勝負どころになったピットタイミングとアウトラップ。苦しいARTAと上昇気配DENSOの背景《第5戦富士GT500決勝あと読み》

 スーパーGT第5戦富士決勝、レース序盤からポールポジションのARTA NSX-GTと2番手に上がったリアライズコーポレーション ADVAN GT-Rがトップを入れ替わるバトルを繰り広げながら、実質、勝負どころとなったのがピットでのタイヤ交換後のアウトラップだった。

 13周目に24号車リアライズコーポレーション ADVAN GT-Rからトップを奪い返した8号車ARTA NSX-GTは25周を走行してピットイン。24号車はその1周前にピットインしており、8号車に次ぐ2番手は39号車DENSO KOBELCO SARD GRスープラに代わっていた。その39号車も25周を終えて26周目にピットイン。トップ争いは上位3台によりピットストップ合戦となった。

 そして、ここでトップに大きく躍進したのが、39号車だった。

 8号車は実質トップでピット作業を終えてコースに戻るも、アウトラップのペースが上がらない。その後方でコースに復帰した39号車、そして100号車RAYBRIG NSX-GT、39号車にアウトラップでオーバーテイクを許してしまった。

 8号車がいかにアウトラップが厳しかったかは、39号車とのピットを挟んでの前後3周のタイムでも明らかだ。

●#8 ARTA NSX-GT
1分38秒929
2分59秒279
1分34秒591

●#39 DENSO KOBELCO SARD GRスープラ
1分38秒471
2分48秒538
1分32秒479

 つまり、このピット前後の3周で8号車は14秒近くをロスしていることになる。実は8号車がハード目のタイヤを選択していたのに対し、39号車はソフト目タイヤとウォームアップのアドバンテージがあったようだが、いずれにしてもこの14秒が勝負の分かれ目となった。

 後半スティントを担当したARTA NSX-GTの野尻智紀が振り返る。

「ピット作業自体はおそらく普通に作業できていたと思います。僕たちのクルマの傾向として、他のクルマよりも軟らかいタイヤじゃないとしっかりとグリップが出ないというところがあって、アウトラップはそのあたりがうまく合わなかった。ウォームアップもだいぶ苦労して、計測2周目に入るくらいのときにようやく温まってきたなという感触で、他よりも1周くらい遅い印象でした」と野尻。

 8号車は予選では2番手にコンマ5秒の差をつける圧倒的な速さを見せながらも、レースではそこまでのパフォーマンスは発揮できなかった。

「決勝のクルマのフィーリングについては、改善すべきところがいくつかあったなというところで、予選に比べると、周りと同じようなタイムでしか走れない感じがありましたね。第2戦の富士の時からも、良くなっている部分とそうでない部分と、いろいろなことがおきたかなという感じです」と野尻。

 予選で圧巻のクルマも、決勝では「ピックアップもずっとしていましたし、ブレーキングのスタビリティが気になっていました。アンダーオーバーも出たり、結構、難しい状況でした。前半スティントを担当した福住選手から状況はある程度聞いていたので、戸惑うことはなかったですけど、結構ドライビングは大変でした」と野尻が振り変える。

 8号車は結局、燃料リストリクター2ランクダウンの37号車KeePer TOM’S GRスープラを抜きあぐね、53周目にようやくオーバーテイクを果たすも、14号車WAKO’S 4CR GRスープラに順位を奪われ、3位フィニッシュとなった。

「37号車は抜きあぐねた感じはすごくありますが、後ろに付くと空力的なものもすごく大変でしたし、37号車は本当に燃料リストリクター2段階ダウンなの? というくらいストレートで強かった印象ですね。ただ、それでも抜けるチャンスは1回くらいはあったので、そこで抜けなかったのが14号車に前に行かれてしまった要因ですね」と、野尻。

「今回、決勝で何が遅かったのかしっかり究明しないといけないですし、チームとしても僕としても、やらなきゃいけないところがあると思いますので、そのあたりをしっかりとやっていれば、必ず結果は出ると思うので、しっかりとやっていきたいなと思いますね」と次の鈴鹿に向けて抱負を語った。

 一方、序盤戦ではそこまで目立ったパフォーマンスを見せていたわけではなかったが、着実に順位を上げて勝負どころのピットタイミングできっちりと速さを見せた39号車DENSO KOBELCO SARD GRスープラ。実際のコース上でのパフォーマンスもさることながら、今年から就任した昨年のチャンピオン監督、脇阪寿一監督のマインドが活かされていたようだ。

「今日はなにより、チームとドライバーが頑張ったので褒めたいと思います。このレースからお客さんがレースに来れるようになって、昔からそうですけど、僕はお客さんから+αの力をもらえるのだと思います。そこはもう感謝です」と寿一監督。

 コロナ禍の状況でも、新しく就任したサードでも、しっかりと寿一イズムをチームに注入していた。

「サードに僕が入ったときは本当に足りない部分が多いと感じていて、スーパーGTは日本の最高峰カテゴリーでトヨタの威信を懸けた戦いなので僕の求めるものも強くなるんですけど、それに対してみんな不満ひとつ言わずに付いてきてくれたし、ドライバーたちも含めて、みんなで意見を言い合えるチームになってきた。それが今回、たまたまひとつ形になった要因かなと思います」と寿一監督。

 ピット作業は実はサードはトヨタ陣営のなかでもトップクラスに早く、そのチームの総合力が今回の勝負どころで活きることになった。

「これまで下位を走っていたので目立ちませんけどサードはトヨタ陣営のなかでサードはチームバンドウの次に作業が早いんです。前回はそのバンドウを抜きに行って失敗しましたけど、今回は完璧ではないけど、ある程度まとまってできました」と寿一監督

 ピットタイミングもギリギリまで状況を見極め、ここぞというタイミングで指示を出した。

「ヘイキ(コバライネン)にピットインの指示を出したのはファーストセクターに入ってから。ギリギリまで考えながら、チームにはこういう状況になるというのも事前に伝えていたので『行くぞ!』と言ってからの動きも早かったですし、幸いピット位置の前後のチームはもうピット作業を終えていたので、気を遣わずにピット作業ができたのでよかった」

「作戦は急に決めますけど、急に決めるまでの準備、そこからの動きは徹底しています。勝つ可能性を引き上げる準備は徹底してから勝負にいきます。これは僕の勝負の鉄則です、考え方として、プロが自分のためではなく仲間のためにできる環境を作りたくて、それが実践できて間違っていないということを今日は証明できたので、サードはこれからより強くなると思います」とシーズン後半に向けて意気込む寿一監督。

 これまでDENSO KOBELCO SARD GRスープラはコバライネンがコロナ禍で来日できずに代役参戦がつづき、GRスープラ陣営のなかでも一歩遅れる形だったが、この第5戦でようやく本来のパフォーマンスを発揮しはじめた。強力なGRスープラ陣営の一角を担う存在として、後半戦の台風の目となる可能性も高い。

 また、予選ではウエイトハンデの軽いクルマが上位を占める形となったが、決勝では軒並み順位を下げ、決勝では勢力図が一変することになった。予選と決勝は別モノ、そして、ピットタイミングで状況が一変してしまうスーパーGTの難しさを、今回の8号車と39号車が見せることとなった。

2人のドライバーとともに優勝を喜ぶ脇阪寿一監督
2人のドライバーとともに優勝を喜ぶ脇阪寿一監督