【気になる一言】「我々の扉は常に開いている」FIAレースディレクター、罰則に関してドライバーとの話し合いも厭わず

 2020年F1第10戦ロシアGPでは、レース前にルイス・ハミルトン(メルセデス)が行ったスタート練習に対して、スチュワード(レース審議委員会)が合計10秒のタイムペナルティを科したことが大きな話題となった。メルセデスとハミルトンは、レース後も憤懣やるかたない様子だった。レースディレクターを務めるマイケル・マシは、ロシアGPのレース後の会見で、今回の一件を冷静に振り返った。

 まず、ハミルトンが「僕は今回だけでなく、いつも同じようにやってきたつもりだ」と語ったことについて、マシは次のように反論する。

「スタート練習位置はサーキットによって異なるので、(サーキットごとに発行される)イベントノートに詳しく記載されている。したがって、他のすべてのグランプリで、ルイスはほかのすべてのドライバーとともに、レースディレクターの指示に従ってスタート練習を行ってきた」

 そもそも、なぜ決められた場所でしか、スタート練習をしてはいけないのか。

「その理由は、すべてのドライバーの安全のためだ。場所を決めることで、ほかのドライバーはそこで何を行おうとしているのかを察知することができる。だから、我々は意図的に場所を決めている」

「今回の一件は、チームとカーナンバー44号車のドライバーとの間でおそらく誤解があったのだと思う。なぜなら、(ハミルトンのチームメートの)バルテリ(・ボッタス)やほかのすべてのドライバーは、ピットレーン出口の信号直後の正確なスタート練習開始場所を使用したからだ」

 では、なぜ指定した場所と異なる位置でスタート練習したのだろうか。

「なんらかのメリットがあったのだと思う。最終的にスチュワードは、そのエリアで練習を行うことは、競技上アドバンテージがあると判断した。したがって、彼らは適切なペナルティを与えた」

ルイス・ハミルトン(メルセデス)
2020年F1第10戦ロシアGP ピットストップ時に2つのタイムペナルティを消化したルイス・ハミルトン(メルセデス)

 メルセデスのトト・ウォルフ代表は「スタート練習を行う場所が明確に指示されていないことが今回の問題を招いた一因だ」と語った。FIAは白線などでスタート練習位置を表示していないが、その理由について次のように説明した。

「一般的に、我々は(スタート練習する)ボックスをペイントしない。場所を指定するからだ。ピットレーン出口の形状はサーキットに異なる。これは、私がレースディレクターになる前から行われていたことであり、今回の一件は(ドライバーとチームの)単純なエラーだったと思う」

■ハミルトンに科されたペナルティの詳細

 ハミルトンに科せられたふたつ目のペナルティは何なのか。

「ひとつ目の違反は、スタート練習位置に関してのもので、これはレースディレクターズイベントノートに記されている。ふたつ目の違反は、ピット出口を一定の速度で走行しなければならないというもので、これはスポーティングレギュレーションの第36条1項に規定されている。ピット出口とは、ピットレーン出口の白線から(第2)セーフティカーラインまで定義されている」

 これにより、ハミルトンには合計10秒のタイムペナルティが与えられたが、当初は、ハミルトンにはタイムペナルティと共にペナルティポイントも1点ずつ合計2点科されていた。

2020年F1第10戦ロシアGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)
2020年F1第10戦ロシアGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)

 しかしレース後、スチュワードは、ハミルトンがスタート練習を禁止された場所で行う際にチームが指示を与えたとの報告をメルセデスから受け、その事実を無線で確認できたとして、ハミルトンへのペナルティポイントを取り消し、チームに対して2万5000ユーロ(約300万円)の罰金を科すという決定を下した。

 この決定の裏にどのような背景があったのか。

「レース後、メルセデスのスタッフとカーナンバー44号車のドライバーがスチュワードを訪れ、説明を行った。そして、チームが異なる位置でのスタート練習を行うことを最終的に許可したことを認めた」

「それを踏まえたうえで、スチュワードは、(ドライバーにペナルティポイントを与えることは)不適切であると考え、両方のペナルティポイントを取り消し、指示を出したチームに2万5000ユーロの罰金を科した」

「確かにマシンに乗っていたのはドライバーで、彼が実際にスタート練習していた。しかし、その時点でその指示を彼に出したのはチームであり、スチュワードは決定を修正するのがふさわしいと考えた」

 2点のペナルティポイントを科すという決定が取り消される前、ハミルトンは「だれかが僕を止めようとしている」と発言したことについて、マシは、ドライバーとの話し合いもいとわないと明言した。

「私の立場いえば、それは非常にシンプルだ。ルイスが(我々に)何か不満があり、言いたいことがあれば、私は以前にすべてのドライバーにも言ってきたように、我々の扉は常に開いている。ドライバーと話し合うを行うことを私はいとわない」

「ただし、スチュワードは別だ。独立した司法機関なので、ルイス・ハミルトンであれ、ほかの19人のドライバーであれ、許可なく自由に出入りすることはできない。それは規制違反が発生した場合、彼らがすべての重要な要素を考慮に入れて、状況に応じて公平かつ公正に裁定しなければならないからだ」

2019年F1アゼルバイジャンGP マイケル・マシ(FIAレースディレクター)
2019年F1アゼルバイジャンGP FIAレースディレクターを務めるマイケル・マシ。2019年の開幕戦直前に亡くなったチャーリー・ホワイティングの後任として就任した