ヘアピンのバトルで見えた勝機。坪井翔が振り返るスーパーフォーミュラ初優勝岡山のターニングポイント

 全日本スーパーフォーミュラ選手権第2戦岡山で見事、自身初となる優勝を果たした坪井翔(JMS P.MU/CERUMO・INGING)。坪井が勝利できたのは、ふたつのターニングポイントとなるバトルを制したからだ。岡山と得意とし、圧倒的な速さでポールポジションを獲得した平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)と、チームメイトでタイトル獲得経験もあるベテラン石浦宏明(JMS P.MU/CERUMO・INGING)と繰り広げた痺れるバトルの展開を振り返る。

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──岡山のスタートは大荒れとなり、予選上位の多くの選手がクラッシュに巻き込まれましたが、坪井選手はうまく回避しました。

坪井翔(以下:坪井):スタートは上手く決まり、石浦(宏明)選手をインから抜くことができました。そのまま1コーナーで前にいた大湯(都史樹)選手がブレーキで奥まで行き、ロックしているのが見えたので、これはアウトに行ったら何かあるなと思った。そもそもアウトには山本(尚貴)選手とかいっぱいいたので、僕はインに行くしかなかったのもあります。スタートを決め、状況を冷静に見極められたから、あのアクシデントを避けることができたのかもしれません。結果的には、予選8番手スタートで良かったのかもしれないですね。

──セーフティカーが入り、その時点で坪井選手は2位に、石浦選手は3位に浮上していました。そして、8周目にレースが再開すると、石浦選手がいきなり仕掛けてきました。

坪井:今回からオーバーテイクシステムを作動させても8秒間は点灯しなくなり、僕が石浦選手の点灯を見たのは2コーナーを立ち上がってからアトウッドに行くまででした。多分、ストレートくらいから押していたと思います。最初は気がつかず、すごく追いつかれているなぁと思っていたら、やはりオーバーテイクシステムを押していたみたいで。僕も押そうかなと考えましたが、あまり抜かれる距離感ではなく、ブロックすれば何とか抑えられると思い止めました。そこは、上手くコントロールできたと思います。石浦選手はあそこでオーバーテイクシステムを使ってしまったので、翌周にニック(キャシディ)選手に抜かれそうになり辛そうでした。

2020年スーパーフォーミュラ第2戦岡山でチームメイトの石浦宏明(JMS P.MU/CERUMO・INGING)を抑え切った坪井翔と(JMS P.MU/CERUMO・INGING)
2020年スーパーフォーミュラ第2戦岡山でチームメイトの石浦宏明(JMS P.MU/CERUMO・INGING)を抑え切った坪井翔と(JMS P.MU/CERUMO・INGING)

──石浦選手は、随分長い間オーバーテイクシステムを押していたのでは?

坪井:セーフティカーでタイヤが冷えているときに抜きたいという気持ちで、たぶん8秒間くらい押していたのではないかなと思います。あそこに勝負をかけていたのかなと。

──そして11周目にタイヤ交換を行ない、その翌周、平川亮選手がタイヤ交換を終え、坪井選手の前でコースに復帰しましたが、バトルの末に抜かしました。

坪井:あそこは大きかったですね。セーフティカー中いつピットに入るのかを無線でかなりやりとりしていて、セルモとしては2、3位にいたので戦略が被ってはいけなかった。チームで話しあい、前にいる僕が主導権をもらえたので、いろいろ考えた末、11周目に入ることにしました。その後、平川選手がアウトラップで絶対に前に出てくると分かっていたので、あそこはプッシュするしかなく、オーバーテイクシステムをすべて使ってでも抜きに行こうと相当長く押しましたね。あのときは平川選手との一騎打ちになると思っていたし、岡山は抜けないサーキットなので、全部使い切ってでも前に出るしかないと。それが、結果的に良かったのかなと思います。

──ヘアピンのブレーキング競争では、タイヤから白煙が上がりました。

坪井:あのときは余裕がありました。サイド・バイ・サイドになってしまえば、向こうはタイヤがコールドなのでブレーキは行けないし、アウトに並んだ時点で、これは前に出られると確信しました。しかし、あそこで抜けたから良かったですが、もし抜けないままセクター3に入っていたら、平川選手のタイヤも暖まり、抜けなかったかもしれません。ヘアピンまでに追いつけて本当に良かったです。

──しかし、その時点でまだタイヤ交換を済ませていない石浦選手、キャシディ選手、国本雄資選手が前にいて、いいペースを保っていました。

坪井:石浦選手がピットを遅らせているのは分かっていました。平川選手を抜いたあと、石浦選手との見えないところでの戦いになると無線で知らされ、毎周タイムを伝えてもらいながら走っていました。途中までは石浦選手のほうがコンマ2秒くらい速く、正直『ヤバい、負けてしまうのかな』と思いました。石浦選手はもう半分走り終えていたのでプッシュしてタイヤが終わったときに入ればよかったけど、僕はまだ先が長く、ガソリンも重い状態だったので行きすぎるとタイヤがなくなってしまう。正直、あれ以上ペースを上げられる感じではなく、厳しかったです。

──そして、30周目に石浦選手がタイヤ交換を終え、坪井選手の前に出ましたが、すぐに抜かしました。

坪井:僕はもう必死で、抜かしはしましたけど、オーバーテイクシステムはほとんど残っていなかった。僕のタイヤはかなりタレていて、石浦選手はピンピンしていたので、その後数周、タイヤがピークに来るまでに抜かれる可能性は十分ありました。追いつかれ方を見て『これ抜かれるな』と思いましたが、バトルがあったとき、ヘアピンで何とか守りきれたのは良かった。もし、あそこで抑えられなかったら負けていたと思います。その後、石浦選手のタイヤがピークを過ぎたあとは、たとえ相手のほうが速くても1秒以内に入るのが限界だし、そこから抜きにいくことはできないというのを感覚的に分かっていたので、状況をキープできるかなと。あそこで抑えられたときに『勝てた』と、自信を持つことができました。

──もし、石浦選手が数周早くピットに入り、タイムロスが少なかったらどうなっていたと思いますか?

坪井:3、4周早く入っていたとしても、1秒くらいしか変わらなかったのではないかなと思います。アトウッドの立上がりではもう抜けていたので、1秒くらい差があったとしても、平川選手のときみたいにヘアピンまでには抜けたかなと。ただ、石浦選手がピットインを引っ張ってくれたので、早く追いつくことはできました。石浦選手も、あそこまでタイヤがタレてタイムが落ちるとは思っていなかっただろうし、本来なら軽くなり、コンマ1、2秒ずつ差を開いていくつもりだったと思います。ただ、僕も軽くなった状態で、終盤しっかりとタイムを上げられたのは良かったですね。

──冷静なレース運びと、大事な局面での勝負に勝ったことが、スーパーフォーミュラ初優勝に繋がりました。念願の1勝目を手にしたいま、今シーズンの目標は?

坪井:ランキング2位にいるので、チャンピオンのチャンスはあると思うし、目指そうと思っていますけれど、まずは常にQ3に進むことを目標にしたいですし、1回はポールポジションを獲りたいという気持ちがあります。今年は、Q1からQ3にかけてのコンディション変化をしっかりと経験し、セットアップや走りかたを学んでいく必要があると思います。

2020年スーパーフォーミュラ第2戦岡山で自身のキャリア初勝利を挙げた坪井翔(JMS P.MU/CERUMO・INGING)
2020年スーパーフォーミュラ第2戦岡山で自身のキャリア初勝利を挙げた坪井翔(JMS P.MU/CERUMO・INGING)

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 第2戦で勝利を挙げたことで現在ランキング2位につけている坪井。ランキング首位は第1戦もてぎ、第2戦岡山と好調の様子を見せている平川が14ポイント差と一歩抜きん出ているが、まだ勝負は始まったばかりだ。

 今週末、10月17、18日にスポーツランドSUGOで行われる2020年シーズン第3戦だが、秋口にSUGOでスーパーフォーミュラのレースが行われるのは2017年以来となる。SUGOは1周の距離が短く、大きなタイム差が出にくい。さらに昨年は山本尚貴(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)が1分3秒953の驚速タイムでコースレコードを更新している。今年は昨年と比較しても気温が低くなることが予想され、さらなるレコード更新の可能性も十分にある。

 レースではアクシデントやコースアウト車両が出ればすぐにセーフティカーが出動する可能性も高く、荒れた展開になることもあるだろう。予選でいかにいいポジションを獲得できるか、レースで運も含めた強さをどのドライバーが、どこのチームが発揮するのか。見所は尽きない。

 2019年は苦しくも予選16番手、決勝レースはリタイアという形に終わってしまった坪井だが、昨年のリベンジとチャンピオン獲得に向けて大量ポイントを狙いに行きたいところだ。