DBXはまごうかたなきアストンマーティン。渡辺慎太郎が実感した純度の高さ 【後編】

Aston Martin DBX

アストンマーティン DBX

公道試乗で見えたDBXの類稀なパフォーマンス

いよいよ国内試乗の機会が得られたアストンマーティン DBX。渡辺慎太郎によるインプレッションレポートの後編をお送りする。(前編/後編)

アストンマーティン DBXのリヤ走行イメージ

まさしくグランツーリズモ

今回は都内と箱根を往復するショートトリップのような試乗ルートで、タウンスピードから高速巡航、そしてワインディングロードに至るまで、さまざまな状況でDBXを試すことができた。

青山通りから青山学院脇を抜けて首都高の渋谷入路から高速へ。ここまでの時点ですでに乗り心地のよさと静粛性の高さに驚いた。東名高速に入って巡航速度が上がっても乗り心地と静粛性に大きな変化は見られない。速度に関係なく車内は至極快適なのである。

DBXには6種類から選べるドライブモードが装備されていて、この時点ではデフォルトとなる「GT」のままだったのだけれど、快適性はまさしく“GT=グランツーリズモ”であり、これなら1日500kmくらいのドライブでも楽勝ではあるまいか、と感じた。

アストンマーティン DBXのコクピットイメージ

一切取り乱すことのない所作

シートはDB11のそれをベースに開発したそうで、室内の広さからすれば若干小ぶりにも見えるものの、ホールド性や荷重分布が最適で疲れ知らずである。前席を小ぶりにした分、後席には余裕が生まれるわけで、ヘッドクリアランスやレッグルームはクラストップのスペースが確保されている。つまりDBXは大人4人がゆったり過ごせる空間も備えているのであった。

制限速度の厳守にひときわナーバスになる小田原厚木道路からターンパイクに滑り込む。とりあえずドライブモードはGTのままにしたが、これでもまったく問題ない。乗り心地のよさはそのままに、とにかくばね上の動きのコントロールが見事である。ターンパイクは登りと下りの勾配が混在していて、普通のクルマやスポーツカーに比べれば重心の高いSUVの荷重移動は、当然のことながら路面の影響をより受けやすくなる。ところがDBXはこれを上手に制御して、極端に言えばあたかも勾配のない平坦路を走っているかのような挙動を見せるのである。

制動からターンインして旋回後の再加速に至る過程でのばね上の動きは、ピッチ/ロール/ヨーの3要素に関して完全に掌握している。重量が2.2トンもあるので下りでは速度に乗ってしまうものの、それを除けば登りでも下りでもコーナリングの所作に大きな差は現れない。

アストンマーティン DBXの正面イメージ

黒子に徹する電子デバイス

この時、車両側ではアクティブトランスファーケースによる前後のトルク配分、Eデフによる後輪左右のトルク配分、アクティブスタビによる前後のロールバランス、エアサスによるばね上の姿勢変化に加えてブレーキをつまむトルクベクタリングなど、電子制御デバイスが総動員でクルマをコントロールしているはずなのだけれど、その介入のレベルやタイミングや頻度が絶妙なのだ。

以前、某レーシングドライバーが最近のクルマのハンドリングに関する数多の制御デバイスについて「介入してくるのがイヤだから、介入されないよう完璧な進入速度と荷重移動とライントレースを心掛けて、まったく介入されないと『してやったり!』と思う」と、なんとも格好いいコメントをしていた。

アストンマーティン DBXのサイド走行イメージ

残念ながら自分にはそこまでのスキルがないので、絶対にDBXの電子デバイスに大いに助けていただいているはずなのに、それをほとんど感じないのである。たまに「ん?」と介入の瞬間が伝わってきたとしても、極めてスムーズにかつあっという間にフェードインしてフェードアウトするので、本当に介入したのかどうかが自分レベルでは正直よく分からない場面が何度もあった。

電子デバイスのこうした所作はポルシェに少し似ていると思った。ポルシェのエンジニアは「電子デバイスは基本的に黒子に徹するべき」と語っていたけれど、アストンマーティンも同じ思想なのだろう。

アストンマーティン DBXのセンターコンソールイメージ

乗り味を調律する名エンジニアの存在

しかし、黒子に徹するにはボディやシャシーの骨格がしっかりしていて、電子デバイスをすべて取っ払っても走る/曲がる/止まるの基本性能がきちんと担保されている必要がある。個人的経験から電子デバイスの介入が気になるクルマは、基本性能の足りない部分を補う目的でそれらを導入しているように感じる。もうひとつ重要なのは、いくつもの電子デバイスをいい塩梅で協調制御させる“調律師”が不可欠ということ。アストンマーティンにはマット・ベッカーという職人がいて、彼がすべてのアストンマーティンのプロダクトの乗り味を決めている。

「正直に言うと、四角いステアリングは好きじゃない(笑)。やっぱり正円じゃないとね」と自身のプロダクトに対しても歯に衣着せぬ物言いをする彼は、クルマの動きに関しても感覚や官能評価だけでなく、物理的にも運動工学的にもきちんと説明できる出色の職人である。

アストンマーティン DBXのモード切替イメージ

マット・ベッカー推奨のセッティングレシピ

以前、夕食を共にした時はまさにDBXの開発中で「みんなアストンらしいSUVを期待しているんだろうけど、我々だって初めて作るわけで、誰もアストンらしいSUVとは何かなんて実は知らない(笑)。SUVなんで特に操縦性については難しい要件がたくさんあって、いまはそれをひとつひとつ丁寧にクリアしているところです。でも手応えはあるので、きっと気に入ってもらえるはず」と、その表情に自信を覗かせていたが、今回初めて試乗してそれが裏付けられた。

ちなみに彼のお薦めのドライブモードは、それぞれが任意で設定できる“INDIVIDUAL”でサスペンションを“GT”、他が“SPORT”の組み合わせ。今回はオフロード用の“TERRAIN”“TERRAIN+”以外のすべてのモードを試してみたが、ターンパイクのようなアップ&ダウンがあるところでは、パワートレイン系が“SPORT”や“SPORT+”だと重い車重のネガを消してさらに瞬発力も増し走りやすかった。

アストンマーティン DBXのドアトリムイメージ

もちろん、サスペンション系を“SPORT”や“SPORT+”にするとロールがさらに抑え込まれてばね上の動きが最小限に留まるものの、個人的には“GT”モードでのばね上の適度に緩やかでスムーズな動きをあえて許容する様が心地よかった。“GT”モードでもドライバーのステアリング操作に対して正確かつ瞬時に反応してくれて、ニュートラルステアに近い挙動に収めてくれるから、それこそうっかり自分の運転スキルが上がったように錯覚してしまいそうだった。

なお、“INDIVIDUAL”では車高/サスペンション/ロールコントロール/ステアリング/スタビリティシステム/シフト&スロットルプログラム/エキゾーストをそれぞれ個別に設定できる。

アストンマーティン DBXのリヤビュー

DBXがもたらす「2台分」の歓び

快適性やハンドリングに比べてDBXのパワートレインの印象がやや薄かったのは不足や不満があったからではない。むしろパワーデリバリーや加速力やトラクション性能がほぼ完璧で、それらが欲しいときに欲しいままに手に入ったからだ。

実際よりもずっとコンパクトに感じて試乗した後でも余韻に浸れるSUVなんて、あまりお目にかかったことがない。だからといってDBXは大変いいお値段のするSUVでもあるので、たやすく誰にでもお薦めできるものではないけれど、1000万円のスポーツカーと1000万円のSUVを2台所有する財力があるならば、DBXはきっと1台で2台分の嬉しさを与えてくれるはずである。

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)

【SPECIFICATIONS】

アストンマーティン DBX

ボディサイズ:全長5039 全幅1998 全高1680mm

ホイールベース:3060mm

車両重量:2245kg

地上高:190 – 235mm

エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ

総排気量:3982cc

ボア×ストローク:83×92mm

圧縮比:8.6

最高出力:405kW(550ps)/6500rpm

最大トルク:700Nm/2200 – 5000rpm

トランスミッション:9速AT

駆動方式:AWD

サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク

ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク

ディスク径:前410 後390mm

タイヤサイズ:前 285/40YR22 後325/35YR22

最高速度:291km/h

0-100km/h加速:4.5秒

CO2排出量(NEDC):269g/km

燃料消費量(WLTP):14.32L/100km

車両本体価格:2299万5000円(税込)

【問い合わせ】

アストンマーティン ジャパン

TEL 03-5797-7281