インチアップに騙されるな!【清水和夫の新・お喋り工房 第3回】

タイヤのサイズについて考える

自動車ジャーナリスト・清水和夫が“ゲンロク太郎”に事寄せて、クルマにまつわるあれこれを語る人気連載第3回。今回ゲンロク太郎がもの申すのは、カスタマイズの入門編ともいえる「インチアップ」について。ことタイヤの世界では「大は小を兼ねる」は通用しないようで・・・。

清水和夫の新お喋り工房第3回イメージ

タイヤの重要度はサスやボディと同等

スポーツカーにとってタイヤはかなり大きな影響力を持っている。とりわけタイヤに厳しいポルシェの場合、タイヤ特性はサスペンションやボディの延長線にあると考えている。その考えは自動車技術として正しい。タイヤはバネとダンパーの2つの機能を兼ね備えているからだ。

このように重要なタイヤであるが、意外と簡単に論じられたり、間違った知識を持っている人も多い。高性能スポーツカーが採用するタイヤは非常にデリケートに開発されており、その性能には単なるグリップ力の大きさだけではなく、もっと多くの要素が絡み合う。例えばドライとウェット、燃費と乗り心地、グリップ力と磨耗性能などなど・・・。

清水和夫の新お喋り工房第3回イメージ

ポルシェが承認タイヤ制度を採用する理由

従って、あくまでクルマの部品の一部と考えているポルシェの場合、新車に標準で装着される専用タイヤは、タイヤショップで販売されているリプレイスタイヤとは大きな差があることを理解しておきたい。

そのためにポルシェは承認タイヤ制度を採用しており、そのコード名をサイズによって「N1、N2、N3」とサイドウォールに刻んでいる。この承認タイヤでないとポルシェの運動性能を保証しないということなのだ。

実際問題、速度無制限のアウトバーンを持つドイツでポルシェ ターボを走らせると、合法的に300km/hが可能である。その超高速域でタイヤの耐久性や信頼性を確保するのは容易ではない。自社で入念にテストしたタイヤだけにポルシェが承認を与えるのも当然といえる。

清水和夫の新お喋り工房第3回イメージ

インチアップのメリット

今回のテーマはインチアップである。一般的にインチアップはタイヤのグリップ力が向上すると考えられているが、実際はそう簡単にタイヤの性能は向上しない。インチアップは、もともとタイヤのグリップ性能を高めることが目的で考案されたのではないからだ。

インチアップを初めて提案したのは、なにを隠そうポルシェであった。タイヤの外径を変えずに、より大きなブレーキをホイールのなかに収めるためにインチアップを考えついたのだ。このポルシェの要求に応えることができたのは、唯一ピレリ社であった。ポルシェはタイヤの性能が同等なら、インチアップできれば大きなブレーキが使えると考えたのだ。

清水和夫の新お喋り工房第3回イメージ

F1タイヤの扁平率は約50%

しかし、タイヤ単体で考えてみると、4GでコーナリングするF1のタイヤは13インチで、扁平率はおよそ50%である。ブレーキがホイールの外にあるので、インチアップする必要がないのだ。つまりタイヤだけの性能を考えると、扁平率は50%くらいが最適であり、タイヤにはある程度のハイト(高さ)が必要なのである。

ル・マンのGTカーも今では19インチはいない。つまりプロトタイプのレーシングカーやフォーミュラーカーは、タイヤの扁平率をあまり小さくすることがないのである。インチアップを好むのはタイヤの外径が変えられないクルマ、すなわちスポーツカーかツーリングカーに多い。大きなブレーキローターを使いたいからだ。

清水和夫の新お喋り工房第3回イメージ

迷ったら小径ホイールを選ぼう

インチアップはタイヤの構造上、全く別の設計思想で開発される。インチアップはタイヤ性能で見ると横剛性は高まるが縦のバネ係数が下がりやすいので、剛性バランスが崩れやすい。そのため、あえてバネを硬くする構造が使われる。ランフラットタイヤなら、なおさらタイヤは硬くなるのである。経験のあるタイヤメーカーのインチアップならば信頼できるが、流行のためにインチアップを売りにしているタイヤメーカーは避けた方がいいだろう。

具体的に話すと、ポルシェを買うときに20インチと21インチのどちらかで迷ったら、私なら小径のホイールを選ぶ。そのほうがバネ下重量が軽くなり、全体的に乗り心地がよくなるからだ。インチアップすると高速走行ではダンピングがよくなることがあるが、なによりもタイヤ代が高くなる。

TEXT/清水和夫(Kazuo SHIMIZU)