FIAと各チームの協力で成り立った取材と、ホンダF1田辺TDの言葉に見えた過酷さ/2020年振り返り(1)

 2020年シーズンのF1は、世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスの大きな影響を受けた。カレンダーの大幅な変更を余儀なくされ、レース数は17に減った。またメディアの現地取材は制限され、チームスタッフはバブルと呼ばれる小さなグループに分かれての行動を強いられるなど、これまでのF1を一変させた。

 そんな2020年シーズンを、複数のテーマに分けて振り返る。autosport webでもおなじみのF1ジャーナリスト、尾張正博氏が自身の経験をもとに、今回は冒頭でも触れた新型コロナウイルスとメディアのリモート取材について語った。

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 F1に限らず、2020年は『新型コロナウイルス』に大きく影響された1年だった。だいたい10年に1度、人類は世間を揺るがす事件、事故、紛争、災害に直面してきた。2011年は東日本大震災がそうだったし、2001年には世界同時多発テロが起きた。ユーゴスラビア紛争が起きたのは1991年だった。1982年にはイギリスとアルゼンチンとの間でフォークランド紛争が起き、イラン・イラク戦争が勃発したのは1980年だった。

 ただし、今回の新型コロナがこれまでとは違うのは、全世界的に影響が及んでいるという点だ。ここまで広範囲に世界の多くの国々が影響を受けたのは、おそらく第二次世界大戦以来ではないだろうか。しかも、戦う相手が見えないというのが最大の特徴で、これまでのように人間が何かを頑張って活動すればするほど感染が広がるリスクが高まるという、やっかいな戦いとなった。

2020年F1開幕戦オーストラリアGP
2020年F1開幕戦オーストラリアGP マクラーレンのホスピタリティに設置された消毒液。各グランプリのパドックでは至るところに消毒液が置かれていた

 そのなかで、12カ国を移動し、17レースを戦ったF1関係者たちは、本当に大変な1年だったと思う。そのことをあらためて感じたのは、最終戦アブダビGPのレース終了後の田辺豊治F1テクニカルディレクターの囲み会見(もちろんリモート)だった。

 ホンダは最終戦で優勝したので、まずはこの話題から始まり、その後は最終戦恒例の1年を総括する質疑応答に移って終える予定だった。しかし、田辺TDは「最後にひと言、いいですか」と言って、こう続けた。

「今シーズンはコロナ禍のなかで戦ってきたわけですが、その厳しいシーズンを戦ってくれた我々のスタッフに感謝を申し上げたいと思います。またスタッフ本人のみならず、それを支えてくれた家族にもお礼を申し上げます」

「またコロナ禍のなかでフライトだったり、ホテルだったり、あと(機材を搬送してくれた)物流などもかなり混乱しました。急にフライトがキャンセルしたこともありましたが、我々のロジスティックスがしっかりとサポートしてくれました」

「さらに(パドックにある)ホスピタリティのスタッフたちも、モーターホーム内の消毒をして、フェイスマスクをし、手袋をするなど、細心の注意を払って食事を提供してくれました。これまで経験したことがないような圧縮されたシーズンを支えてくだった皆様に本当に感謝いたします」

「世界中のファンの方々にとっては、F1を生で観戦できなかったことは本当に残念なことでした。特に我々の母国である日本のファンの皆様には、鈴鹿での日本GPで我々の走りを披露できなかったことはとても残念に思っています」

「またこうしてリモートで取材しているメディアの皆様も、今年は現場に来て、自分の足で取材することができずに難しい1年になったことと思います」

「2021年はどうなるかまだわかりませんが、できるだけ早く、以前と同じようにレースを開催できて、ストレスのない環境で皆様がサーキットに来て、我々もそこで仕事ができることを願っています」

「最後に1年間、ありがとうございました」

 2020年は、ホンダをはじめF1界はコース上でレースを戦っていただけでなく、コース内外で新型コロナとも戦っていたのである。本当にお疲れ様でした。

ホンダF1 山本雅史マネージングディレクター&田辺豊治テクニカルディレクター
2020年F1第5戦70周年記念GP土曜日 ホンダF1 山本雅史マネージングディレクター&田辺豊治テクニカルディレクター

■FIAとチームの協力に感謝。悪い面ばかりではなかった『リモート取材』

 2020年の現場取材は、3月のオーストラリアGPが最初で最後となった。結局、そのオーストラリアGPは開幕前に中止となったから、2020年にサーキットの現場へ赴いて取材した数は、0戦になる。それでも、このautosport webでいくつかの連載や時事ネタを再開されたオーストリアGPから最終戦アブダビGPまで書くことができたのは、ひとえにFIAと各チームがメディアに対する協力があったからにほかならない。本当に感謝したい。

 FIAと各チームがここまでメディアに協力的だったのは、新型コロナの感染を拡大させないために、現場で取材できるメディアの数を制限したこと。さらにサーキットに入場できたメディアの活動エリアもメディアセンターだけに限定し、パドックやピットレーンへの入場を原則禁止したからだ(テレビ局のスタッフは除く)。つまり、現場にいるメディアも、自宅でインターネットで取材するメディアも全員がリモート取材していたわけだ。

 さらに、FIAは年間パスを保持しているメディアに、『F1.com』を無料で閲覧できるバウチャーコードを発給。再開されたオーストリアGPから最終戦まで、無料でさまざまなデータをリアルタイムに見ることができた。また通常、メディアセンターに掲げられているモニター画面も無料で見られるwebサイトを開設し、無料で見られるようにしてくれた。

 つまり、メディアセンターにいるのとまったく同じ画面を、年間パスを保持しているメディアはいつでも見ることができたのだ。このサイトには記者会見用のページもあり、そこにアクセスすれば、木曜日からレース後の会見までインターネットを通して参加することができた。

トト・ウォルフ(メルセデス チーム代表)、クレア・ウイリアムズ(ウイリアムズ 副チーム代表)、シリル・アビテブール(ルノー マネージングディレクター)
2020年F1第8戦イタリアGP金曜会見 (左から)トト・ウォルフ(メルセデス チーム代表)、クレア・ウイリアムズ(ウイリアムズ 副チーム代表)、シリル・アビテブール(ルノー マネージングディレクター)

 各チームがそれぞれのモーターホームで行っている囲み会見は、web会議システムが行われた。アメリカのZoom Video Communications社が提供している『Zoom』を利用していたのが、レッドブル。Microsoft社の『Teams』を使用していたのは、使い勝手がいいのか、あるいはセキュリティの問題からなのか、ホンダのほか、メルセデス、ルノー、ハースら、多くのチームが使用していた。ちょっと変わっていたのがフェラーリで、Ciscoの『Webex』を使用していた。

 現場に行って直接、自分の足で自由に取材できないというのは大きな制限だったことは事実である。しかし、現場に行っても体はひとつしかなく、チームの囲み会見の開始時刻がバッティングすれば、どちらかの取材は参加できないこともある。その点、web会議システムはコンピュータを2台か3台用意すれば、同時刻に開催されている会見に複数参加することが可能になった。

 これまではトト・ウォルフ代表(メルセデス)とレース後の上位3人のドライバーによるFIA会見の時刻が重なることが多く、リリースが出ないウォルフの会見を優先することが多かったが、20年はどちらも全戦参加できた。そう、リモート取材も決して悪い面ばかりではないのである。

 ただし、ひとつだけ気がかりがある。それは2021年用の年間パスの申請だ。通常、申請するのは前年に12〜14戦の現場での取材実績が問われる。しかし、2020年にそのような実績を積めたメディアは一握り。このままだとほとんどのメディアが年間パスを失効してしまうことになる。

 ここはFIAに『2020年の年間パス保持者は、2021年も自動的に発給する』というお達しを出してもらいたい。

シャルル・ルクレール&セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)
2020年F1第17戦アブダビGP 木曜会見に出席したシャルル・ルクレール&セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)。今季は各チームごとに会見が行われた