山下健太“Q1辞退”の背景と、決勝で問われる真冬のウォームアップ《第8戦GT500予選あと読み》

 予選後のTVインタビュー、そして記者会見でも語ったように、KeePer TOM’S GR Supraの山下健太は公式練習後、「申し訳ないんですけど、Q1は走りたくないです」と、異例とも言えるアタック辞退をチームに申し出ていた。

 前戦ツインリンクもてぎから、ニック・キャシディに代わる助っ人として平川亮とコンビを組む山下。もてぎでは公式練習終盤のGT500専有走行時間帯にステアリングを握り、その感触もよかったことで山下がQ1を担当することとなったが、まさかのQ1不通過――。レース後も「ヘコみました」と山下は言う。

 今回の富士でも同じように公式練習最後の専有走行を担当し、トップタイムをマークするが、その直後にチームに“Q1辞退”を伝えていた。

 もてぎのQ1落ちが「トラウマだった」(山下)ことだけではない。朝からふたつのスペックのタイヤを比較したのは平川であり、山下が専有走行でトップタイムをマークしたのは予選で使わないソフト側のタイヤ。つまり、予選で履くハード側の新品タイヤを山下は経験できていなかったため、「ニュータイヤの状況を確認できていた平川選手に(Q1を)行ってもらった方がセーフティだろう、と」(小枝正樹エンジニア)、平川がQ1、山下がQ2と決まった。

 しかし硬めのタイヤを選択したため、ウォームアップに時間がかかる。コースインした平川はその状況を冷静に判断してアタックタイミング(結果的に計測5周目)を見極め、Q1をトップ通過。

 平川がトップでQ1を通過したこと、さらに本命ラップを計測5周目に定めるとなると、もしアタックラップで失敗をしてももう1周アタックする時間的余裕がなくなることにより、山下のプレッシャーはさらに高まった。

 だが山下はワンチャンスを見事にものにし、コースレコードでポールポジションを奪う。タイトルがかかる最終戦で、19王者は『助っ人』として申し分ない働きを見せた。

 今回、GRスープラ勢の持ち込んでいるタイヤスペック、そして予選で選択したスペックは割れている模様で、それは予選でのベストラップをマークした周回数にも表れている。

 Q2で計測5周目にベストラップを出しているのは山下だけで、2番手のDENSO KOBELCO SARD GR Supraヘイキ・コバライネンは計測3周目、3番手au TOM’S GR Supra関口雄飛は計測4周目、4番手ZENT GR Supra立川祐路は計測3周目にベストタイムを記録している。

 これらのことから、2番手以下のGRスープラ勢が選んだタイヤは、KeePer TOM’S GR Supraが選択しているものより柔らかめであることが分かる。

 山下はタイヤについて「ウォームアップには時間がかかりますが、温まればグリップがいい」と評する。ロングラン後のタイヤの表面も綺麗だったという。予選に向けて選択しなかったソフト側のタイヤは、「予選を通るためだけならあり」だが「レースを考えるといまの(ハード側の)タイヤしかない感じ」と山下。

 小枝エンジニアは選択しなかったソフトタイヤについて、「この時期に対してゴムが弱い感じでした。支えきれない感じというか、あとはささくれ(摩耗)が少し出てしまったり、ピックアップしてしまったり……」と説明する。

 一方で4番手の立川は公式練習を振り返って「使いたかったタイヤの方に、グレイニング(ささくれ)が出てしまっていて、決勝に向けて不安が残る状態。なので、ロングランはあまりできていないですが、いま選んでいる、ウチらとしてや柔らかい方のタイヤでいくしかなかった」と語っており、ハード側、ソフト側の印象がKeePer TOM’S GR Supraとは正反対になっているのが興味深い。

 もちろんこのあたりは、チームによってそもそも持ち込みタイヤのスペックが異なっており、チームによって同じ「ハード」という単語が指すスペックが異なることも影響していると思われる。

 予選で上位4台を占めたGRスープラ勢にとって、決勝での(つまりはタイトル決定の)ポイントのひとつとなりそうなのは、タイヤのウォームアップだろう。マシンのセットアップもうまく決まっているKeePer TOM’S GR Supra陣営にとっては、ほぼ唯一の心配事がこのウォームアップと言えそうだ。

 今回の決勝レースではフォーメーションラップが2周設定されるため、第1スティントの担当ドライバーは比較的タイヤを温めやすい。懸念はコールドタイヤでアウトラップに飛び出していく第2スティントであり、ここが勝負どころとなる可能性がある。

 先頭スタートとなるKeePer TOM’S GR Supraとしては、アウトラップ(+α)分のマージンを、前半スティント終了までに稼ぎたいと考えているはずだ。反対に、ウォームアップの良い柔らかめのタイヤを選んでいる陣営は、そのタイヤでのロングランをアベレージよくこなせば、勝機が見えてくるとも言える。

 もちろん、それらの前提条件として決勝中の路気温も大きなポイントとなってくるはず。未知なる真冬の富士決戦、最後に微笑むのは誰になるのだろうか。

小枝エンジニアはもてぎの一件について、「山下選手は『自分が、自分が(ダメだった)』と言ってくれてますが、根本的には我々がセッティングをうまく合わせきれなかったと思っています」と語る。今回の富士に関してはセットアップは「悪くない」とのことで「本当に(タイヤの)温まりのところだけ。そこは(決勝でも)ドライバーに頑張ってもらうしかない状況です」。
小枝エンジニアはもてぎの一件について、「山下選手は『自分が、自分が(ダメだった)』と言ってくれてますが、根本的には我々がセッティングをうまく合わせきれなかったと思っています」と語る。今回の富士に関してはセットアップは「悪くない」とのことで「本当に(タイヤの)温まりのところだけ。そこは(決勝でも)ドライバーに頑張ってもらうしかない状況です」。