代表にラトバラを起用するトヨタ。オジエとのタッグはWタイトル奪取へどんな化学反応を見せるか

 ラトバラが新チーム代表に就任! チーム創立から代表を務めてきたトミ・マキネンが2020年限りで退任することが9月に発表され、後任を誰が務めるのか、注目が集まっていた。しかし、まさかラトバラが……というのが正直な感想であり、想定外と言える人選だった。強烈な牽引力を持つマキネンと、人がいいことでも知られるラトバラでは、性格がほぼ正反対だからだ。

 マキネンは自分がやりたいようにチームを作り上げ、短時間で成功に導いた。一方のラトバラは、WRC18勝を誇るトップドライバーではあるが、大事な局面でミスをすることも少なくなく、たびたび気持ちの弱さを指摘されてきた。ドライビング以上に精神的な重圧を感じるかもしれないチーム代表という重責を、果たして彼は受け止めることができるのだろうか?

 トヨタから発表されたリリースのなかでラトバラは、テクニカルディレクターのトム・フォウラー、スポーティングディレクターのカイ・リンドストローム、そしてプロジェクトディレクターの春名雄一郎の3名とともにチームを率いると記されている。この文面からは、“マキネン専制体制”から、多頭体制に移行するような印象を受けたが、これまでも決して専制体制ではなかったと、プロジェクトディレクターに就任した春名氏は述べる。

「たしかにトミはグイグイいくタイプでした。しかし、実際はトムとカイがしっかりとサポートしてチームを運営してきたので、ヤリ‐マティが代表になったとしても、何かが大きく変わるわけではありません。ヤリ‐マティは、トミとは違う人の和を重んじる調整型のリーダーだと思います。しかし、現役時代の強烈な走りを見れば分かるとおり、ゾーンに入ったときは本当に力強い。行くときは行くタイプなので、まったく心配はしていません」

 春名氏によれば、ラトバラの新代表就任を後押しし、最終決断をしたのは豊田章男トヨタ自動車社長であり、トミと同様、ドライバー目線でのクルマ開発を行なううえではもっとも適しているというのが任命の理由だという。ドライバーとしてクルマ作りを正しい方向に導き、選手に対してはドライバー目線でのアドバイスを与えることができるという点に関しては、たしかにマキネンの後継として適任だと言える。ラトバラは自分でヒストリックカーのレストアを行なうなど、エンジニアリングにも精通しており、つい最近までヤリスWRCをドライブしていたこともプラスに働くだろう。

 ひとつ気になるのは、2020年にタイトルを奪還したセバスチャン・オジエがラトバラよりも年上であることだ。年齢が上なだけでなく、チャンピオン経験、優勝回数でもラトバラを圧倒している。実際、彼らがフォルクスワーゲンでチームメイトだった時代はオジエが実質上のリーディングドライバーであり、ラトバラはやや影が薄かった。果たして、そのラトバラがオジエをリードできるのだろうか?

「その点についても、まったく問題ないと思います。これまでもセブは、勝つためにチームに意見を言ってきましたが、チームとの関係は非常に良好です。それは、ヤリ‐マティが代表になっても変わらないでしょう。実際、セブは『ヤリ-マティと一緒に仕事をするのが楽しみだ』と言っていますし、ふたりの関係は良好だと思います」

 チームメイトだった時代はともかく、2017年のラリー・スウェーデンでトヨタ加入2戦目のラトバラが優勝した際、3位に入り、表彰台ですぐ横に立ったオジエ(当時Mスポーツ・フォード)は、まるで自分のことのようにラトバラの優勝を喜んでいたし、言動にもリスペクトが感じられた。そして、利害関係が完全に一致する立場となったいま、彼らがプラスの化学反応を示す可能性は充分ある。

 ラトバラの新代表就任と同日、勝田貴元の2021年WRC全12戦へのヤリスWRCによる参戦も発表された。ついに、フル参戦である。それについて春名氏は、次のように説明する。

「2020年はコロナ禍で参戦数が本来よりも少なくなってしまいましたが、そのなかで、エストニアではトップと戦える速さを示し、最終戦のモンツァでは、大事なパワーステージでベストタイムを刻みました。速さは充分にあると思いますが、その一方で道に対する経験不足によるミスもいくつかあり、それを改善するためには全戦に出場してもらうのが近道であると考えました」

 コロナ禍により、どれだけのラリーが予定どおり開催されるのかは分からない。それでも、2021年が日本のラリーファンにとって期待に満ちた年となるのは、間違いないだろう。