池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【第5回:vs ポルシェ718ケイマン編】

池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【第5回:vs ポルシェ718ケイマン編】

ALPINE A110S × Porsche 718 Cayman × Satoshi IKEZAWA

アルピーヌA110S × ポルシェ718ケイマン × 池沢早人師

近代スポーツカーの両雄、明確な「走り」に対する考え方の違い

日本におけるスーパーカー文化の礎であり、スーパーカーブームの火付け役になった名著『サーキットの狼』。主人公である“風吹裕矢”の相棒として登場するロータス ヨーロッパが大排気量、大パワーを誇るフェラーリやランボルギーニと壮絶なバトルを繰り返す「柔よく剛を制する」物語は子供たちだけでなく大人をも魅了した。今回は軽量さを味方に軽快な走りを魅了したロータス ヨーロッパの再来との呼び声の高い近代ライトウェイトスポーツ「アルピーヌ A110S」のライバルとして、ポルシェのMRモデル「718ケイマン」を試乗へと連れ出した。同じ時代に生まれたスポーツカーはどんな一面を見せてくれるのだろうか・・・。

ポルシェ718ケイマンと池沢先生

ポルシェが手掛けた本気の4気筒モデルを違和感なく楽しめる時代が到来した!

今回のライバル対決としてアルピーヌ A110Sのライバルに選んだ一台はポルシェ718ケイマンだ。ラインナップには350psを発揮する718ケイマンSや水平対向6気筒エンジンを積んだ718ケイマンGTS 4.0も用意されているが、今回のライバル対決では最もベーシックなモデルをチョイスした。

まずはポルシェ718ケイマンというクルマを観察してみよう。ケイマンは2005年のフランクフルトショーでデビューを飾り、そのルーツは987型ボクスターのクーペモデルとしてデビューを果たしている。2013年には2世代目へと進化を遂げ、試乗へと連れ出した現在のモデルは2016年に登場した3世代目となり正式名称を718ケイマンへと変更している。“718”という数字は、1957年に登場した4気筒のミッドシップレーシングカーであるポルシェ917に由来するもので、ポルシェが4気筒エンジンに対する「本気」を表していることが伺える。

ポルシェ718ケイマンの走行シーン

代名詞のリヤエンジン・リヤ駆動から脱却した現代ポルシェ

『サーキットの狼』世代であれば周知のことだろうが、ポルシェはこれまでに4気筒モデルを幾つも世に送り出している。水平対向4気筒エンジンを搭載した914や水冷4気筒エンジンを搭載した924、944、944ターボ、968などが有名だが、当時は「ポルシェ=911」という概念が定着しており、出来は悪くなかったにも関わらず商業的に成功することはなかった。

「空冷エンジン」そして「RR=リヤエンジン・リヤ駆動」の呪縛から逃れようとしたポルシェの挑戦だったのだろうが、世の中は「ポルシェ911こそがポルシェ」であり、それ以外は決して認めることはなかったのである。しかし時代は移り、カイエン、マカンなどのクロスオーバーSUV、4ドアGTであるパナメーラ、新時代EVのタイカンなどを続々とラインナップに加えることで「ポルシェ=911」のイメージは薄れ、ボクスターやケイマンもポルシェの一員として違和感なく迎え入れられるようになった。

ポルシェ718ケイマンの走行シーン

ドライバーの期待を裏切らないポルシェの自動車哲学に満ち溢れたケイマン

アルピーヌ 110Sのスタイルは初代モデルをオマージュした唯一無二のイメージだが、718ケイマンの姿はポルシェ911のそれに近い。初代カイエンに感じた胴長の印象は微塵もなく、ボクスター/ケイマンの3世代目モデルは4気筒ポルシェとして完成された美しさを手に入れた。

サイドのエアーインテークが大きなアクセントとなり、ワイド感を漂わせるボディ幅、スラントしたフロントノーズと筋肉質なリヤフェンダー、センター出しのエキゾーストが近代ポルシェらしい仕上がりを見せる。インテリアはフランス車らしいA110Sのデザイン性の高さとは正反対の質実剛健さが漂い、アナログとデジタルを融合させたメーターや武骨なハイバックシートがポルシェらしさを物語る。

ポルシェ718ケイマンと池沢先生

ベース価格はリーズナブルだがオプションを選んでいくと青天井のポルシェ

ステアリングは911の特徴である立ち気味のポジションから角度の付いた近代的なものへと変更され、PDKを操るステアリングホイールの左右に設えたパドルシフトも大ぶりで扱い易い。ダッシュ上にはオプション装備であるスポーツクロノパッケージの象徴であるクロノメーターが置かれ気分を盛り上げてくれる。

次にA110Sと718ケイマンのパワーユニットを比較してみよう。共にシート後方にターボチャージャーを備えた水冷式の4気筒DOHCエンジンを積んだMRレイアウトではあるものの、迫力に関しては718ケイマンが上回る。4気筒ではあるものの水平対向ならではの重厚な音質を響かせ、予備知識のないユーザーであれば水平対向6気筒エンジンと勘違いしてしまうに違いない。この辺りの演出もポルシェらしい味付けであり、初代ケイマンやボクスターで不評だった金属質なサウンドは影を潜め、限りなく911に近い音質を提供している。逆にA110Sはもう少しエキサイティングなエキゾーストノートという演出があれば、その魅力は更に大きくなると思うのだが・・・。

今回の718ケイマンはべーシックグレードで車両本体価格は773万円に設定され、911の約半額の設定はリーズナブルさが際立つ。A110Sと比較すると100万円も安いことになるのだが、ポルシェはオプションの設定を多数用意し、今回の試乗車も総額400万円(!)近い装備が盛り込まれていた。これがポルシェ・マジックと言われるもので、基本的にはベース車両を選んでからカスタムオーダーするのが当たり前になっているので注意が必要だ(笑)。

ポルシェ718ケイマンと池沢先生

ソリッド志向のA110Sに対して安定感を武器にする718ケイマン

1.8リッターの4気筒DOHCエンジンにターボチャージャーを付加したA110Sに対し、718ケイマンは2.0リッターの水平対向4気筒エンジンにターボチャージャーが与えられて300psの最高出力を叩き出す。最高出力はA110Sの292psとほぼ同等。ボディサイズではケイマンの全長が180㎜ほど長いものの全幅と全高は変わらない。同じ2シーターのMRというレイアウトも同じだが唯一の違いは車両重量だ。近代ライトウェイトスポーツの名を持つA110Sの1100㎏に対して、ケイマンは1440㎏と330㎏ほど重たいことになる。

実際に走りを比べてみるとその差は歴然。A110Sは軽量さを武器にソリッドでシャープなハンドリングで峠を駆け抜け、ハンドルを握るドライバーのアドレナリンを大放出させる。走りの特徴は回頭性を武器に最短ルートで旋回し、コーナーの出口でアクセルを踏み込むと車重の軽さを味方に切れ味鋭く加速していく。まさに近代ライトウェイトスポーツそのものである。

アルピーヌ A110Sのフロントセクション

鋭く路面を切り裂くA110Sに対し、ケイマンはアスファルトを抱きしめる

一方、718ケイマンはというとA110S比でプラス330㎏の重量が安定性に貢献しているかのような印象を与える。極めて高い安定性というイメージはポルシェが受け継ぐ哲学そのものであり、重量のハンデキャップを感じさせることは無い。すべてのタイヤがしっかりと路面を掴み、リヤミッドに搭載された4気筒エンジンを中心にコーナーを駆け抜けていくのは爽快感と同量の安心感を与えてくれる。

A110Sが鋭いナイフで路面を切り裂くように走るとすれば、718ケイマンは大きな手でアスファルトを抱きしめるような違い、と言えば理解してもらえるだろうか。比較差を「歴然」と表現したが、それはA110Sが優れ718ケイマンが劣っているという意味ではない。同じスポーツカーでありながらも、走りに対するアプローチの違いが歴然という意味であり、この違いはボクが描いた『サーキットの狼』で、“風吹裕矢”が駆るロータス ヨーロッパと“早瀬佐近”のポルシェ911カレラRSのライバル関係に限りなく近い。ボクがA110Sを「ロータス ヨーロッパの再来」と思えるのも、こうしたポルシェをライバルにする関係性を再現しているからだ。

アルピーヌ A110S、ポルシェ718ケイマン

週末の峠道やサーキットでのスポーツ走行を楽しむならA110S

718ケイマンの持つ安定感は高速道路でも不変であり、追い越し車線へとステアリングを切り込みアクセルを踏み込んだ瞬間、水平対向らしいエンジン音を響かせて加速していく。兄貴分である911と比較してしまえばパワーの差は歴然だが、必要にして十分以上の走りを披露してくれるはずだ。特にハイアベレージでの安定感は素晴らしく、ポルシェのラインナップの中ではコンパクトなモデルではあるものの、ツアラーとしても十分に楽しむことができるのも718ケイマンの魅力である。

A110Sと718ケイマンはスポーツカーではあるものの、日常生活に於いても快適性を犠牲にすることなく大きな魅力を発揮してくれる。試乗を通じて両モデルを比較した感想としては、ロータス エリーゼ スポーツ220のような走りに特化して贅沢さを削ぎ落とすストイックさはないものの、週末の峠道やサーキットでのスポーツ走行を楽しむなら718ケイマンよりもA110Sに軍配が上がる。

一方「いざ」という時にスポーツカーとして頼りになるデートカーとして使うのであれば、718ケイマンの二面性が大きなアドバンテージになるはずだ。同じ時代に生を受けた2台のスポーツカーに甲乙をつけるのは難しい。ベクトルは異なるものの「走る楽しさ」はハイレベルで拮抗している。

TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)

PHOTO/森山良雄(Yoshio MORIYAMA)

【SPECIFACATIONS】

アルピーヌ A110S

ボディサイズ:全長4205 全幅1800 全高1250mm

ホイールベース:2420mm

車両重量:1110kg(※グリ トネール マットのみ1120kg)

エンジン:直列4気筒DOHC16バルブ+ターボ

総排気量:1798cc

最高出力:215kW(292ps)/6420rpm

最大トルク:320Nm/2000-6420rpm

トランスミッション:7速DCT

駆動方式:RWD

サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン

ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク

ディスク径:前後320mm

タイヤサイズ:前215/40R18 後245/40R18

最高速度:260km/h

0-100km/h加速:4.4秒

車両本体価格(税込):864万円(※2021年1月1日より新価格)

ポルシェ 718 ケイマン

ボディサイズ:全長4385 全幅1800 全高1295mm
ホイールベース:2475mm
車両重量:1390kg(※PDKモデル)
エンジンタイプ:水平対向4気筒DOHCターボ
総排気量:1987cc
最高出力:220kW(300ps)/6500rpm
最大トルク:380Nm/1950-4500rpm
トランスミッション:7速PDK
駆動方式:RWD
サスペンション:前後マクファーソンストラット
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前235/45ZR18 後265/45ZR18
最高速度:275km/h
0-100km/h加速:4.7秒(※スポーツクロノパッケージ装着車)
車両本体価格:773万円

【問い合わせ】

アルピーヌ コール

TEL 0800-1238-110

ポルシェ カスタマーケアセンター
TEL 0120-846-911