最高峰クラス参戦2年目にして才能開花。チャンピオンシップをリードするジョアン・ミル/MotoGP第13戦レビュー

 2020年MotoGP第13戦ヨーロッパGPのMotoGPクラスでジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)がMotoGPクラス初優勝を達成した。今年で最高峰クラス参戦2シーズン目となるミルは、オーストリアGPでMotoGPクラス初表彰台となる2位に入賞すると、表彰台争いの常連となり、ヨーロッパGPまでの12戦中、優勝1回、2位3回、3位3回と7戦で表彰台に立っており、アラゴンGP以降はチャンピオンシップ争いをリードしている。ヨーロッパGP終了時点でランキング2位のファビオ・クアルタラロ(ヤマハ)に37ポイント差をつけている。

 1997年9月1日、スペインのマヨルカ島に生まれたミルは、10歳でミニモトやミニモタードでレースキャリアをスタート。16歳となる2013年にはレッド・ブル・ルーキーズカップに選抜され、参戦初年度をランキング9位で終えると、2年目の2014年には3勝を記録してランキング2位を獲得する。この年のチャンピオンは現在Moto2ライダーのホルヘ・マルティンだった。2015年にはCEV(スペイン選手権)のMoto3ジュニア世界選手権に参戦。4勝、2位1回、3位2回を記録してランキング4位を獲得する。また、この年のオーストラリアGPでは代役として世界グランプリMoto3クラスにデビュー。18番グリッドからスタートし、決勝は転倒リタイアに終わったものの、続く2016年には世界グランプリレギュラー参戦のシートをつかんだ。

 2016年はレオパードレーシングからKTMで参戦。10戦目のオーストリアGPでグランプリ初ポールポジションから初優勝を達成するなど、グランプリ参戦初年度で通算3回表彰台に立つ活躍を収め、ルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得した。そして、続く2017年のMoto3クラスにはチームは同じレオパードレーシングながら、マシンをホンダにスイッチして参戦。通算10勝、2位2回、3位1回と圧倒的な強さで、グランプリ参戦わずか2シーズン目でチャンピオンを獲得した。

 続く2018年にはMoto2クラスにステップアップ。エストリア・ガルシア00マークVDSよりカレックスで参戦し、優勝こそなかったものの、2位を最高位に通算4回表彰台に立ち、ランキング6位、Moto2クラスでもルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得する。

 そして、ミルはスズキからのオファーを受けて2019年よりMotoGPクラスにステップアップ。オーストラリアGPの5位を最高位に、20戦中9戦でトップ10フィニッシュ。ケガで2戦を欠場したこともあり、ランキングは12位に止まったが、MotoGPマシンにも順調に適応した。

 スペイン時代から同期のクアルタラロ、マルティンらに比べて、やや遅れてグランプリにデビューしたミルだが、グランプリ参戦後は、瞬く間に最高峰クラスまで駆け上がった。特に激戦のMoto3クラスでチャンピオンを獲得した2017年には、シーズン通算10勝を記録している。この記録は1997年にバレンティーノ・ロッシが記録した小排気量クラスのシーズン最多勝記録の11勝には及ばなかったものの、当時よりレース数は多いとは言え、マシン差が少なく、ゴールライン直前まで接戦が繰り広げられるMoto3クラスでは驚異的な記録だ。また、ステップアップの過程で新クラスへの適応に時間がかかるライダーが多い中、ミルは素早く新しいマシンやレース環境に順応を見せ結果を残している。とてもクレバーで高いレベルでコンスタントなライディングができるライダー、というのが周囲のミルの評価だ。

■1年間の経験を経て、2020年シーズンの不測の事態にも対応

 そして、スズキのマシンでMotoGPにデビューしたこともミルにとって後押しとなった。スズキはGSX-RRでMotoGPクラスに復帰して以降、着実にマシンを進化させて来た。ミルにとって一世代上のアレックス・リンスがエースライダーとしてマシン開発とチームを引っ張る中で、ミルはルーキーとしてセカンドライダーのポジションを得て、1年目で経験を積むことができた。そして、2年目の今年、その才能を大きく開花したと言えるだろう。

 スズキにとって、再開1戦目のスペインGPでリンスが転倒負傷し、その影響を序盤戦でひきずったことは計算外だったが、その間にミルが大きく成長。アラゴンGPではランキングトップに浮上した。ミルにとってヨーロッパGPでの優勝は待望の勝利だった。今年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、変則的なシーズンになったとは言え、最高峰クラスでは、無勝利のままチャンピオンになったライダーはいないからだ。

 ヨーロッパGP決勝はリンスが先行、ミルが追うチームメイト同士のバトルとなった。ミルは17周目の11コーナーでシフトミスしたリンスのインに飛び込むと、その後、ペースを上げて、完ぺきな優勝を手にし、スズキは今シーズン4度目となるダブル表彰台、MotoGPクラスとなって初のワンツーフィニッシュを達成した。

2020年MotoGP第13戦ヨーロッパGP ジョアン・ミルとアレックス・リンス
2020年MotoGP第13戦ヨーロッパGP ジョアン・ミルとアレックス・リンス

「本当にうれしいとしか言いようがない。今週末はチームと僕で完ぺきな仕事ができたと思う。タイトル争いの渦中にいる時はいつも以上に慎重にならなければならないから、100%の力を出し切って走るのは簡単ではないけど、今日は初優勝のチャンスが見えたからなんとしてでもそのチャンスを手に入れたかった。マシンのフィーリングは完ぺきだったから絶対にいけると思った」

「MotoGPクラスで優勝する喜びは一言では言い表せないくらい本当に何とも言えない思いだ。今週末は天候が不安定で、決勝に向けては不確定な要素も多かったから、その難しい状況で優勝できたなんて本当に夢のようだ。タイトル争いはまだ終わっていないから、来週末もとにかく集中して、自分がやるべきことをしっかりやっていく」とミル。

 残り2戦、ミルはどこまで勝利数を伸ばすことができるか。最終戦ポルトガルのポルティマオ(アウトドローモ・アルガルベ)はMotoGPシリーズ初開催のコース。ミルはMoto3ジュニア世界選手権時代の2015年に優勝経験を持っている。

2020年MotoGP第13戦ヨーロッパGP ジョアン・ミルとアレックス・リンスがワン・ツーフィニッシュ(チーム・スズキ・エクスター)
2020年MotoGP第13戦ヨーロッパGP ジョアン・ミルとアレックス・リンスがワン・ツーフィニッシュ