アストンマーティン DB11を海外試乗! いかにしてハイテクと伝統は融合したか?:後編【Playback GENROQ 2016】

  1. ASTON MARTIN DB11

アストンマーティン DB11

  1. 新生DBの世界

アストンマーティンの伝統を今に受け継ぐDBシリーズ。その最新作“DB11”の試乗が遂に実現することになった。新CEOにアンディ・パーマーを迎えた一作目となるだけに、その完成度はファンならずとも気になるところだろう。3名のジャーナリストがレポートする。(前編/後編)

アストンマーティン DB11のカットモデル

山崎元裕「将来を見据えた進化が伺える、確実な価値をもつ1台である」

構成するすべての要素が新世代へと進化した車両とは、ここまで魅力的な走りを披露するものなのか。そのような第一印象を一瞬で抱かせてくれたのが、DB9の後継車となるアストンマーティンDB11だった。

シリーズ途中で大幅なマイナーチェンジが実施され、着実にその商品性を高めてきたとはいえ、約12年間にも及んだDB9の生涯は、個人的には非常に長いものに感じられた。この間にライバルメーカーからは続々と最新世代の新型車が誕生し、そのたびにアストンマーティンにはどのような将来が待つのかを案じてきた。しかし、そのような不安はDB11をドライブした今、完全に過去のものになったと断言できる。DB11はそれほどに価値のある1台だ。

DB11のボディは、一見アストンマーティンの伝統的なスタイルをそのまま継承したものであるかのようにも見えるが、2005年以来、同社のデザイン部門を統括し、もちろんこのDB11のデザインでは主導的な役割を果たしたマレク・ライヒマンが特に意識したのは、これまでのアストンマーティン車との差別化だったという。確かにロングノーズ&ショートデッキのシルエット、あるいはアイコニックなフロントグリルのデザインには、DB11がアストンマーティンの作であることがアピールされているものの、シャープなラインを複雑に組み合わせ、フットワークの力強さとともに情熱的な印象を醸し出したボディは、まさに新時代の象徴ともいえる造形だ。

アストンマーティン DB11のサスペンション

山崎元裕「今回の試乗では高速域での安定感には常に圧倒させられた」

エアロダイナミクスに対しても、デザイン、そしてエンジニアリングの両チームからは興味深いソリューションが提案されている。特に印象的だったのは、フロントのホイールハウス内から効率的にエアを排出するためのメカニズムと、リヤクオーターウインドウにエアインテークを設け、ここからのエアをテールエンドの可変式フラップの後方へと導くことでボディ後方での整流効果を生み出す仕組み。確かに今回の試乗でも高速域での安定感には常に圧倒させられたが、その直接的な理由のひとつは、もちろんここにある。

アルミニウム製のパネルを接着、あるいはリベット止めすることでプラットフォームを形成する手法はDB9以来、アストンマーティンが継承してきた手法で、この基本的な成り立ちはDB11においても変わらない。だがそのパネルの製法などはさらに進化し、結果としてより軽量で、高い剛性を得るためのデザインが実現していることは、試乗会に用意されていたカットモデルからも確認できていた。ちなみにDB11のホイールベースは、DB9比ではプラス65mm。サスペンションはフロントにダブルウイッシュボーン、リヤにはマルチリンクが採用され、ダンパーは「GT」、「スポーツ」、「スポーツプラス」という3タイプの制御モードをもつ。

この新型プラットフォーム、そしてサスペンションもDB11の走りを大いに魅力的なものにしている。ダイナミックな曲線を多用することで、一気に現代的な印象を強めたキャビンは前で触れたホイールベースの拡大などで特に後席では驚くほどに快適な空間へと生まれ変わっているが、とはいえ走りの中で重量感や剛性不足を理由とする乗り心地の悪さを感じさせるような場面はなかった。ただし今回の試乗車の中には、シャシーに関して、それとは異なる印象を与えるモデルもあったのは事実。品質の平均化は、これからカスタマーにDB11が届けられるまでの課題となりそうだ。

アストンマーティン DB11のインテリア

山崎元裕「DB11の誕生によって、確実に新しい時代の幕を開けた」

アストンマーティンは将来的にV型8気筒エンジンの供給をメルセデスAMGから受ける契約をすでに締結しているが、DB11に搭載される5.2リッター仕様のV型12気筒ツインターボエンジンは、完全自社開発によるもの。最高出力で608ps、最大トルクでは700Nmのスペックを誇るこのエンジンは、ともかくスムーズな動きに終始し、ターボラグもほとんどそれを感じることはない。8速ATをリヤに配置するトランスアクスル方式を採用し、それによって51対49と、ほぼ理想的な前後重量配分を得ている。このパワートレインもシャシーと同様の3モードに独立して制御を可変することができる仕組みだが、個人的に意外と好印象だったのは、最も快適な移動空間が提供される「GT」を両者ともに選択した時だった。

DB11の誕生によって、アストンマーティンは確実に新しい時代の幕を開けた。この先にはさらに新世代のヴァンキッシュやヴァンテージ、あるいはラピード、クロスオーバーSUVのDBX、そしてレッドブルとのコラボによるAM-RB001などのプランもある。彼らの未来は、限りなく刺激的なものになりそうだ。

アストンマーティン DB11のフロントセクション

野口 優「DBを貫く姿勢に脱帽。進化と敬意が交差する完成度が魅力」

今こうして新生アストンマーティンの新作DB11のステアリングを握り、思うがままにその走りを満喫し、そして優雅なひと時を過ごしていると、新CEOアンディ・パーマーの狙いがより明確化されたように思う。即ち、“いつまでも過去の幻想に縛られたくはない──”という、ある種の否定論を彼はこのDB11で表現したかったのだろう。確かにその乗り味が過去のアストンマーティンとは一線を画すのは紛れもない事実である。

それはコクピットに乗り込んだ瞬間からわかる。やや高めに設定されたメーターパネルの配置に計器類の表示方法、各種操作系やシートポジション等、決してこれまでのような雰囲気一辺倒で魅了するだけではなく、人間工学的にも優れたレイアウトが各部に見て取れる。変わっていないのはセンターコンソール上に設けられたドライブセレクターくらいだろう。それ以外は見事なまでの“正常進化”を果たしている。今後、V8ユニットがメルセデスAMGから供給されることを匂わせるように、インフォテインメントシステムの一部にメルセデスを感じさせるとはいえ、この方が使い勝手に優れているのだから、むしろ歓迎すべき改善かもしれない。ある意味では機能的かつ効率性を優先したのだからパーマーの狙いは正しいと実感させられた。

それは、実際に走らせても同様。先代CEOであるDr.ウルリッヒ・ベッツの指揮により完成したVHプラットフォームを大幅に改良し、もはやほぼ別物にまで発展させた新型シャシーは、より精度を増したどころか剛性を引き上げながらもしなやかさも併せ持つという、最新型らしい確かな信頼感を生み出すことにも成功している。この辺りの拘りは確実に先をも見越しての策だが、同時にパーマーが日産時代に得たノウハウが活かされているのは確実だろう(実際、日産時代にパーマーはニュルを走りまくっていた模様)。

アストンマーティン DB11のエンジン

野口 優「汗をかかずに高速移動できる新兵器に、きっとボンドも驚くはず」

しかし、それでもアストンマーティンの歴史を汚さない配慮も伺えるから、むしろ感心するばかりだ。特にそう思わせるのは、あくまでも“DB”としてのポジショニングを保持させたこと。つまり、新型V12ツインターボユニットを搭載させて最高峰のヴァンキッシュよりも出力値は上にしているものの、あくまでもその差を最小限に留めていることである(DB11=608ps&700Nm/ヴァンキッシュS=576ps&630Nm)。本来であれば、この新型V12ツインターボユニットのポテンシャルはこんなレベルではない。それを敢えて抑えたのは、新型ヴァンキッシュを見据えてのことであるのと同時に、現行型への配慮にほかならない。

それに、もうひとつ。51対49という前後重量配分は、“アストンマーティンの掟”を貫いていることを意味する。何故なら、DB11はトランスアクスル方式を採るFRモデル。昨今、フェラーリのF12やGTC4ルッソなどを例に挙げれば分かるように、スポーツカーとして謳うならトラクション性を稼ぐためにリヤ荷重を重くするのが定説で、そのためにトランスアクスル方式を採用していると言っても過言ではない。それに対してDB11は、ほぼ前後バランスを同一値に設定した。その理由は、何よりもGT=グランドツーリングカーとしてのコンセプトを貫くためである。これは歴代アストンマーティンに通じる、暗黙の鉄則。パーマーは敢えて、こうしたに違いない。

だから最高値を得られる“スポーツ+”モードで全開にしていても、基本GTであることを常に思わせる。そして乗り心地を失わない。言葉にするとフェラーリなどと同じ類に思われるだろうが、DB11のそれは、あくまでも“ジェントル”に飛ばさせる類。言い換えるなら、ジェームズ・ボンドが跳ね馬に乗らない理由と同じで、スポーツ走行したいからスポーツカーに乗るというのではなく、GTだから安心して飛ばしてしまう、という意味である。これがDB11、最大の武器だろう。汗をかかずに高速移動できる新兵器に、きっとボンドも驚くはずである。

REPORT/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)、野口 優(Masaru NOGUCHI)
PHOTO/ASTON MARTIN LAGONDA LIMITED

【SPECIFICATIONS】

アストンマーティンDB11

ボディサイズ:全長4739 全幅1940 全高1279mm
ホイールベース:2805mm
車両重量:1770kg
前後重量配分:51/49%
エンジン:V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:5204cc 圧縮比:9.2
最高出力:447kW(608ps)/6500rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/1500-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前400×36 後360×32mm
タイヤサイズ(リム幅):前255/40ZR20(9J) 後295/35ZR20(11J)
最高速度:322km/h
0-100km/h:3.9秒

※GENROQ 2016年 10月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。