【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第19回】2020年は「予想以上に苦しい1年」組織づくりを継続、新体制を樹立へ

 2020年シーズンで5年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。最終戦アブダビGPを含め、中東3連戦はハースにとって厳しいレースが続いた。予想以上に苦しかったというシーズンが終わったばかりだが、チームも小松エンジニアも、すでに2021年シーズンに向けて動き始めている。そんなハースと現場の事情を、小松エンジニアがお届けします。

────────────────────

2020年F1第17戦アブダビGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選17番手/決勝18位
#51 ピエトロ・フィッティパルディ 予選19番手/決勝19位

 アブダビGPを含む最後の中東3連戦は、ウチのクルマには厳しいレースでした。アブダビにはふたつの比較的長いストレートがあり、あとはほぼすべて低速コーナーです。これらは特に今年のクルマの弱点なので苦戦は予想されていました。

 金曜に走ったところやはり中・高速コーナーがほとんどないため、タイヤをうまく使えないというのが問題でした。ウチは予選の速さが残念ながらないので、決勝レースはなんとしても1ストップでいかなければチャンスがありません。しかしタイヤをうまく使えていなければとても1ストップには持ち込めないので、この観点から金曜の夜にすべてのセットアップ変更を行いました。

 この一環でダウンフォースもさらに付けたので直線では比較的遅くなると思っていたのですが、土曜日のFP3では想像していたほど遅くはなかったです。逆に、低速コーナーの続くセクター3では大きくタイムをロスしました。特に複合コーナーになっているバックストレート後のターン11・12・13や最終コーナーは遅かったです。もちろん、このクルマの持っている特性という面もありますが、残念ながら開発をしていないクルマの絶対的グリップ不足で限界でした。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2020年F1第17戦アブダビGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

 結果的にレースでも良いペースで1ストップをやり抜けるレベルのクルマに持っていくことはできませんでした。ケビンはハードタイヤでスタートしましたがジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)についていくだけのペースはなく、ニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)に抜かれたところで一気にペースが落ちました。

 その後ピエトロにも抜かれてしまうほどだったので、31周目にピットインしてミディアムタイヤに交換しました。しかしこのミディアムにもかなり苦戦しました。タイヤ交換後に飛ばしすぎたというのもあるかもしれませんが、フロントタイヤの性能がガクッと落ちてしまい、最後の方はピエトロの方がペースが良かったくらいです。

 この段階でウチの2台は18番手・19番手を走っていました。こういうことを言うと真面目にやれと怒る方もいらっしゃるかもしれませんが、ケビンの最後のF1レースで、ダメになっているタイヤを最後までなんとか労わって18位完走しても、おもしろくありません。後ろに順位を争っているドライバーもいなかったので、新しいタイヤを履いて最後の数周だけでも全開で走ってF1マシンを楽しんでもらいたかったので、47周目に再度ピットインして新しいタイヤを履きました。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2020年F1第17戦アブダビGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

 一方ピエトロは、この2戦でよくやってくれたと思います。バーレーンでの走りやフィードバックを踏まえて、アブダビでは新人扱いする必要はないと判断し、フリー走行では通常ロマンが行うのと同様のプログラムを組みました。残念ながらFP2でハードタイヤでの走行中にターン8のブレーキングでフロントタイヤをロックアップさせてしまい走行距離が減ってしまいましたが、それを抜きにすれば良く走ってくれました。

 レースではケビンと戦略を分けて、ミディアムでスタートする1ストップ作戦を採りました。セーフティカーが入るまでのペースも悪くなかったのですが、彼が一番苦労していたのはトラフィックのなかで走る際のタイヤマネージメントです。F1で2戦目ならば仕方ないレベルかと思います。

 しかし、ピエトロのレースで一番の問題だったのは実はパワーユニット(PU)です。レースが始まって数周の段階でエンジン関連の部品に異常が起きました。この問題を解決するためにはピットストップ中に余分な作業が必要になるので、ピットストップが7秒ほどかかることになってしまいます。

 タイムロスを少なくする為にVSC(バーチャルセーフティーカー)が出たタイミングでピットインしました。この時点ではまだ1ストップでいくつもりでしたし、ピエトロのハードタイヤの感触も良く、ニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)をターゲットにできそうでした。

 しかし問題は解決しておらず、「どんなに頑張っても47周までしか保たない」とPU担当のスタッフから言われ、2ストップ作戦に変更せざるを得なくなりました。アントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)に抜かれたタイミングで2度目のピットストップを行いましたが、再び長いピット作業を強いられたのでこの時点でラティフィとはもう戦えなくなりました。

 前戦では予選をちゃんと戦わせてあげることができず、今回はエンジン関連のトラブルと、ピエトロにはかわいそうなことをしてしまったなと思っています。しかし、彼はこの2戦でホントに良くやってくれたと思います。この経験が彼のこれからのキャリアに繋がってくれることを願います。

ピエトロ・フィッティパルディ(ハース)
2020年F1第17戦アブダビGP ピエトロ・フィッティパルディ(ハース)

 グランプリ後の若手ドライバーテストではミック・シューマッハーが1日走りました。ミックはアブダビのFP1で初めてウチのクルマに乗ったのですが、すべての面で可能性を感じさせてくれました。自分の強さも課題も良く把握していると思います。

 FP1ではロングランがあまり良くなかったので、テストでは燃料を積んだ状態でのロングランに焦点をあてました。ミックは問題意識を持って取り組んでいましたし、朝9時のテスト開始から18時の終了までの間に大きく路面温度が変化するなかでタイヤがどうなるのかというのを感じて、それなりにドライブしてもらうだけでもいいと思っていたので、有意義なテストでした。

 彼は1日中ほぼミスなく走りましたが、1度だけスピンをしました。しかし、何が起こってどうしてスピンをしたのかをすぐに自分のなかで消化できているので、同じミスは犯しませんでしたし学習能力は高いと思います。今から成長が楽しみです。

 現時点で彼の一番評価できるところは『準備』ですね。契約がほぼ決まり話しができる段階になってから頻繁に話すようになりましたが、トータルでみて自分が何をしなければいけないか常に考えているのがすぐにわかりました。サーキットに来てからも『自分がベストを出すためにどういう行動をしないといけないのか』というのが良くわかっていますし、常に一所懸命考えているというのが一番の強みだと思います。

 ただ、一発の速さが本当にどれくらいなのか、F1のプレッシャーに晒された時にどうなるのかというのは今の段階ではまだわかりません。来シーズン共に戦うのがホントに楽しみです。

ミック・シューマッハー(ハース)
2020年F1アブダビテスト ミック・シューマッハー(ハース)
ミック・シューマッハー(ハース)
2020年F1アブダビテスト ミック・シューマッハー(ハース)
ミック・シューマッハー(ハース)
2020年F1アブダビテスト ミック・シューマッハー&小松礼雄エンジニアリングディレクター(ハース)

■2021年シーズンに向け抜本的な改善が必要に

 2020年シーズンを振り返ると、予想以上に苦しい1年でした。かなり早い段階でクルマの弱点は見えていたのですが、7月にシーズンが開幕する前の時点で、ギュンター(シュタイナー/チーム代表)がチームの財政状況を考慮して今季はアップグレードをしないということを決めていました。

 第4戦と第5戦はシルバーストンでの連戦でしたが、実はこの2戦は風向きがまったく逆で、チームにとっては非常に有効なデータを集めることができました。そのデータからクルマの短所が浮き彫りになりました。これは予定されていたアップデートを投入すればある程度は改善できる部分だったのですが、残念ながらアップデートはお蔵入りになってしまいました。

 シーズン中の開発ができないことでフラストレーションも溜まりましたし、またPUの競争力も劣る状態で、そこに新型コロナウイルスのパンデミックが追い打ちをかけました。チームには色々な立場の人がいますが、パンデミックのせいで将来が不透明になり、精神的にもチャレンジングな年だったと思います。

 そんななかでも今季のベストレースを選ぶとしたら、第3戦ハンガリーGPです。ペナルティを科されましたがポイントを獲ることができたので、フォーメーションラップでのピットインは正しい判断だったと思います。あとは第11戦アイフェルGPもよかったですね。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2020年F1第3戦ハンガリーGP ケビン・マグヌッセン(ハース)
ロマン・グロージャン(ハース)
2020年F1第11戦アイフェルGP ロマン・グロージャン(ハース)

 2021年に向けた一番大きな課題は、チームの組織づくりです。2016年終盤辺りから指摘していた組織の問題が、去年の開発失敗という大きな問題を経ても根本的に変わらず、さらにパンデミックもあって組織を変えられないままここまできたので、とにかく新しい組織にして、それを機能させないといけません。

 まだまだではありますが、イギリスのバンブリーの方はかなり改善されてきています。でも根本的な問題は、イギリス・イタリア・アメリカの3カ国にある様々な部署間での連携がきちんとできていないことです。特にイタリアにある部署にいくつか問題がありましたが、1月からは体制がガラッと変わります。また、この前発表があった通りシモーネ・レスタが加入したので、ずっと必要としていたテクニカルディレクターとしてこの辺りをまとめてくれることになります。

 2022年に新しいレギュレーションが導入されますが、この時までに新しい体制をきちんと機能させていることが目標です。シモーネを加えた新体制は2021年1月4日から始動しますが、これから詰めていくことはたくさんあります。4月くらいまでにはきちんと組織が機能していないと2022年の開発には間に合わないので、しっかりやっていきたいです。

 日本のみなさんにとっても今年は大変な年だったと思います。そのようななかで、もしF1が17戦の選手権を観せられたことで明るい話題を提供できたなら幸いです。来年に向けてもまだまだ不安定な部分が多いですが、こんな時こそなんとかみんなで力をあわせてやっていきたいですよね。今シーズン1年間ありがとうございました。みなさまがどうぞ健康で良い年を迎えられることを願っています。2021年が希望の年になりますように!

ロマン・グロージャン(ハース)
2020年F1第10戦ロシアGP ロマン・グロージャン(ハース)
2020年F1第10戦ロシアGP ケビン・マグヌッセン(ハース)
小松礼雄(ハース エンジニアリングディレクター)
2020年F1第13戦エミリア・ロマーニャGP 小松礼雄(ハース エンジニアリングディレクター)