エンツォ フェラーリを2020年に再評価。今なお色褪せぬスペチアーレの驚異的なマシンバランス

Ferrari Enzo Ferrari

フェラーリ エンツォ フェラーリ

フェラーリの理想が詰め込まれたスペチアーレ

創設者の名を与えられたスペチアーレと言われて、エンツォ フェラーリが思い浮かばない小誌読者はいないのではなかろうか。事ほど左様に我々の心に刻まれたV12ミッドシップ・スペチアーレとははたして如何なるモデルか? 2020年に試乗した印象を綴る。

エンツォ フェラーリのリヤスタイル

「2003年の箱根ターンパイクで試乗してから17年振りの邂逅」

初めてエンツォ フェラーリ(以下、エンツォ)に乗ったのは2003年夏の箱根ターンパイクだった。ちょうど全日本GT選手権でフェラーリ 360をドライブしていることもあって、その印象は強烈だった。今でもはっきり覚えているのは、スタイルのカッコよさはもちろん、ボディ剛性の高さ、軽さ、エンジンパワー、そしてシフトスピードの速さや滑らかさなど多岐にわたる。当時のスーパースポーツカーの中でも最高レベルであった。

その後、エンツォには乗る機会はおろか、街中で見かけることすらなかったのだが、ある日突然、久々のエンツォ取材が叶った。初めて乗ったあの日から17年もの長い年月が経ち、印象は変化したのか? それとも当時のままなのか? 不安と興味が混じり合った気持ちで試乗した。

エンツォ フェラーリのインテリア

「ドライビングポジションは現行モデルと遜色ない、理想的なポジション」

久しぶりに出会ったエンツォの印象は、まったく古さを感じさせなかった。2020年の今見ても、やはりスタイルの美しさや斬新さは際立っている。最新と言ったら言い過ぎだろうが、でもそれくらいの素晴らしいデザインだ。コクピットに座ってみても、メーターやスイッチ類にほんの少し古さを感じる部分はあるものの、ドライビングポジションは現行モデルと遜色ない、理想的なポジションがとれた。

エンジンをかけて走り出すと、当時の印象が鮮明に蘇ってきた。箱根ターンパイクでのテストドライブが明確に思い出せたのは、新車時に近い状態の個体だからだろうか。オーナーによればこのエンツォはマラネッロでオーバーホールした直後で、すべてのパーツがリフレッシュされているという。

6.0リッターV12エンジンはパワフルだが一方でマイルドさを感じる。しかし、その印象は当時のままだ。最高出力660ps、最大トルク657Nmはさすがに700ps級が出揃いつつある現在では、諸手を挙げて「凄い」と言えないが、当時は「凄い」のひと言であった。

エンツォ フェラーリのエンジン

「思い通りのパワーとトルク、そしてレスポンスが発揮される」

今回、久しぶりに乗ってみて、エンツォのV12エンジンの素晴らしさにあらためて気づかされた。それはドライバビリティに優れた特性を持っているということだ。アクセルコントロールに対して、思い通りのパワーとトルク、そしてレスポンスが発揮されるのである。

たとえばコーナーの出口でアクセルを踏む時など、その溢れ出るパワーでリヤタイヤがスライドしてしまうことを想像してしまう。それが、こういったハイパワー車の運転で一番難しく、恐ろしさを感じさせる。しかし、エンツォはそういった状況でのレスポンスがとても自然で、意図に反してリヤタイヤが唐突にスライドしない。ドライバーに優しい特性なのである。コーナー出口で必要以上のシビアさを感じることがないので、ドライバーは安心してアクセルを踏んでいける。自然吸気エンジンのリニアな出力特性もあるだろう。今回久しぶりに乗ってみて、この時代のフェラーリの素晴らしさをあらためて感じられた。

時代でいえばV12は、やはりエンジンサウンドが素晴らしい。まさに絶品だ。外で聞いていると強烈なフェラーリサウンドを奏でて走っているように思うが、運転席で聞くと意外とそのサウンドは力強く、太い。

エンツォ フェラーリのホイール

「リヤがしっかりしている状態でよく曲がってくれるマシンバランスが素晴らしい」

エンツォはその後FXXというサーキット専用モデルのベースになるほどだから、レーシングカーとストラダーレの中間とも言えるポテンシャルがある。ある程度ペースを高めても、コーナリング中のロールは少なく、サスペンションはしっかり4輪を接地させて、高いグリップレベルを実現してくれる。

何より素晴らしいのがステアリングからのインフォメーションである。ステアリング操作に対して、正確にクルマが反応してくれる。だからワインディングでペースを上げて走っても、思い通りのラインをトレースできる。ここで重要なのはリヤがしっかりグリップしてくれることだ。ギリギリのスピードでコーナリングを開始した時に、フロントがグリップすることでリヤがナーバスになって、オーバーステアが発生してしまうクルマがある。この場合、フロントの反応が良いから曲がりやすいのではなく、単にフロントに比べてリヤのグリップが低いため、結果的に曲がりやすいバランスになってしまっているのだ。

エンツォの素晴らしさは、リヤがしっかりしている状態でよく曲がってくれるマシンバランスである。この状態は理想ともいえ、だからこそドライバーは安心感を持って、思い切りコーナーを攻められるのである。

エンツォのメカニカルグリップとバランスの素晴らしさは、当時としては抜群であったが、現在でもトップレベルの出来だと再確認できた。当時ぶっちぎりで高性能だったエンジンとシャシー性能は現在でも色褪せていなかった。

エンツォ フェラーリの走行シーン

「スペチアーレ・フェラーリが魅力的なのは、誰でも買えるクルマではないこと」

だが、さすがに少し古さを感じさせる部分もある。まずシングルクラッチの6速トランスミッションだ。ロボタイズドMTと呼ばれたF1マチックは、その変速スピードが素晴らしいと当時感動したのだが、久しぶりに乗ってみて、現在のデュアルクラッチと比較するとさすがに遅いと感じてしまった。

そしてブレーキだ。その効き方のタイミングやストロークは、現在と比較してコントロール性に少し癖があるように思った。当時はそんなことをまったく感じなかったので、この17年で進化したブレーキ性能に驚かされた。

だが、そんなことはどうでもいい──そう思ったのはフェラーリというクルマは、たとえ17年経ってもしっかりメンテされていれば、そのマシン本来の性能を維持し続けてくれると確認できたからだ。スペチアーレ・フェラーリが魅力的なのは、誰でも買えるクルマではないことである。価格はもちろん、フェラーリに対する愛の深さや、それまでの購入歴などすべてが認められた選ばれし者しか乗ることを許されないクルマなのである。クルマの出来は当然だが、それを持つことのステータスはオーナーにとってかけがえのないものである。実際に目の前に17年前のスペチアーレをしっかりメンテし、維持できるオーナーとその魅力をいつまでも湛えるエンツォがいる。今回の取材はそれを教えてくれた。

REPORT/田中哲也(Tetsuya TANAKA)
PHOTO/平野 陽(Akio HIRANO)

【SPECIFICATIONS】

フェラーリ エンツォ フェラーリ

ボディサイズ:全長4702 全幅2035 全高1147mm
ホイールベース:2650mm
車両重量:1255kg
エンジン:V型12気筒DOHC
総排気量:5998cc
最高出力:530kW(660ps)/7800rpm
最大トルク:657Nm(67.0kgm)/5500rpm
トランスミッション:6速SCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/35ZR19 後345/35ZR19
最高速度:350km/h以上
0-100km/h加速:3.65秒

【オフィシャルサイト】
フェラーリ・ジャパン
http://www.ferrari.com/ja_jp/

【掲載雑誌】

・GENROQ  2020年12月号