最終周チェッカー手前で衝撃の大逆転。RAYBRIGがKeePerとの死闘を制してチャンピオンに輝く【第8戦富士GT500決勝】

 歴史的僅差の最終決戦となった2020年スーパーGT第8戦富士スピードウェイでのGT500クラス決勝は、ほぼレース全域を支配した37号車KeePer TOM’S GR Supraがまさかの結末を迎え、そのライバルを最後まで追い詰める走りを見せた100号車RAYBRIG NSX-GTの山本尚貴/牧野任祐組が2020年初優勝を飾ると同時に劇的な大逆転劇でこの波乱のシーズンを制した。山本はジェンソン・バトンと組んだ2018年以来2度目、牧野はGT500参戦2年目にしてのタイトル獲得。そしてRAYBRIGブランドのラストランを飾るGT500チャンピオンを手にした。

 グローバル展開を目指した車両規定『Class1+α』導入初年度となった今季、トヨタ陣営が投入した新型GRスープラはハンデウエイトや特別性能調整のないガチンコ勝負の開幕戦で、トップ5独占の衝撃的デビューを飾った。

 その7月開幕の富士から急ぎ足で7戦を終えた変則シーズンは、ここまでトヨタ勢が2勝、ニッサンGT-Rが2勝、そしてフロントにエンジンを積むFR駆動方式を採用した新型NSX-GTのホンダ勢が3勝と僅差の勝負が繰り広げられた。

 この結果、最終戦を前にランキング上位6台に自力王座の権利があり、トップ10圏内の10台に数値上タイトル獲得の可能性が残される、シリーズ史上で類を見ない緊迫のタイトル戦線となった。

 例年どおりノーウエイト戦として開催された今回の富士は、11月29日(日)という開催時期のみが異例で、前日土曜午後の予選は気温13℃、路面温度も17℃と今季初の冷間コンディションに。ここで躍進したのがロードラッグなマシン特性を武器とするGR Supra勢で、開幕戦勝者KeePer TOM’S GR Supraがポールポジションを奪取。以下、4番手までトヨタ勢が並び、ホームコースでの決勝レースに向け盤石の体制を築き上げた。

 一方、そのコンディションに翻弄された形となったのがホンダ陣営で、KeePerと並び選手権首位で週末に臨んでいたKEIHIN NSX-GTは、まさかのQ1敗退で12番グリッドに。かろうじてQ2進出を果たしたRAYBRIG NSX-GTも、獲得ポイント49点で並ぶMOTUL AUTECH GT-Rに先行され、背後の7番グリッドから巻き返しを狙う構図となった。

 第5戦に続き多くのファンが詰めかけたサーキットでは、レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップで日本人初の世界王者となった室屋義秀によるフライトパフォーマンスに合わせ、レーシングドライバー"モリゾウ"こと、トヨタ自動車株式会社の豊田章男社長が登場。現地に集った観客とともに、コロナ禍に揺れたシーズンが無事最終戦を迎えた喜びを分かち合った。

 午前11時30分からの決勝前ウォームアップ走行を経て、曇り空の続く13時決勝スタート時には気温8℃、路面温度も13℃という寒さの中で、今季最後の66周300kmの決勝が幕を開けた。

 2周を予定していたフォーメーションラップが走行中に急きょ1周追加され、レース距離が1周マイナスの65周に変更。王座決定戦に向け、スタートではポールの37号車KeePer山下健太を先頭に、2番手DENSO KOBELCO SARD GR Supraヘイキ・コバライネン、3番手au TOM’S GR Supraのサッシャ・フェネストラズ、4番手ZENT GR Supra立川祐路がディフェンスラインを組むように1コーナーのTGRコーナーへ。

 しかし、その背後から怒涛の勢いを見せたのがMOTUL AUTECH GT-Rのロニー・クインタレッリ。ミシュランタイヤの高いウォームアップ性能を活かして1コーナーで5番手Modulo NSX-GT伊沢拓也を仕留めると、すぐさまZENT立川もパスし、ダンロップコーナー進入ではアウト側から誰よりも深いブレーキングで3台のGR Supraを一気にオーバーテイク。鮮やかな先制攻撃を見せ首位でホームストレートへと帰ってくる。

 その後方でも、タイトルコンテンダーのKEIHIN NSX-GTベルトラン・バゲットがジャンプアップし、オープニングラップで7番手まで躍進。続く周回でカルソニック IMPUL GT-Rもパスして、早くも6番手に浮上する。

 2番手を守ったKeePer山下は、後方から迫る同門を抑え込むことで集団内は接近戦となり、コバライネンとフェネストラズがサイド・バイ・サイドの肉弾戦を展開。ポジションを入れ替えながらの激しい攻防を繰り広げる。

 すると、この際のコンタクトが原因で39号車DENSO KOBELCO SARDの左リヤフェンダーが破損し、コバライネンは5周目に緊急ピットへ向かう事態に。レース開始早々にして39号車は優勝戦線(つまりはタイトル戦線)から離脱する無念の展開となる。

 予選では硬めのコンパウンドを選択し、グリップ発動までに時間を要すると思われたKeePer山下は、序盤のバトルをしのいだことで好機到来。7周目には前方のMOTUL AUTECH GT-Rを捉え、ホームストレートを並走して最高速の伸びを存分に披露し、1コーナーで鮮やかにインを突いてスタートポジションを挽回、早々とトップランを取り戻す。

 一方でZENT立川はタイヤにピックアップが起きたかグリップに苦しみ、10周目にホンダNSX-GTの2台に先行を許し6番手へと後退。その前方ではフェネストラズがGT-Rに襲い掛かり、11周目の1コーナーからコカ・コーラ・コーナーへの勝負でインを取り2番手へ浮上するなど、GR Supra勢でも明暗が分かれる展開に。

 4番手へと浮上したKEIHINバゲット、RAYBRIG牧野の2台もホンダ陣営同士の仁義なきバトルを繰り広げ、牧野が17号車のテールにノーズを擦り付けるように追いすがると、11周目の1コーナーアウト側から強気のオーバーテイク。勢いに乗る牧野は、続く14周目のGR Supraコーナーでクインタレッリをあっさりと仕留め、表彰台圏内に上がってくる。

■マシンを降り、拳でガードレールを叩いた平川亮

 ともにタイヤに苦しむMOTUL AUTECH GT-R、ZENT GR Supraは、ともに16周目にさらにポジションを失い、KEIHINバゲットが4番手、13番手スタートだったWAKO’S 4CR GR Supraの大嶋和也がコントロールラインからの3ワイドバトルを制し、一気に7番手浮上に成功する。

 その後もレースペースの衰えないRAYBRIG牧野は、2番手のauフェネストラズにロックオン。20周目のセクター3ではGT300クラスの車両も巧みに利用しながら、最終コーナーでイン側のラインを選択して前へ出る。しかしそこから富士名物1.5kmのホームストレートはGR Supraのテリトリーで、コントロールラインで悠々と並ばれここでのポジション入れ替えはならず。

 しかし、21周目のダンロップで鋭くインを狙った牧野が正真正銘バトルを制し2番手を手にする。その牧野は直後の22周終了時点で1番乗りでピットへ。ミニマムの戦略を選んで後半の長いスティントをエース山本尚貴に託し、逆転タイトルへと望みを賭ける。

 しかしこの同一周回でピットへと飛び込んだ集団の中で、勝負に打って出たのが14号車WAKO’S。タイヤ無交換作戦を採り、34.9秒の作業時間だったRAYBRIGを上回り、NSX-GTの前でコースへと復帰。コールドタイヤのRAYBRIG山本を引き離すばかりか、翌周に40.3秒で作業を終え、平川にスイッチしたKeePerをもコース上で抜き去り、なんと首位浮上を果たす。

 しかし、自身2度目の戴冠を目指すKeePer平川もここを落ち着いて処理すると、タイヤへの熱入れを完了した27周目のヘアピン立ち上がりで逆襲し、再び定位置の先頭へと返り咲く。

 ここから2番手WAKO’Sの坪井翔が無交換のタイヤでどこまで粘れるかが焦点……と思われたそのとき、30周目の最終セクターで三つ巴のバトルが勃発。3番手RAYBRIGがWAKO’Sに迫ると、2台の背後にいたau TOM’S関口雄飛も加わり、山本、坪井、関口のオーダーでホームストレートへと立ち上がる。

 しかし後方GR Supraのストレート上での伸びは明らかで、RAYBRIG山本は2台に先行される形で1コーナーへ向かうと、ここで前の2台がブレーキング勝負の果てに交錯。

 山本は労せずして2番手を手に入れ、WAKO’S坪井は接触でダメージを負って32周目に再びピットへと向かい、コース復帰を果たすも36周目にはスロー走行で3度(みたび)ピットへと戻り、ここでタイトルレースへの権利も失ってしまう。

 首位を行くKeePer平川は2番手RAYBRIGに約15秒ものギャップを稼ぎ出し逃げを打ち、それを追いかけたい山本だったが、その背後からヒタヒタとau TOM’S関口が忍び寄り、40周を前に2台はテール・トゥ・ノーズの状態へ。TOM’Sのワン・ツー体制に持ち込む機会を伺う。

 その同じ頃、立川からマシンを引き継いでいたZENT石浦宏明がペースを上げ、39周目にカルソニック、40周目にARTAをかわして5番手までカムバックする。しかし50周を過ぎ路面温度が10℃まで低下すると、その石浦のタイヤにも立川と同じようにピックアップ、またはドロップが訪れたか、再びARTA、そしてCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rにもパスされ、低気温状況での持ち込みタイヤ選択がいかに難しいかを感じさせる状況に。

 残り10周を切ると首位のKeePer平川にも異変が起こり、タイヤか残り燃料の懸念か、はたまたトラブルからかわずかにペースダウン。1分32秒台のGR Supraに対し、2番手山本がラップごとに秒単位で差を詰め、残り5周の60周時点で3秒1まで迫り、10秒以上あったセーフティマージンが消し飛ぶ事態となる。

 残り3周でギャップは2秒079。パッシングを繰り返しながらバックマーカーを処理し続けたRAYBRIG山本だったが、平川も意地で反応しファイナルラップ突入時にはわずかにマージンを取り戻す。この時点で勝負あり、シーズン途中で離脱したニック・キャシディの思いも背負って、2度目の戴冠……と思われた最後のコーナー。

 ホームストレートへと入った37号車KeePer TOM’S GR Supraは、なんとそこから加速することができず。攻めに攻めていた燃料搭載量が、この重要な局面で運命の悪戯を引き起こし、勝負の結果のガス欠でストレート脇にマシンをストップ。マシンを降りた平川は右拳でガードレールを叩き、その場に崩れるようにしゃがみ込んで悔しさをみせた。

 加速できなかったKeePer TOM’S GR Supraの横をすり抜けていった100号車RAYBRIG NSX-GT、山本尚貴がトップでフィニッシュラインをくぐり、2020年初優勝を飾ると同時に劇的な形で自身2度目のチャンピオンを獲得。そのRAYBRIGもウイニングランを走り切ることができず、こちらの燃料もギリギリを攻めた、まさにGT500クラスのコンペティションレベルの熾烈さを象徴する幕切れとなった。