「ポルシェ カレラ GT」デビュー20周年。パリでのワールドプレミアをベルリンで再現 【動画】

Porsche Carrera GT

ポルシェ カレラ GT

頓挫したパリ・ワールドプレミアの完全再現

20009月、コンセプトカーの「ポルシェ カレラ GT」が公開され、2020年にV型10気筒エンジンを搭載するフルカーボンファイバー製ミッドシップスーパースポーツは、デビューから20周年を迎えた。

コンセプトカーがパリで公開されてから20年後の2020年9月。ポルシェはカレラ GTの市販仕様でパリを走行するプランを進行していた。しかし、2020年の予定されていた多くの計画がそうであったように、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響から頓挫してしまう。

この時期、ウイルスの感染再拡大に見舞われていたパリでは、大規模な撮影を行うのは不可能だった。それを受けてポルシェは、オマージュとしてドイツ・ベルリンのパリ広場にカレラ GTを持ち込むことを決める。2020年10月、ベルリンのブランデンブルク門には、20年前のパリと同じように再び霧雨が降っていた。

パリで発表されたポルシェ カレラ GT

センセーションを巻き起こしたロールのドライブ

2000928日の早朝、ポルシェはフランス・パリにおいてカレラ GTのコンセプト仕様をワールドプレミアした。この時、スーパースポーツのステアリングを握っていたのがヴァルター・ロール。最高出力558psを発揮するV10エンジンを響かせながら、凱旋門を背景にシャルル・ド・ゴール広場でカレラGTをドライブした。

雨が降りしきるなか、ロールは集まった多くの国際メディアを前に、滑りやすい石畳でカレラGTを巧みにコントロールした。凱旋門からルーヴル美術館へと向かう途中、フランスの白バイ隊員にエスコートされたロールの写真は、当時自動車ファンに大きなセンセーションを巻き起こしている。

なぜ、それほどまでのセンセーションを巻き起こしたのか。それは、ポルシェが新たなスポーツカーの可能性を提示し、当時可能だと思われていた限界を乗り越えたからだった。多くの子どもたちがコンセプトカーのポスターを壁に貼り、それだけでなく子供の心を持った大人たちのなかには実際にカレラ GTをオーダーしたいという声も挙がってきた。

しかし、この夢のクルマ、最大の欠点はまだ市販モデル販売の目処が立っていないことにあった。あくまでもコンセプトカーであり、市販化には多くのハードルが残されていたのだ。2000年当時、カレラ GTはル・マン24時間レース用レーシングカーのコンポーネントをベースに製作された“ビジョン”でしかなかったのである。

ベルリンを走るポルシェ カレラ GT

 

シビアな技術を要求されるカレラ GTでのドライブ

新型コロナウイルスは依然としてヨーロッパで猛威を奮っているが、ベルリンのパリ広場は多くの人で賑わっていた。カレラ GTが登場すると、多くの人々がスマートフォンのカメラで写真を撮り始めた。ここに集まった多くの人がカレラ GTを見たことがなくても、このクルマがポルシェ製の珍しいスーパースポーツであることを知っているのである。

ここにもパリと同じように石畳がある。エンジンを始動し、できるだけ目立たないように走らせようとしたものの、シビアなポルシェ・セラミックコンポジット・クラッチ(PCCC)と、背中に納められたV10 のおかげで、そう簡単にはいかなかった。

「ロールのようにドライブしなければ」と思ったが、上手くいかない。濡れた石畳でアクセルを踏むと、トラクションコントロールを搭載しているにもかかわらずリヤは容赦なくホイールスピンする。下手をすると、V10エンジンをストールさせてしまうかもしれない。これだけ多くの人が集まる中で、スーパースポーツをエンストさせるのは、さすがに恥ずかしい。

ベルリンの夜を走り抜け、最終目的地、ベルリンにかつて存在した「アヴス・サーキット」へと向かう。2速・3速を使い、2000~3000rpmをキープして、ポツダム広場や再建された市庁舎を駆け抜けていく。道ゆく人たちはカレラ GTを二度見すると、サムズアップを送ってくれた。当時、ポルシェのチーフデザイナーを務めていたハーム・ラガーイによる美しいフォルムは、20年の時を経てもその魅力を少しも失っていないのだ。

ポルシェ カレラ GTのV10エンジン

幻のレーシングカー「9R3」をベースに開発

そもそもカレラ GTのプロジェクトは、前述したように純粋なレーシングカーからスタートしている。ベースとなったのは長らく極秘の存在だった「ポルシェ LMP2000」。レースに投入されることなく、ポルシェ社内ではコードネーム「9R3」と呼ばれていたこのル・マン用プロトタイプレーシングカーは1998年に完成。それまでのプロトタイプレーシングカーが搭載していたフラット6ターボに代わり、V10エンジンを搭載していた。

「9R3」をベースとしたカレラGT コンセプトは、凱旋門でのワールドプレミアに続きパリ・モーターショーで一般公開。約2年半の開発期間を経て、2003年のジュネーブ国際モーターショーで市販モデルがデビューする。

エクステリアはほぼコンセプトカーのまま。しかし、最高速度330km/hで必要とされるダウンフォースを確保するために、120km/hに達すると自動的にリフトアップするリヤウイングが取り付けられた。さらにアンダーボディはカーボンファイバー製パネルでフラットボトム化されており、リヤディフューザーと組み合わせることでレーシングカーと変わらないグランドエフェクト効果を確保している。

ベルリンを走るポルシェ カレラ GT

 

今も色あせない公道走行できるレーシングカー

市販化における最大の課題は、カーボンファイバー製シャシーとエンジンマウントだった。このカレラ GTにおいて、ポルシェでは初めて軽量かつ高強度のカーボンファイバーのみを使用したモノコックタブとエンジンマウントを開発。このためだけに、ポルシェは2003年にライプツィヒ工場に独自の製造施設を立ち上げている。

さらに、超軽量シートシェル、セラミック製ブレーキディスク、プッシュロッド式ダブルウィッシュボーン・サスペンション、カーボンセラミック複合素材を使用したポルシェ・セラミックコンポジット・クラッチなど、多くの新技術が投入された。

V10エンジンの排気量はコンセプトカーの5.5リッターから5.7リッターに拡大。最高出力は612psに向上し、アヴス・サーキットにおいて計測された0-100km/加速は3.9秒を記録している。

6速マニュアルミッションのシフトノブは高いポジションに配置され、ドライバーの手にピタリとフィットする。このシフト位置はモータースポーツの黎明期から受け継がれてきた素晴らしいディテールであると同時に、カレラ GTがレーシングカーをベースにしていることを強烈にアピールする。

確かに簡単に扱える代物ではない。しかし、だからこそカレラ GTは今も唯一無二の存在であり続けているのである。