【中野信治のF1分析第13戦】クビアトにペレス、追い詰められたドライバーの意地。さまざまな想いが交錯したイモラ

 王者メルセデスに対して、対抗馬最右翼のレッドブル・ホンダはどのような戦いを見せるのかが注目される2020年のF1。レースの注目点、そしてドライバーやチームの心理状況やその時の背景を元F1ドライバーで現役チーム監督を務める中野信治氏が深く掘り下げてお伝えする。第13戦エミリア・ロマーニャGPは14年ぶりの開催となるイモラ・サーキットが舞台。シーズン終盤に入って2021年シーズンの去就が明かになるなか、シート争いを懸けたドライバーたちがたくさんの見せ場を作りました。ハミルトンの強さに関しても今回、中野氏が興味深い見解をお伝えします。

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 2020年F1第13戦エミリア・ロマーニャGP、14年ぶりにイタリアのイモラ・サーキットで開催されました。まず走行を見た感想としては、コースレイアウトが少し変わっていましたね。僕がイモラを初めて走ったのは1990年か1991年くらいで、フォーミュラ・オペル・ロータスというF1の前座レースに出ていました。その頃とはコースは変わっていて雰囲気は少し違うのですが、今見ても昔の時代というか古き良きなオールドサーキットの空気が残っていて、F1が似合うサーキットだなと思いましたね。コースからグラベル、そして観客席が近いので昔の空気が残っていてなにか懐かしい感じがしました。

 イモラはコース幅も狭くて、縁石を上手く使っていかないと速いタイムを出せないのですが、その中でも縁石の使い方でイン側、アウト側、それぞれの縁石をドライバーは上手く使い分けています。使い方はクルマのバランスにもよるのですが、ドライバーは基本的に近道をしたいので、ショートカットができるならコーナー進入の際にイン側の縁石をカットしていきたい。ですが縁石に乗ったり縁石の上を走ると、どうしてもクルマが跳ねて挙動が乱れてしまうので、その跳ねを嫌い、ショートカットはしたいけどできないなど、クルマのセットアップとドライバーの走り方とで選択肢が結構あります。

 そういった意味で、縁石に乗っても安定しているメルセデスのマシンを見ていてもそうなのですが、『バンプに強いクルマ』がイモラでは有利になりますね。サスペンションジオメトリーも含めて足回りがソフトな感じに仕上がっているクルマは、縁石を上手く使っていける印象があったので、そういうクルマはイモラで強い。ひとつの見方として、縁石をバンバン使用しているクルマを見たら、『今回このマシンはまとまっているんだな』ということが言えると思います。

 特に今回のイモラは縁石の使い方だけでなく、路面も全体的にバンピーなので、クルマのセットアップの出来がいろいろつながっていきます。スムーズなサーキットとバンピーなサーキットではセットアップの仕方も変わってきますし、もともとの設計でバンプを吸収しやすいクルマはタイヤにも優しいですし、こういったサーキットは非常に向いているなと感じます。そういった意味でのマシン差が、あちこちで出ていることが見受けられました。

 ドライバーも、縁石やバンプを使ってクルマの向きを変えるという技も、もちろん使用しています。マシンがアンダー気味でも、若干マシンを縁石に乗せることで早めにクルマの向きを変えることができます。クルマの向きが早く変わると、アクセルもより早く踏み込めるので得をしますよね。

 縁石はいろいろな使い方をしていて、単にショートカットだとかコース幅を広げるという意味で使うドライバーもいますし、あとはクルマの向きを変えるという部分で使う人もいます。使い方はコーナーのRによっても意味が変わってきますが、小さいコーナーやシケインなんかは、結構クルマの向きを変えるために縁石を使うということもありますね。

■走り方が一段と進化したハミルトン。タイヤを横から縦に使うマネジメント

 今回の予選では、結局いつもどおりの順番といいますか、レッドブル・ホンダはマックス・フェルスタッペンのマシンにトラブルが出ていましたが、最後にまとめて3番手にきたのは流石だなという感じです。

 決勝では今回はタイヤの選択、マネジメントがすごく難しくて、戦略がどうなるか予測が立てにくいなかでのトップバトルが面白かったですね。ドライバーの顔ぶれとしてはもう見慣れてきた感もあのですが(苦笑)、ルイス・ハミルトン、バルテリ・ボッタスのメルセデス勢とフェルスタッペンの三つ巴の争いは、今回は見た目以上の精神戦でしたよね。タイヤをいかに保たせ、ペースも落とさずに走り続けられるかをそれぞれのポジションで繰り広げていました。

 ただ、ポールポジションからトップを守ったボッタスですがスタート直後にデブリを拾ってしまい、フロアにダメージを受けてダウンフォースもかなり減ってしまったようでかなり苦しい戦いをしていました。ダウンフォースが減ると、そもそもクルマが止まらない/曲がらないになってしまいますし、その分タイヤにも負担が掛かってしまいます。ボッタスはクルマの限界が下がった状況でペースを当然落とさなければいけないわけですが、あの状況でタイヤを壊さないように集中していて、非常に良い走りをしていたように見えました。

 逆に言えば、フェルスタッペンはボッタスがあんな状態でも、かなり長い時間抑え込まれてしまいました。クルマにダメージがあった状態でも後ろを抑え込めるメルセデスは、やはりまだまだレッドブル・ホンダより一歩先にいるのかなという風に見えましたね。

 ボッタスとフェルスタッッペンが先にピットインして、暫定首位に立ったハミルトンはそこからファステストラップを連発して先にピットインした2台のオーバーカットを狙いにいきました。ここでのタイムの出し方からも、レースの前半でいかにハミルトンがタイヤを使わずに走っていたかという答えですよね。

 そもそもイモラはコース幅が狭いので、これでは追い抜けないという判断だったのでしょう。レースの前半はオーバーテイクを仕掛けても相手のタイヤもまだ元気があるので抵抗が厳しくなります。そこでハミルトンは、とにかく序盤はタイヤをセーブする作戦に切り替え、チャンスでプッシュしました。

 もちろん、ハミルトンにもボッタスのマシン状態というのは知らされていたと思うので、スティント後半はボッタスのタイヤが苦しくなり、ペースが落ちてくるというのは容易に想像ができたはずです。そこでハミルトンは自分の勝機がどこにあるかというのを考え、スティント前半はタイヤを守って後半でプッシュし、ピットストップのタイミングを前の2台とずらして、クリアになったら自分自身が全力でプッシュするという王道の作戦を選択しました。

 その選択は当然、チームとしても阿吽の呼吸で分かっていたと思います。ただ、その作戦を実行できるかと言われてドライバー側が完璧にできるかどうかは簡単なことではありません。ハミルトンのオンボードを見ていたのですが、走らせ方が数年前とはまったく違うとまでは言いませんが、やはり少し違っていて、今回はタイヤをできるだけ縦方向に使うように走っていましたね。

 中継の解説のときにも言ったかと思うのですが、そこがハミルトンの進化している部分でもあると思います。ハミルトンはどちらかというとこれまでタイヤを横方向をメインに使ってコーナーリングスピードを上げていくという、タイヤに攻撃性があり、負担の掛かる走らせ方でした。それが今はタイヤへの攻撃性を極端に減らす方向で、タイヤを縦方向に使ったドライビングで摩耗やダメージを守る方法を覚えていますよね。

 当然、その分タイムは若干落ちるのですが、もともとのメルセデスのマシンの高いポテンシャルから、若干ペースを落としてもレースをコントロールできる状況にあるので、そういう走らせ方ができるという面があります。ハミルトンはそのタイヤの縦方向での走らせ方をすごく意識して乗っていたように見えました。

 もともとボッタスの方がすごく丁寧にステアリングを切って走るドライバーなのですが、レースでふたりを見ていると、ハミルトンのほうが明らかにタイムは上回って走っています。今回ボッタスにはデブリの問題もあったのですが、それでもハミルトンの今の走らせ方というのは、ボッタスよりもさらに上をいくタイヤマネジメントをしているように見えますよね。

 ハミルトンが3番手を走っていて、フェルスタッペン、ボッタスファステスの前の2台がピットインした後、ハミルトンがファステストラップを何周にも渡って記録していましたが、あのときはタイヤの縦横を全域で使って走っていたはずです。それができる状況までタイヤをキープしていたということですよね。ハミルトンにとっては本当にそこが勝因でした。

■2021年のシートを争うドライバーたちの必死の走りと角田への期待

 レース終盤にはセーフティカーが導入されましたが、導入直後にジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)がスピン、クラッシュしてしまい、セーフティカー開けではアレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)もスピンしてしまいました。これに関しては、タイヤが冷えてしまったときの難しさがまた出てしまったのかなと思います。

 モニター画面を見ていると、ラッセルにしかりアルボンにしかり、『そこでスピンするか?』と見ている側には思われてしまうような場所でコントロールを失っていましたよね。マシンの動き方もありえないくらい極端な動きで、特にラッセルの場合は何かが壊れたのではないかと一瞬思ってしまうような動き方でした。ドライバーのミスと言えばそれまでなのですが、あれだけタフなパワーユニット(PU/エンジン)を積んだF1マシンで、タイヤが冷えているときに蛇行やホイールスピンをさせながらタイヤを温めるというのは簡単なことではありません。

 ドライバーとしてはスローペースになった途端、本当に極端にグリップが下がってしまうんですよね。画面からではすごく分かりづらいのですが、タイヤのゴムがまったく路面に接地しなくなってしまうんです。その感覚をなんて説明したら良いのか………。

 それまでは溶けたタイヤのゴムがアスファルトの路面の隙間に入り込んでいたのが、いきなり急速冷凍されてぱっと固まってしまったような感じです。タイヤのゴムが路面から急に浮き上がってくるようなイメージです。ドライバーもよく『氷の上を走っているようだ』などと言いますが、まさにそのとおりの感覚です。

 ラッセルのスピンに関しては、そのグリップ低下の読みを誤ったという感じですね。セーフティカーが入ったことでハードタイヤの温度が急激に下がってしまい、ラッセルが思っていたよりもグリップが下がっていたということだと思います。クラッシュ後にマシンを降りて本人も悔しがっていましたが、ポイント圏内を走っていていい走りを見せていながら自分自身のミスでレースを落としてしまうのは、やはり余計に悔しいですよね。

 ラッセルからはすごく悔しさが伝わってきましたし、ああいう経験をしてラッセルも強くなっていくと思いますし、悔しがる姿がよいと言うのはおかしいとは思いますが、僕的には良いなと思いましたね。このドライバーはまだ強くなるだろうとも思いました。

 人間なので誰でもミスはします。それは仕方がないことです。過去にはミカ・ハッキネンもF3の頃でもF1でもコースサイドで大号泣していましたが、ドライバーがミスしたり負けたときに『しょうがない』と思うのではなく、どれだけ犯してしまったミスに対して、どう自分が受け止めて、どう消化して次のレースや未来の自分に向かってプラスにしていけるのかが大事ですし、それがドライバーの仕事でもあります。

■シーズン終盤で2021年のシートを争うドライバーたちの必死の走り

 また、ドライバーにとってはそろそろ来シーズンの契約が決定してくる時期になってきました。もちろん、シートが決まっていないドライバーはよいところを見せたい思いがありますし、複雑な心境になっているドライバーもいると思います。それはドライバーの今のポジションによって変わってきます。

 来シーズンのシートが決まっていなくて、今一番シビアな状況にいるのはアルボンとセルジオ・ペレス(レーシングポイント)、そしてダニール・クビアト(アルファタウリ・ホンダ)でしょうか。アルボンは、セーフティカー開けのスピンを見ても、若干の焦りが出ているのを感じます。集中力を高めていい走りをしていることは見ていても感じられるのですが、ただ同時に、いつも以上に無理をしなくてはいけない部分もあるので、あのようなミスにつながってしまいます。それがプラスにいくかネガティブにいくかは、置かれている状況や環境で変わってきます。

 本当にすごく大きなプレッシャーを感じてアルボンは走っていると思うので、それを良い方向に持っていければプラスになります。でも、今のナーバスなレッドブルのマシンはアルボンにとって難しい特性というのもあるでしょうし、そのマシンを冷えた状態のハードタイヤで走らせれば、今のマシンはさらに難しいクルマになると思います。アルボンはあそこで攻めないと魅せられないので、プッシュせざるを得ないですし、本当に難しい状況です。

 見ている側としては『またアルボンがミスした』という感じでネガティブなことを言ってしまうと思います。実際、ミスはミスなのですが、周りのいろいろな環境を見てドライバーの心理、状況を考えると、同じドライバーの気持ちが分かる身としては、やはり僕はなんとも言えないですね。

 僕も一時期ですが似たような境遇にあったので、それがいかに難しい状況なのかは少しですが分かります。それだけにたとえ自分のミスだとしてもアルボンを一方的に悪くは思えない。だから本当に頑張ってほしいと思いますし、まだ残りのレースもあるので、何かを見つけてほしいなと思いますね。

 あと今回のイモラでは、アルファタウリ・ホンダの活躍が目立ちました。ピエール・ガスリーが予選で4番手を獲得する良い走りを見せました。決勝はトラブルで残念な結果に終わってしまいましたが、本当に良いレースができそうでした。最後はチームメイトのクビアトが頑張ってくれて、素晴らしいオーバーテイクシャルル・ルクレール(フェラーリ)をかわして4位になりました。

 来季の去就でいうとクビアトも大きなプレッシャーのなかにいるひとりだと思います。すでにクビアトの来シーズンが決まっているのか、決まっていないのかは分からないですが、どういう立場にあってもレースで良いところを見せたいという気持ちはクビアトも強く持っていると思うので、それがあのオーバーテイクで見られました。クビアトはもともと遅いドライバーではないですし、今回は素晴らしい走りでしたね。

 欲を言うと、もちろんガスリーが最後まで走っている姿を見たかった部分もあります。今回はホンダ勢の調子がすごく良かったですからね。4台ともに素晴らしい走りを見せてくれていただけに、その部分は残念でしたね。

 そしてもうひとり、気になったのはペレスですね。あの段階で正解かどうかは分からないのですが、レース終盤に3番手を走っていたときにセーフティカーのタイミングでピットに入れました。あの予期はタイヤがタレてタイムが落ちていた訳ではないですし、十分に3位を獲得できる可能性がペレスにはあっただけに、あのピットインはドライバー的に悔しかっただろうなと思いましたね(結果は6位)。ペレスも来季の去就が決まっていないドライバーのひとりなので、ここで魅せておきたいという気持ちもあったと思います。

 今回のイモラは、いろいろなドライバーたちの思惑が交錯したレースでしたよね。追い込まれたドライバーの意地みたいなものが見て取れました。そういうときドライバーは本当に凄い力を発揮してきます。

 レースが年間20数戦あると、どこかでドライバーも自分の気持ちをコントロールしてきます。全力で走っているつもりでも、どこかで余裕を持たせているというか、そういう部分で98%から100%に持ってきたドライバーの能力というのは、やっぱり違う次元に行くんですよね。そういう部分でクビアトやペレスは魅せていたと思いますし、アルボンも良い走りをしていたと僕は思います。本当にいろいろな想いが交錯しているレースでした。本当に来季が決まっていないなかでのレースというのは、一戦一戦に全力で力が入ります。

 最後にグランプリ終了後、イモラでテスト走行を行った角田裕毅に関してですが、この走行があるということは、来季に向けてかなりポジティブに動いているんだろうなと推測できます。逆に言えば、今回はマイレージを稼ぐための走行ではありましたが、やっぱり2年落ちのマシンといえどもF1マシン。今まで乗ってきたマシンとはまったく違うクルマで走ることは大きなプラスになります。

 今回は確実にマイレージを稼いで、与えられた仕事をチームが納得できるようにしっかりとこなし、フィードバックなどもチームは全部見ているので、ただマシンを走らせるだけではなく、F1まで上がっていくとコンシステンシー(一貫性)であったり走り終わったあとのコメントなどが特に重要なので、そういった部分でも評価されます。

 そのあたりをきちんとアピールして、今後もチャンスが得られるのであればそのときも同じく、きちんとチームにとってプラスになるフィードバックと走りができできれば、チーム内での評価がさらに高まると思います。すでに来季についてある程度の見通しが立っているのかもしれませんが、そうであるならば今から来年の戦いは始まっています。今後に向けてただ走るだけではなくて、そういった部分も意識して今後も取り組んでほしいなと思います。

<>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長にスーパーGT、スーパーフォーミュラで無限チームの監督、そしてF1インターネット中継DAZNの解説を務める。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24

2020年Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT 中野信治監督
2020年Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTのチーム監督を務める中野信治氏。DAZNでF1中継の解説も担当