ロールス・ロイス カリナン徹底解説! ハイエンドSUVの意外な事実 【Playback GENROQ 2018】

ロールス・ロイス カリナン徹底解説! ハイエンドSUVの意外な事実 【Playback GENROQ 2018】

ROLLS-ROYCE Cullinan

ロールス・ロイス カリナン

最高に贅沢な景色から

ハイ・ボディド・ビークルという新しい価値観を標榜するロールス・ロイス初のSUVとなるカリナン。当然これまであった数多のラグジュアリーSUVを上回る性能を持っていることに疑いの余地はない。その実力を徹底的に試乗、取材した大谷達也が解説する。

ロールス・ロイス カリナンのスピリット・オブ・エクスタシー

「ロールス・ロイスがSUVを造る必要はあったのか?」

昨今のブームにあやかって、自身にとって初のSUVを投入するラグジュアリー・ブランドやスポーツカーメーカーが後を絶たないが、古くからのエンスージアストの視点でいえば、なんとなくブランドの堕落に思えなくもない。ただし、ロールス・ロイスは「SUVを出せばきっと儲かるのではないか?」という“よこしま”な理由からではなく、「SUVを出して欲しい」という顧客からの要望に応えてカリナンを世に送り出したと説明する。

これまでのロールス・ロイスの顧客といえば、お抱えのショーファーに豪華なリムジンを運転させるケースが大半を占めた。しかし、そういったユーザーも、週末に家族だけで旅行や買い物に出かけることもあったはず。そんなとき、これまでであれば他ブランドのSUVを使わざるを得なかったわけだが、なかには「週末もロールス・ロイスのラグジュアリーな世界に浸っていたい」と願うファンも少なくなく、彼らのリクエストを受け入れる形でカリナンのプロジェクトはスタートしたようだ。

ただし、ロールス・ロイスは「SUVらしく見えれば何でもいい」という安易な思いでカリナンを造ったわけではない。ボディの基本構造はフラッグシップのファントムと共通だが、SUVの最適解を求めて全長、全幅、全高、ホイールベースはすべて専用設計とされた。そして、もちろん4輪駆動を採用。ちなみにロールス・ロイスが前車軸にエンジントルクを伝達するのは114年の歴史で初めてのことという。

ロールス・ロイス カリナンのリヤシート

「“苦労せずにどこでも行ける”というキャッチコピー」

では、カリナンの開発コンセプトはなにか? 今回の試乗会で、ロールスのスタッフはしきりに「エフォートレス・エブリウェア──苦労せずにどこにでも行ける」というキャッチコピーを口にした。別の言い方をすれば「どこにいてもロールス・ロイスらしいラグジュアリーな体験を・・・」ということになるだろう。

では、オフロードとオンロードの両方が用意されたアメリカ・ワイオミング州での試乗会でどのような体験をできたのか? 順を追って説明することにしよう。

設定されたルートで最初に訪れたのはジャクソンホール郊外のスキー場。まだ雪のないスキー場のサービスロードで、そのオフロード性能を試してもらおうという趣向だ。

スキー場の恐らく中級者コースに設定されたサービスロードだから、勾配はそれなりにきつい。しかも、足下はゴロゴロとした石に覆われたジャリ道。ときおり、路面との間に石が挟まり込んでタイヤが空転しそうになるが、トラクションコントロールが瞬時に駆動力を制御するので、何のテクニックを使わなくともするすると急坂を上っていける。しかも装着しているのはサマータイヤのコンチスポーツコンタクト5。本格的なクロカン4WDの試乗会で用意されるオフロードコースとは難易度に大きな差があるとはいえ、よほど必要なときを別にすれば、自分のカリナンでこの荒れた道を走りたいと思うオーナーはまずいないだろう。

ロールス・ロイス カリナンの走行シーン

「カリナンが見せたコントロール性の高さにはまさに舌を巻いた」

さらに印象的だったのが、硬く引き締まったフラットダートでコーナリングを試したときのこと。コーナーの進入で大きめの減速Gを掛けてからステアリングを切り込めば、スタビリティ・コントロールがオンのままでもかすかなテールスライドを許してくれる。そのあまりに軽快な反応に気をよくしてスタビリティ・コントロールをオフにしたところ、システムがまったく介入しなくてもスムーズにオーバーステアの態勢がとれるほか、そこからタイミングよくスロットルペダルを踏み込めばテールスライドの状態を保ったままコーナーをクリアできることが確認できた。

そうやってテールを滑らせながら走ったときにカリナンが見せたコントロール性の高さにはまさに舌を巻いた。なにしろ、ホイールベースがおよそ3.3m、車重が2.6トンを超えることが信じられないほど、ドライバーのスロットルワークやステアリング操作に対して的確に、そして素早く反応してくれるのだ。とりわけ、カウンターステアを切った直後のヨーモーメントの収まり具合は鮮やかとしかいいようがなく、もっとはるかに軽量でコンパクトなスポーツカーを操っているような気分を味わうことができた。

この点をカリナンの技術開発をとりまとめたキャロライン・クリズマーに指摘したところ、彼女は明るく微笑みながら「それは4WSの効果ですね」と応えてくれた。つまり後輪の操舵機構によってスタビリティが確保されているためにヨーモーメントの収束が素早く、ドライバーに軽快な印象を与えるというのだ。「オーセンティック(本物)であることがロールス・ロイスのコアバリューです。ニセモノは造りません」 そう語ったときの彼女の自信に満ちた表情は極めて印象的だった。

ロールス・ロイス カリナンのベンチシート

「新しいロールス・ロイス体験をもたらすカリナンは必ず期待に応えるだろう」

カリナンはオンロードでもロールス・ロイスらしさを存分に発揮した。大きなうねりをゆったりと優雅にやり過ごす所作はファントムにも通ずるもの。また、素早い振幅に対してこれまでのロールス・ロイスより強めの減衰力で収束を図ろうとするのも新型ファントムと共通の傾向である。ただし、22インチタイヤを履くカリナンは、かすかにタイヤ踏面の硬さを感じさせる点がファントムとの違いといえる。

排気量6.75リッターのV12エンジンは例によって無音のまま、ドライバーが要求するトルクをいつでも自由自在に発揮してみせる。しかも、そのパワーの生み出し方が恐ろしくスムーズで、回転域にかかわらずトルクの山や谷を一切感じさせないため、まるで電気自動車に乗っているかのような錯覚を覚えたことも付け加えておきたい。

全高が1.8mを越えるプロポーションは、リムジンのなかでも背が高めなロールス・ロイスのイメージとよくマッチする。インテリアのデザインとクオリティも同社の基準をクリアしたもので不満を覚えなかったし、もしも自分の好みにそぐわない部分があったとしても、無限の可能性を秘めたビスポーク・プログラムを活用すればきっと満足のいくカリナンが完成するはず。人類が発見した史上最大のダイヤモンドの名に由来するロールス・ロイスのSUVが、人並み外れたスケールと輝きを放っていることは間違いないだろう。

カリナンは単にファントムのプラットフォームをかさ上げしたわけではなく、AWDという新しい世界を切り拓くための技術がふんだんに盛り込まれている。ここからは開発者への取材を通じて、カリナンの詳細をレポートする。

ロールス・ロイス カリナンの俯瞰

PLATFORM

ファントムと同じパーツは2つだけ

カリナンに用いられるボディ構造は“アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー”と呼ばれるもので、基本的にファントムと共通。ただし、実際にまったく同じパーツを用いているのは、ボディの前後に使われている2つのアルミダイキャスト部品だけだと、カリナンの技術開発をとりまとめたキャロライン・クリズマーは説明する。その理由は、ファントムとカリナンでは全長、全幅、全高、ホイールベースがまったく異なるから。また、カリナンにはボディサイドを前後に貫くスリムシルと呼ばれる構造体が採用されているが、このおかげで大きな開口部にもかかわらず高いボディ剛性を維持できたほか、ファントムよりもサイドシルを低くすることが可能になった。これはフロア高が高いカリナンの乗降性を改善するうえで大きな効果があったとクリズマーは語る。

ボディの基本構造はアルミ引き抜き材とアルミダイキャストを組み合わせて骨格を作り、これにアルミパネルを貼り付けていくもので、これはファントムと同様である。

フロントにダブルウイッシュボーン、リヤに5リンクというサスペンション形式はファントムと同じ。エアサスペンションと4WSもファントムから受け継いだものだ。

ロールス・ロイス カリナンのエンジン

DRIVE TRAIN

ドライバーズカーとして最適なセッティング

カリナンに搭載される6.75リッターV12ターボエンジンは基本的にファントムと同一。最高出力も571psで同じだが、最大トルクは900Nmのファントムに対して850Nmとなる。これは最大トルクの発生回転数をファントムの1700〜4000rpmより低い1600rpmに設定した結果で、よりオフロード向きのセッティングといえる。ギヤボックスはファントムと同じ8速ATだ。

もっとも、駆動系で最大の見どころはフルタイム4WDを採用した点にある。ちなみにエンジントルクが前車軸に伝達されるのは、114年に及ぶロールス・ロイスの歴史でもカリナンが史上初という。

前後のトルク分配は油圧多板クラッチによる電子制御式で、基本の前後トルク配分は50対50。なお、トルク配分は路面状況やコーナリングの過程に応じて自動的に調整される。

興味深いのは、スタビリティ・コントロールに、“オン”/“トラクション・コントロール:オフ”/“DSC:オフ”の3段階が設けられていること。しかもDSCをオフにすると、たとえスピンしそうになってもシステムが再介入しない。おかげでオフロードではダイナミックなパワーオーバーステアを引き出すことができたが、これぞカリナンがドライバーズカーであることの証しといえる。

ロールス・ロイス カリナンのリヤスタイル

EXTERIOR

SUV史上初の3ボックス・スタイルを採用

「ロールス・ロイスらしさを失うことなくSUVであることもさりげなく表現する」。これがカリナンのデザインテーマだったとロールス・ロイスのアレックス・イネスは打ち明ける。その最大の特徴は、彼らが「SUV史上初」と説明する3ボックス・スタイルにある。

当初は2ボックス・スタイルのデザインも検討されたが、これではロールス・ロイスとしてあまりにカジュアルすぎる。一方で大きなトランクルームをつけるとSUVらしくなくなる。そこで、ごく短い独立したトランクルームを設け、SUVらしさとロールス・ロイスらしさの両方を表現したという。

ボディサイドのキャラクターラインがほぼ水平か、微妙に後ろ上がりなことも彼らにとっては例外中の例外。その目的もSUVらしさとロールス・ロイスらしさの両立にあった。

フロント・オーバーハングを極端に切り詰めたプロポーションはロールス・ロイスの特徴のひとつだが、これはSUVで重要なアプローチアングルの改善にも役立っている。

リヤパッセンジャーのプライバシーを守るために幅広のCピラーを用いるのも同社の伝統だが、カリナンでは開放感を優先して6ライト・デザインを採用。これもロールス・ロイスにとっては異例のことといっていい。

ロールス・ロイス カリナンのリヤシート

INTERIOR

期待どおりのロールス・ロイスらしい後席

カリナンのインテリアはロールス・ロイスの文法どおりといっていい。レザー、ウッド、メタル類などのすべてに最高級の素材を用い、職人がひとつひとつていねいに仕上げていくそのスタイルは、これまでとまったく同じ。エアベント開閉用のオルガンノブを始めとするスイッチ類が扱いやすく、メーターのデザインがシンプルで見やすいことも同様。天井に満天の星が輝くスターライト・ヘッドライナーも引き続き用意される。

一方、リヤシートにはベンチシートのラウンジシートと、いわゆるキャプテンシートのインディビジュアルシートが用意されるが、このうちインディビジュアルシートはラウンジシートより着座位置が10mmほど高く、見晴らしが良好。ただし、乗り心地はラウンジシートと変わらないように工夫されている。また、テールゲートを開けた際に室内に外気が入り込まないよう、ラゲッジルームとの間に透明なパーティションが設けられるのもインディビジュアルシートの特徴。ただしシートバックが可倒式となるのはラウンジシートのみ。なお、テールゲートを開けたときに2脚のシートとテーブルが現れるビューイング・スイートもカリナンならではの装備だ。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/ROLLS-ROYCE MOTORCARS

【SPECIFICATIONS】

ロールス・ロイス カリナン

ボディサイズ:全長5341 全幅2164 全高1835mm
ホイールベース:3295mm
車両重量:2660kg
エンジン:V型12気筒DOHCターボ
総排気量:6749cc
最高出力:420kW(571ps)/5000rpm
最大トルク:850Nm(86.7kgm)/1600rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/45R22 後285/40R22
最高速度:250km/h(リミッター作動)
環境性能(EU複合モード)
燃料消費率:15L/100km
CO2排出量:341g/km
車両本体価格:3894万5000円

※GENROQ 2018年 12月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。