【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第18回】“ハース再生”を目標に新人ふたりを起用「ミスを恐れずに挑戦してほしい」

 2020年シーズンで5年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。バーレーン・インターナショナル・サーキットの外周コースを使って開催されたF1第16戦サクヒールGPでは、ロマン・グロージャンに代わってピエトロ・フィッティパルディを起用した。

 そしてグランプリの前には、2021年シーズンのラインアップが発表され、ミック・シューマッハーとニキータ・マゼピンという新人コンビで戦うことが明らかに。ルーキーふたりを擁して戦うハースには今後も注目が集まることだろう。そんなハースの現場の事情を、小松エンジニアがお届けします。

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2020年F1第16戦サクヒールGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選16番手/決勝15位
#51 ピエトロ・フィッティパルディ 予選20番手/決勝17位

 第16戦サクヒールGPでは前戦で負傷したロマンの代役として、ピエトロを起用しました。ピエトロは今年1年ずっとチームに帯同していたので我々の仕事の仕方をよく分かっていますし、またチームのエンジニア、メカニックもよく知っています。ですから急遽、ほぼ準備なしでロマンの代わりに乗るための土台があったので、最終的にはギュンター(シュタイナー/チーム代表)が彼の起用を決めました。

ピエトロ・フィッティパルディ(ハース)
2020年F1第16戦サクヒールGP ピエトロ・フィッティパルディ(ハース)

 今回は初めてバーレーンの外周コースを使用してのグランプリで、前回のコラムでもこれまで以上にパワーが重要になると書きましたが、やっぱり厳しかったですね。直線スピードを伸ばすためにダウンフォースを削ると、今度はタイヤを滑らせてしまってコーナー出口の加速が鈍ってしまったりもするのでなかなか妥協点を探すのが大変でした。

 予選ではピエトロにグリッド降格ペナルティが科されることが分かっていたので(3基目のCEとESを使用したため)、レースは20番手からのスタートになることがほぼ決まっていました。

 Q1ではソフトタイヤで3回アタックすることにしたのですが、その内の最後の2回では、ピットストレートでピエトロにケビンを引っ張ってもらいました。このスリップストリームのお陰でケビンはコンマ3秒近くタイムを稼げましたが、あと一歩のところでQ2には届きませんでした。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2020年F1第16戦サクヒールGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

 このサクヒールGPに持ち込まれたタイヤはC2〜C4と、比較的硬めの選択だったので、レースではミディアムタイヤ(C3)とソフトタイヤ(C4)が主流になると読んでいました。ハードタイヤ(C2)に関しては前回苦労したので、コーナーが少なくタイヤを機能させにくい外周コースのレイアウトでは、少なくともウチのクルマではなかなかうまく使えないだろうと予測していました。実際に走り出してミディアムとソフトの様子を見ると、事前の予測はほぼ正しかったです。

 レーススタートで戦略を分けずに2台ともにソフトでスタートしたのは、1周目のグリップの良さやタイヤの摩耗の良さを考慮してのこと。摩耗が問題にならないということは、1回目のピットストップまでの周回数が摩耗で制限されて短くなることはないということです。ですからソフトでスタートすることに躊躇はなかったです。

 エステバン・オコン(ルノー)やランス・ストロール(レーシングポイント)は見事に1ストップ作戦で表彰台に上がりましたが、ウチのクルマで1ストップは無理でした。特に青旗や他車とのバトルなどがあった場合、タイヤを保たせるのが厳しくなります。ですから、1ストップというのは残念ながら選択肢に入りませんでした。

 ちなみに今年は、コロナ禍で急きょカレンダーに加わったサーキットが今回の外周レイアウトを含めて6カ所ありましたが、もし来年ベトナムの代わりにどこかで開催できるとしたら、僕のなかではムジェロがいいですね。ニュルやイモラ、ポルティマオ、イスタンブールもそれぞれ雰囲気があってレイアウトもおもしろいのですが、僕はやっぱり流れるような高速コーナーがあって、ジェットコースターのようなコースのムジェロが好きです。

 特にF1のように空力が効いているクルマの凄さがよくわかるサーキットだと思います。個人的には鈴鹿、スパと並んで最も好きなサーキットひとつです。トスカーナ地方の山に囲まれてとても綺麗なところですし、麓にはフィレンツェもあるので観に来てくれるお客さんにも良い場所だと思います。ただしアクセスがあまりにも悪いので満員のお客さんを入れてF1を開催できるかというと、残念ながら難しいかなと思ってしまいます。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2020年F1第16戦サクヒールGP ケビン・マグヌッセン(ハース)
ピエトロ・フィッティパルディ(ハース)
2020年F1第16戦サクヒールGP ピエトロ・フィッティパルディ(ハース)

■2021年はルーキーふたりを起用「お互いがプッシュしあえる環境になれば」

 そして、2021年はミック・シューマッハーとニキータ・マゼピンというふたりのルーキードライバーを起用することが発表になりました。2021年はハースにとって、2度目の誕生のような年になります。2016年にゼロからスタートして、初年度から何とか中団で戦い、2018年にはコンストラクターズランキングにおいて5位まで上がりました。

 しかし昨年のクルマの開発に失敗して選手権では一気に9位まで落ち、この影響でチームの財政もかなり苦しくなって、これに新型コロナウイルスのパンデミックが追い打ちをかけたのです。

 2019年の失敗を繰り返さないためには根本的な改革が必要です。これには時間もかかりますし、ある程度お金もかかります。ですから今年の比較的早い段階で、2021年のドライバーラインナップはチーム再生の一環として中期的な目で見るということになりました。

 ミック・シューマッハーはFIA-F2最終戦でチャンピオンも獲りましたし、ハースと関わりの深いフェラーリの育成ドライバーでもあります。ですから実力的にも戦略的にも問題のない選択でした。

 ニキータ・マゼピンがこれからどう成長するかは、彼と、そしてハースというチームの力が問われるところだと思います。誰もが分かっていることだと思いますが、彼の持ち込むお金はハース再生のためには欠かせません。ここまでの5年間はロマンという実力もあって基準となるドライバーがいましたが、来年からは違います。

 彼らふたりからベストを引き出すためにはチーム側にも今までとは違ったアプローチが求められると思います。とにかく、ふたりをそれぞれしっかりと理解して、良いところは伸ばし、悪いところはどんどん一緒になって潰していきたいです。

 彼らに期待することは、ハングリーに、どんな状況でも諦めず常にベストを尽くすことです。F2とF1ではクルマとタイヤがまったく違います。ということは運転にも違ったものが求められるということです。この辺りは貪欲に吸収してうまく順応しなければなりません。

 若さゆえミスも犯すでしょうが、誤解を恐れずに言えば攻めた結果としてのミスならいいです。逆にミスを恐れずに挑戦していってほしいですし、チームにもどんどん要求を出していってほしい。そしてお互いが良い意味でプッシュしあえる環境になれば何よりだと思います。

ミック・シューマッハーとハースの小松礼雄エンジニアリングディレクター
ミック・シューマッハーとハースの小松礼雄エンジニアリングディレクター
2021年にハースF1チームからF1にデビューするニキータ・マゼピン
2021年にハースF1チームからF1にデビューするニキータ・マゼピン