MOTUL松田次生、今だから話せる予選のクラッシュと決勝の大逆転劇《第6戦鈴鹿GT500決勝あと読み》

 予選Q1の大クラッシュで最後列の15番グリッドから、文字どおり奇跡的な優勝を果たしたMOTUL AUTECH GT-R。スーパーGT第6戦の鈴鹿で、良くも悪くも週末の話題の中心になったのが、そのMOTUL AUTECH GT-Rの松田次生だった。

 第3戦鈴鹿で優勝を果たしたMOTUL AUTECH GT-Rにとって、この第6戦鈴鹿はシーズン2勝目が期待できる大一番のレースとして必勝体制で臨んでいた。その状況のなかで、予選Q1で松田次生がまさかの大クラッシュ。セクター1を全体ファステストタイムで通過する速さを見せながらも、セクター2のダンロップコーナーでアウトに膨らんでしまい、そのままグラベルでジャンプしながらスポンジバリアに一直線にクラッシュしてしまった。

「そこまでクルマはかなりいいフィーリングだったので、このペースで行ったらいいタイムが出るなと思っていました。ダンロップコーナーは普段はアクセルを一度抜いて進むコーナーですが調子が良かったのでアクセルを少し戻しくらいで行きましたが、戻す量がちょっと少なかったのかな。僕の中では『行ける』と思って行ったんですけど……」と、クラッシュの状況を振り返る次生。

「たぶん、ウエイトが重いのでマシンが跳ねたんですよね。その跳ねた時か、着地の時にフロアを打ってダウンフォースが抜けて失速したのか『あれっ!? フロントが抜けた』となって、クルマが半車身くらいアウトに行ってしまった」

 その後は、「『ヤバイ!』と思ってアクセルを戻した時にはもう外に行ってしまいました」と、次生。

 実はスポンジバリアにぶつかったときよりも、グラベルでジャンプして着地した時の縦の衝撃が、次生の首と背中に痛みを作ってしまった。

「芝生に乗ってしまってブレーキングでも止まらなくて、芝生に乗った瞬間にジャンプして2回くらい跳ねて着地してしまいました。ぶつかった時にはスピードはだいぶ落ちていたので、そっちの方の痛みはないんですけど、ジャンプの着地のときにムチウチみたいになって、背中と首の痛みはありましたね」

 念のため、その後の次生はサーキットを離れて津市近くの病院に行き、MRI(磁気共鳴画像)検査を行った。そこで無事が確認されたが、次生は当然、落ち込んでいた。

「病院で検査しているときも、申し訳ない気持ちでした。あんなに大きな事故、人生で初めてかもしれない。ショックでした」と次生、翌日の決勝に向けて気持ちを切り替えようと思っても、切り替えられない。「夜は眠れませんでした」と次生は予選の夜を振り返る。

 マシンはエンジン、モノコックは無事だったもののフロント部は大破。フロントラジエターや冷却類、クラッシャブルストラクチャーはすべて交換となったが、ニスモチームのメカニックたちはその日の夜11時にはマシン修復を終える素早い作業を見せた。

 そして決勝、最後尾の15番グリッドからスタートしたMOTUL AUTECH GT-Rは17周目までに11番手までポジションアップ。そこから他者がピットインし始めて順位が上がっていく。

 MOTUL AUTECH GT-Rが見た目上のトップに立った22周目、S字でCRAFTSPORTS MOTUL GT-RとGT300のマシンが絡んでGT300のマシンがコースアウト。ここでMOTUL陣営が動いた。MOTULの中島健エンジニアが振り返る。

「ベストのなかのベストのタイミングだった。あの瞬間はもう予定というよりも、セーフティカーが出そうだったのでピットに入る/入らないの判断です。セーフティカーが入った時にはああいうことが起こるからドライバー、ピットのメカニックともいつでもいけるように準備をしてもらって、モニターとかGTA無線を聞いてとにかく情報を仕入れて、そういうタイミングが来たらいつでも行けるようにしていました」と、中島エンジニア。

 前半スティントを担当していたロニー・クインタレッリが130Rに入ったところで中島エンジニアからピットインの『BOX』の指示が出る。クインタレッリは無線の調子が悪く、驚きながら日立オートモーティブシケインで聞き返し、ピットインを確認。クインタレッリはピットロードに入るまでにセーフティカー(SC)の『SCボード』が提示されてピットロードに入れなくことを懸念しつつ、無事にボードは出ずにピットロードへ入り、次生と交代。

 ステアリングを引き継いだ次生はピットロード出口の信号が赤にならないことを祈りつつ、無事にコースインするも状況が把握できていなかった。

「コースインしてミラーを見たら、12号車(カルソニック IMPUL GT-R)と8号車(ARTA NSX-GT)が見えた。周回遅れにならなくてよかったと思っていました(苦笑)」

 同時にピットでは中島エンジニアがガッツポーズ。セーフティカーでコースを走るマシンの周回速度が遅くなったことでピットインのロスタイムが大幅に減り、MOTUL AUTECH GT-Rは見事にトップでコースに復帰することになった。次生はコースインした2コーナーの無線で、トップになったことを聞いた。

「『えええ〜!! マジ!?』って。急に心拍数が上がりました(笑)」と次生。

 そこから12号車が背後に迫るも、「意地でも抑えてやるという気持ちでした」と、次生がトップを守りに入る。

 しかし、次生のタイヤにはピックアップ(タイヤカスが取れずに表面についたままグリップダウンを招く現象)が起きてしまう。

 2番手のカルソニック IMPUL GT-Rの平峰一貴は、ペースダウンした次生を抜きにかかるが、次生は絶妙なブロックとGT300の処理で平峰にチャンスを与えない。平峰がその状況を振り返る。

「シンプルに次生さんは隙を与えなかった。GT300の使い方も本当にすごくて、上手いです。今回は負けちゃいましたけど、いい勉強をさせてもらいました」と平峰に言わせる、次生のブロック術だった。

 さらに次生は、ピックアップ対応にも独自のスキルを発動する。

「タイヤ自体のグリップは悪くなかったけど、周回遅れのGT300の集団のなかに入ったときは、ピックアップでグリップが辛かった。ピックアップさえ取れればなんとかなると思っていたので、そこからはとにかくピックアップを取ることに専念しました」

「ピックアップはタイヤ4輪全部に出ていましたが、コーナーでステアリングを大きく切ったり、スプーンの立ち上がりとか、S字でもタイヤを滑らせてドリフトしながらなんとかピックアップを取りました。まあ、そこはドリフトの練習をしていますので(苦笑)」と、飄々と語る次生。

『ピックアップが出てしまったらレースは終わり』とも言われるほどドライバーにとってはやっかいなピックアップも、次生に掛かれば対応可能なインシデント。ピックアップが取れたレース終盤は2番手カルソニックとの距離を序々に広げ、予選最下位から見事な大逆転で、今季2勝目、自身22勝目のGT500歴代最多勝を飾った。

 チェッカー後のウイニングランで、久々の鈴鹿の観客に車内から手を振る次生。スプーンコーナーではランオフエリアに飛び出し、観客の声援に応えた。

「スプーンにたくさんお客さんが来てくれていたのが見えたので、ありがたいなと思ってスプーンの外に行って、手を振って、エンジンを吹かしました。さすがに今回、地元の鈴鹿のレースでお客さんがこんなに集まってくれてうれしかったですね。こんな展開になるとは、誰も思っていなかったと思います。諦めずに気持ちを切らさず頑張ってよかったなと思います」

 さまざまな幸運が重なった、まさに奇跡の勝利。しかし、毎年こういった幸運を逃さず結果に結びつけたチームがチャンピオンの称号を手にするに至る。MOTUL AUTECH GT-Rはこの2勝目でランキング3位タイにポジションアップを果たしたが残り2戦、ここから先、再び幸運は訪れるのだろうか。

カルソニック IMPUL GT-Rが背後に迫るも、「意地でも抑えてやるという気持ちでした」と、松田次生
カルソニック IMPUL GT-Rが背後に迫るも、「意地でも抑えてやるという気持ちでした」と、松田次生