データと動画をフル活用! これが現代のドリフト機械審査攻略法だ【D1GP第6戦EBISU WEST DRIFT】

■人間の目より数字が頼り!?

6〜7年前まで、D1GPの単走審査はすべて人間が行っていました。当時の単走攻略法としては、審査席近辺にスポッターという役割のスタッフを置きます。そのひとが目で見て、あるいは動画を撮影して、審査基準に合うような、さらには審査員の好みまで探って高得点を出せる走りを組み立て、ドライバーに指示を出すというものでした。

時代は変わって、D1GPの単走は基本的に機械が採点するようになりました。通過指定ゾーンを外したり、コース外走行をすると人間が減点しますが、それ以外は機械審査システム『DOSS』を使って採点します。

車載器の角速度センサー(ジャイロセンサー)、加速度センサー、GPSで取得したデータをもとに、「最高速」「平均速度」「平均角度」「角度の安定性」「角速度」「躍動性(Gの変化量で計測する)」といった項目で、セクターごとに採点されます。

では、現在各チームはどうやってこの機械採点を攻略しているのでしょうか? 今回はポイントリーダーである小橋正典選手を擁し、D1GP参加チームの中でもトップクラスにDOSS攻略の精度が高いと思われるチームオレンジを取材しました。

公式練習1回目の小橋選手
1回目の練習走行前の小橋選手。まだデータがないので、自分なりの予想で高得点がとれる走りを試します。

今回のエビス西コースは初開催のコースです。過去に開催されたことがあるコースだったらそのデータを参考にするのか聞いてみると、「最近は通過指定ゾーンが毎年変わるので、前の年の走りはあまり参考にならないんです」(小橋選手)とのことです。

2回行われる公式練習の後にはそのつど各選手のDOSSデータが配信されますが、その前の任意練習走行やチェック走行ではDOSSデータは配信されないので、設定された通過指定ゾーンの位置を踏まえて自分なりに練習しておきます。

公式練習1回目のスポッター
チームオレンジのスポッター(中央のふたり)。公式練習時には全員の走りを撮影します。

そして土曜日の公式練習1回目。チームオレンジのスポッターには大事な役割があります。目でチェックするほかに、ほかの選手の走行も含めて走行時間中ずっと動画撮影するのです。

走行後しばらくすると各車のDOSSデータが配信されます。これは登録したエントラント全員に、全選手のデータが配信されるので、誰の走りが何点だったのかがまるわかりです。

練習走行でのDOSSデータ
公式練習後にはこのような全選手のDOSSデータがエントラントに配信されます。個人情報ではないと思いますが、いちおう今回は選手名を伏せてみました。

小橋選手の点数は……ガーン! よくても98点台半ば。99点台を出している選手がゴロゴロいる中で、いまひとつの得点です。単走落ちするような点数ではありませんが、特に追走に入ってからはDOSS得点も勝敗を大きく左右する要素なので、シリーズチャンピオンを狙う小橋選手としては、ちょっとヤバい状態です。

しかし、ここからが機械審査攻略のキモです。まず、先ほど配信されたDOSSの全データから、自分の走りと高得点をとったほかの選手の走りを分析します。というのは、配信されるDOSSデータはただ得点が表示されるだけでなく、各セクターごとの、平均速度や平均角度、角度安定性、角速度、躍動性など項目別の採点も細かく表示されているのです。

DOSSを分析する小橋選手
1回目の公式練習後の小橋選手。スマホのDOSSデータとタブレットの動画を照らし合わせながら、走りかたを探ります。

これで、自分の走りで点が低かったセクターとその原因、そのセクターで高得点をとっているドライバーとその要因をチェックします。そして、さっきスポッターが撮影した動画の出番です。配信されたDOSSデータには、データが取得された時刻も表示されています。

動画を撮影した時刻と照らし合わせると、いい走りをしたときの動画を簡単に探し出せます。そうやって動画を見て走りかたを探るのです。

プリンター
DOSSデータは非常に字も細かいので、必要に応じてプリントアウトできるように、チームレオレンジはプリンターも持ってきています(写真は第4戦のときのもの)。

幸運なことにチームメイトである末永直登選手が99点オーバーを記録していました。なので、末永(直)選手のデータと走りを中心に走りかたを探ります。もちろんチームメイトなので情報交換もできます。

 

けっきょく小橋選手は夜中の1時まで、DOSSデータと動画を分析していたそうです。

■見事に修正して単走2位ゲット!

公式練習2回目
前日の分析を踏まえて、決勝日朝の最後の公式練習に臨みます。

そして翌日の決勝日。朝に1回だけ公式練習が行われ、DOSSデータの配信が行われます。

小橋選手は前日の練習走行では、前半の第1セクター、第2セクターはまずまずいい走りができていたものの、第3〜第5セクターの得点がよくなかったので、そこを特に重点的に改善したそうです。

公式練習2回目の後の小橋選手
公式練習2回目のDOSS得点を見て「やったー」と声を上げる小橋選手。

そしてDOSSデータは……99点オーバー! さすがです。じつは前日よりも点を落としている選手が少なくない中で、一気に1点上げてきました。これは全体の中でもトップの得点です。

 

「ブレーキングをちょっと長くとるとガクッと点が落ちちゃったりするので、むずかしいことはむずかしいですけど、やろうとした走りはできました」とのこと。やろうと思ってもなかなかそのとおりにはできないことが多いと思いますが、やろうと思ったことを高い精度でできるというのがトップ選手の強みかもしれませんね。

単走優勝の松山選手GRスープラ
単走優勝は松山選手。車速も高く、角度もある見事な走りでした。
小橋選手の決勝
小橋選手は、準決勝の対戦でステアリング系にダメージを負っていましたが、それでも決勝でものすごい追走を見せました。
優勝の小橋選手
第6戦優勝の小橋選手。今シーズンなんと4勝めです。
松山選手
単走優勝した松山北斗選手。じつはトヨタ自動車のテストドライバーなのです。

そして単走決勝本番。小橋選手は1本めに98.76点をマーク。2本めはもっと高い得点を狙って行きましたが、ちょっと力んでしまったそうで点は伸びず。

けっきょく松山選手に抜かれてはしまいましたが、2位で単走を通過しました。前日の夜は「ヤバいなぁ」と多少ナーバスになっていた小橋選手ですが、もう上機嫌。

そのまま勢いに乗って追走でも優勝してしまいました。これで、2位に32pts差をつけてシリーズ争いは独走態勢に入っています。

2020年シリーズの残りのラウンドは2021年1月30日〜31日の茨城県・筑波サーキットでのデュアルファイナルズのみです。

(文:まめ蔵/写真提供:サンプロス/まめ蔵)