって際立つはずの、ロードノイズや風切り音といった外乱要素を、高い次元で遮音しているから得られた静粛性だったのである。

さらに興味深かったのは、その加速力が思った以上に大人しかったことだ。いやもっと適切な言い方をするならば、非常に洗練されていた。システム最高出力は408ps、最大トルクは664Nm。駆動方式は前後独立モーターを備える4WDである。

コーナーの立ち上がりから全開加速を与えても、e-tron Sportbackは極めて紳士的に加速する。確かにそこには、2560kgの車重も少なからず影響してはいるだろう。しかし瞬発的に強大なトルクを一気に解放することもできるはず。しかしそれをしない出力特性こそがアウディの考えたe-tron Sportbackのキャラクターなのだと思う。そしてデジタル制御だからこそ、こうしたキャラ設定が可能になるのだろう。つまりこれからのEV時代は、ブランドの個性とコンセプトが出力特性に色濃く反映される時代になるのではないか。

アウディ e-tron スポーツバックの走行シーン

まるで「サーキットのグリーン車」とも言える乗り味

ちなみにホームストレートでの最高速度は、パナソニック看板でアクセルオフというルールに従ったこともあるが、およそ200km/hであった。

2.5トン強の車重にも関わらず運動性能が高いのは、床下にバッテリーを配置する重心の低さのおかげだ。そしてしなやかな足裁きと後輪駆動寄りに設定された4輪駆動のトルク配分が、予想を超えて気持ち良いコーナリングを味わわせてくれる。これこそが正に、クワトロで培った経験のデータ化なのだろう。

いまや縦置きクワトロも、環境性能の問題からRSグレード以外は徐々にセンターデフレスのウルトラ・テクノロジータイプ(電子制御式センタークラッチタイプ)に移行している。しかしe-tron Sportbackのような前後モーター駆動であれば、“電費”を稼ぐために平時は前輪駆動で走行し、ファン・トゥ・ドライブを求めるときには後輪駆動寄りの“スポーツクワトロ”を発動させることもたやすいだろう。総評してe-tron Sportbackの乗り味は、サーキットのグリーン車という表現がぴったりだった。

アウディ e-tron スポーツバックの走行シーン

高性能な回生ブレーキは運動エネルギーを効率的に回収する

さらにe-tron Sportbackは、シートから降りた後にも筆者を驚かせてくれた。というのも当日試乗を牽引してくれたインストラクター氏が「e-tron Sportbackのブレーキキャリパーは、サーキットを走っても指で触れるくらい熱を持っていない」と言うのである。

その理由はお察しの通り、ブレーキの回生率が非常に高いからだ。今回は余裕を持ってストレート1本しか走れない制約を設けてはいたが、その回生率は非常に高く、バッテリー残量は意外なほど減っていなかったというのである。そう聞いた以上は触らないわけにはいかないだろう。「ローターは熱いので、触らないでくださいね!」と重々注意されたあと、恐る恐る20インチホイールの隙間に指を差し込んで、キャリパーの上にこれを近づける・・・熱くない!! いや、暖かい(笑)。

これには本当に驚かされた。富士スピードウェイの1コーナーや、ダンロップコーナーへのフルブレーキングで生じた強烈な減速Gは、その多くが回生モーターを回す力によって得られていたのである。理屈では解っていても、それを体感する機会はそうそうない。とはいえくれぐれも真似はしないようにお願いしたい。

REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)

PHOTO/Audi Japan

【SPECIFICATIONS】

アウディ R8 クーペ V10 パフォーマンス 5.2 FSI クワトロ Sトロニック

ボディサイズ:全長4430 全幅1940 全高1240mm
ホイールベース:2650mm
トレッド:前1645 後1605mm
車両重量:1670kg
エンジン:V型10気筒DOHC
ボア×ストローク:84.5×92.8mm
圧縮比:12.7

総排気量:5204cc
最高出力:456kW(620ps)/8000rpm
最大トルク:580Nm/6600rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/30ZR20 後305/30ZR20
車両本体価格:3031万円

アウディ e-tron スポーツバック 55 クワトロ

ボディサイズ:全長4900 全幅1935 全高1615mm
ホイールベース:2930mm
車両重量:2560kg
モーター:最高出力:300kW(408ps)
最大トルク:664Nm(67.7kgm)
バッテリー容量:95kWh
トランスミッション:1速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後ウイッシュボーン
タイヤサイズ:前後265/45R21
0-100km/h:5.7秒
電力消費量:245Wh/km(WLTP)
車両本体価格:1327万円

【問い合わせ】
アウディ コミュニケーションセンター
TEL 0120-598-106