マクラーレン 600LTのパフォーマンスはシリーズの枠を超えた? 【Playback GENROQ 2018】

McLaren 600LT

マクラーレン 600LT

極まった純潔。ロングテールは継承される

ロングテールを意味する“LT”を車名に戴くことはマクラーレンにとって特別なモデルであることを意味する。LTとは読者諸氏ならご存知であろう、あの伝説的なモデル、F1 GTRに由来する高性能グレードに冠せられる名称である。LTを与えられた最新スポーツシリーズ、その実力を測る。

 

マクラーレン 600LTの走行シーン

「ハイブリッド化を進めるマクラーレン。ピュアな内燃機関はいつまで楽しめるか」

グッドウッドで発表されたマクラーレンの中期経営計画「トラック25」には、2025年までに18のニューモデルを導入すると書かれている。

他にもP1後継モデル(P2ではないという)の投入、コネクテッド技術の向上、これまで進出していなかったロシア、インド、中欧などへの新市場への参入、スーパーシリーズとスポーツシリーズの生産台数を現在の3000台余りから年間6000台とする他、25年までにスポーツシリーズ、スーパーシリーズの全モデルをハイブリッド化するというセンセーショナルな内容であった。ただし、ハイブリッドといっても30分のサーキット走行をバッテリーのみでこなせる、軽量で急速充電可能なハイパワー・バッテリー・システムも視野に入れているというから、悲観しなくてもいいかもしれない。それにしてもピュアな内燃機関モデルをあとどれだけ楽しめるか。カウントダウンは確実に始まっている。そして、その18台のニューモデルに含まれない最後の1台という600LTの試乗会が開催された。

マクラーレン 600LTのフロントスタイル

「675LTをベンチマークとして開発された、スポーツシリーズの最速モデル」

600LTはスーパーシリーズの675LTをベンチマークとして開発された、スポーツシリーズの最速モデルである。LTというのはマクラーレンにとって特別な意味を持つ。LTは今や伝説的なモデルであるマクラーレンF1 GTRのレーシングモデル“ロングテール”に由来する。その名は、まず675LT/LTスパイダーに受け継がれたが、それに続く第4のモデルが600LTである。LTという称号は何を求めているのか。もちろんサーキットでの速さにつながるすべてだ。たとえば軽量化、エアロダイナミクス、高出力、サーキットでのダイナミクス、ドライバーとの一体感などだ。これらは、まさに先日発売されたばかりの「セナ」にも通じるストイックな思想だ。

たしかに600LTは同じくスポーツシリーズの570Sと比べて100kg軽量化(DIN比)し、乾燥重量で1247kgという超軽量を誇る。空力にも注力した結果フロントスプリッターやリヤディフューザーが延長され、全長は47mm延びた。720S譲りのフロントサスペンションはワイドトレッドのみならず、10.2kgの軽量化にも貢献しているという。それでいて価格は570Sと比較して20〜25%増に抑えられている。それがバーゲンプライスかどうか、実力を試してみよう。

マクラーレン 600LTのリヤフェンダー

「試乗はスリッパリーでバンピーなコーナリングを試せるハンガロリンク」

試乗の場はハンガロリンク。F1ハンガリーGPの開催地である。ここを選んだ理由を訊くと、コース幅が広く、コーナーがバリエーションに富んでいるからだという。なるほど、たしかに大小様々な曲率で、ステアリングの正確性や、しかも最近のサーキットではないから(1986年)適度に路面が荒れていて、スリッパリーでバンピーなコーナリングが試せる。

試乗はまず570Sから。マクラーレンはサーキット試乗の場合、必ず比較となる近似モデルを用意してくれるのがありがたい。専用のピレリPゼロコルサは適度なグリップを持つが、改めてサーキットで試すとドリフトコントロールも容易でフレンドリーな性格のクルマだと感心する。ほんの2年前、富士スピードウェイで同じくスポーツシリーズを走らせた。その時はややウエットという路面状況もあり、全開にできなかったが、あれ以来サーキットで田中哲也氏の的確な指導を受けたこともあって、コース上での限界を見極める余裕も出てきた。570Sによる5周の慣熟走行を終えて、いよいよ600LTだ。6周を2セッションする。

マクラーレン 600LTの走行シーン

「マクラーレン全モデルに通じる美点はこの600LTにも確実に生きていた」

600LTの見た目は、正直ロングテールと言うほど長くない。これは675LTに対しても同様の印象を持っているが、象徴としての“LT”ということなのだろう。570Sから乗り替えてすぐに感じたのはコントロールしやすいエンジンということ。もちろん最高出力はエンジンマネージメントを最適化し、ボディ後端上部にエキゾーストパイプエンドをレイアウトしたことなどで、30ps上乗せされた600psである。ところがアクセルペダルの感触がとてもリニアなため、一発で思った速度に調整できる。無理してピークパワーをたたき出したわけではない。マクラーレン全モデルに通じる美点は600LTにも確実に生きていた。

富士スピードウェイを彷彿させるタイトな1コーナーは200m手前で減速するように言われたが、例によって重たいブレーキを左足で思い切り蹴飛ばすと、まったく余ってしまった。255km/hからなら180m手前で減速開始がちょうどいい。もちろんタイヤも違う(トロフェオR)が、減速時のスタビリティは圧倒的に高い。続く下りながら左に巻いていく2コーナーでは、コーナリングのスタビリティに驚かされた。570Sではドリフトさせる余裕もあったが、同じ速度で600LTはまったく動じることがない。そこで、車速を周回ごとに高めていくと、リヤが流れながらも斜めに加速するタイヤのコントロール幅が感じられた。限界は高いが、コントロールできないレベルではない。ステアリングから伝わる感触は非常に純粋で、ステアリングポストの剛性感も高く、心からスポーツ走行を楽しめた。

マクラーレン 600LTの走行シーン

「試乗中、唯一シートだけが気になった」

試乗の後半ではフラットなS字でドリフトを楽しむ余裕も出てきた。そんなことをしていたら、メーターに備わる4輪のタイヤ温度は108℃に達していた。セナの試乗では摂氏36度のエストリルで摂氏90度程度だったから、外気温33度のハンガロリンクでどれだけコーナーリングを楽しめたかよくわかる。

試乗中、唯一気になったのがシートだ。セナにも採用されるオプションのレーシングシートはシェルの内側に薄いクッションパッドが貼り付けられた簡素なものだ。セナ試乗の際には快適にスポーツ走行できた印象だったが、今回用意されたシートは背もたれが立ち気味で、ハンガロリンクのようなアップダウンのあるサーキットでは上を見る際、ヘルメット後頭部がヘッドレストに当たってしまった。エンジン全開時のヘッドレストの振動は相当激しく、エンジンマウントを強化したという説明があったのを思い出した。

マクラーレン 600LTのリヤスタイル

「スーパーシリーズに匹敵する性能だが、クルマの性格は明らかに別物である」

ベンチマークとした675LTをラップタイムで上回ると主張するパフォーマンスを備えた今、スーパーシリーズとスポーツシリーズのヒエラルキーや720Sの行く末(GT3モデルは出ているが)など考えさせられることは多かった。試乗を終えたピットで、そんなことをメモしていると「570Sからの進化を感じていただけましたか?」と話しかけられた。5年前ビークル・ライン・ディレクターに就任したダレン・ゴッダード氏だ。スポーツシリーズに関わったのは17年2月からだから、600LTはほぼ最初から関わっているという。

氏に筆者の懸念を問うと「たしかに600LTの登場でスーパーシリーズとスポーツシリーズの差は縮まりましたが、もともとそういう計画でした。でも、スポーツシリーズはドライバーの経験が浅くても楽しめるように仕上げられています。パフォーマンスは近づいても、クルマの性格は異なります」とゴッダード氏。なるほどそれに関してはまったく異論はない。実際楽しめた。

発売は今年10月から1年間。台数は未定だが、500台限定の675LTがわずか2ヵ月で完売したことを考えれば、このピュアなスポーツカーの購入に即断が求められているのは言うまでもない。

REPORT/吉岡卓朗(Takuro YOSHIOKA)
PHOTO/McLaren Automotive

【SPECIFICATIONS】

マクラーレン 600LT

ボディサイズ:全長4604 全幅1930 全高1194mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1247kg(Dry)/1356kg(DIN)
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3799cc
最高出力:441kW(600ps)/7500rpm
最大トルク:620Nm(63.2kgm)/5500-6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前225/35R19(8J) 後285/35R20(11J)
最高速度:328km/h
0-100km/h:2.9秒
CO2排出量:266g/km
燃料消費量:11.7リッター/100km
車両本体価格:2999万9000円

※GENROQ 2018年 11月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。