ポルシェ356の歴史的モデルを一気試乗! 伝説を築いた名車の実力を現代目線でレポート【Playback GENROQ 2018】

Porsche 356

ポルシェ356

ポルシェ356、その歴史と進化を辿る

今年に入り世界各地で“ポルシェ”の誕生70周年を祝う様々なイベントが催されている。その中でもユニークでマニアックなプログラムが、世界から少数のジャーナリストをスイスに集めて開催された。356のルーツを探る、ミュージアム主催のワークショップである。モータージャーナリストの藤原よしおが希少な356歴代モデルを試乗した。

ポルシェ356-001

Porsche 356-001

ポルシェ356-001

 

「ポルシェの名を最初に冠したスポーツカー356-001」

今から70年前にポルシェの名を最初に冠したスポーツカー356-001がオーストリアのグミュントで生まれたのは有名な話だが、報道陣に初めて公開されたのが1948年7月4日に行われたベルン・グランプリの会場であったり、開発資金を援助したのがスイスの実業家たちで、チューリッヒに最初のディーラーが設立されたりと、スイスがその創世記を支えた地であるという史実は意外と知られていない。

今回開催されたワークショップは、そんなスイスを舞台にポルシェ・ミュージアムが所有する356A、356A スピードスター、356B カレラ2 カブリオレ、356B スーパー90の4台でツーリングし、約15年にわたる356の進化を体感するというのがテーマなのだが、その他にもうひとつの“メインディッシュ”が用意されていた。

それが普段ミュージアムに展示されている、356-001の同乗体験である。

ポルシェ356-001のインテリア

「門外不出の356-001をドライブするチャンスが与えられた」

356-001のプレス発表からちょうど70年が過ぎた2018年7月4日、我々は現在サイクリングコースとして使われているベルン・サーキットの跡地を訪れた。

そこで我々にもたらされたのは、まったく予期しないサプライズだった。なんと僅かな時間ではあるが、門外不出の356-001をドライブするチャンスが与えられたのだ!

でもなぜ同乗の予定が急遽変更になったのか? その理由は乗ってみて、すぐに明らかになった。

とにかく熱いのだ。

ポルシェ356-001のエンジン

「エンジンが薄いバルクヘッドを隔てたドライバーのすぐ後ろに鎮座」

356-001は後の市販型とはまったく異なり、鋼管チューブラーフレームのシャシーにビートルから流用した1131ccの空冷フラット4 OHVを積むミッドシップ・レイアウトを採用している。

実はこのエンジンが薄いバルクヘッドを隔てたドライバーのすぐ後ろに鎮座しており、盛大に熱を発しているのだ。しかもエンジンフードを外しているので余計に始末が悪い。なぜ外しているのかと聞くと、前日にアメリカとドイツのジャーナリストを対象に同乗ツーリングを行った際に、ヒート気味になってしまったからだという。そこで改めて見てみると、車体後半の大部分をスペアタイヤの収納とラゲッジスペースが占めており、前後をバルクヘッドで仕切られた狭いスペースにエンジンが押し込まれていた。これでは長時間走行でヒートするのも無理はない。

スペースフレームにミッドシップという構造を採用したのは、フェリー・ポルシェ博士が戦後すぐにイタリアのチシタリアから設計、開発を依頼されたGPマシンなどの影響を強く受けた結果だったとミュージアムのマネージャー、アレクサンダー・クラインは語る。ポルシェ自身、戦前にアウトウニオンPヴァーゲンを開発しており、ミッドシップが初めてというわけではなかったはずだが、レーシングカーと市販スポーツカーでは勝手が違ったということだろう。実際、開発陣の指揮を執ったカール・ラーべが残した記録を見ても、走行テストでリヤフレームが変形してしまったなど、開発に苦心した様子が見て取れる。

ポルシェ356-001のシート

「荒れたベルン・サーキットの旧コースでも安心感が高く、乗り心地がとても良かった」

でもそれで356-001が失敗だった評するのは早計だ。ツインチューブ式のモノコックのように幅広いサイドシルを持つコクピットに乗り込むと、ドライバーをなるべく中央に座らせるミッドシップを活かした設計となっていることがよく分かる。またドライビングポジションも自然で、ウォーム・ナット式のステアリングも、4速MTやドラムブレーキのタッチもカッチリしており試作車然とした線の細さはない。

残念ながらハンドリング云々を語れる速度域でドライブしたわけではないが、35psのフラット4に対するシャシーのバランスは良好。中でも印象的だったのがスペースフレーム・シャシーの剛性の高さで、しっかりと動くビートル譲りのサスペンションも相まって、荒れたベルン・サーキットの旧コースでも安心感が高く、乗り心地がとても良かった。

ポルシェ356A 1600 Coupeの走行シーン

Porsche 356A 1600 Coupe

ポルシェ356A 1600クーペ

「RRゆえのアンバランスさを克服しきれていない」

そうした特徴は1956年型の356A 1600に乗ってみると、より明らかになる。

1950年代のレベルで見れば、強固なフロアパンと60psを発生する実直な1.6リッターフラット4を搭載した356Aは、ライバルに比べても遥かに高い完成度を誇る1台といえる。しかし356-001に乗った後では、フロントが軽すぎるうえにステアリングのフィールも大味で、RRゆえのアンバランスさを克服しきれていないように感じられた。

ポルシェ356A 1600 Super Speedsterの走行シーン

Porsche 356A 1600 Super Speedster

ポルシェ356A 1600スーパー スピードスター

「3000万円以下で売り物を探すことはできないコレクターズアイテム」

続いてドライブしたのは1958年型の356A 1600スーパー スピードスター。いまや3000万円以下で売り物を探すことはできないコレクターズアイテムでもある。

スピードスターは北米市場からの要望に応えて生まれた、ライトウェイトバージョンだ。ラジオやグローブボックスなど快適装備を外し、低いウインドスクリーンとバケットスタイルのスポーツシートを採用した結果、760kgに軽量化されたシャシーはバランスがよく、軽快な走りをみせる。

356A 1600 Super Speedsterのエンジン

「各国のジャーナリストの間でも、スピードスターをベストとする意見が圧倒的」

それには58年モデルから採用されたZF製のウォーム・ベグ式ステアリング・ギヤボックスや、75psにチューンされた1.6リッターフラット4の影響も大きいはずだ。またシューの幅が広げられたドラムブレーキはタッチ、制動力ともに向上し、全体として356Aからかなり洗練された印象を受けた。これであれば数々のレースで活躍し、ジェームス・ディーンやスティーブ・マックイーンも愛したという逸話も頷ける。実際、今回試乗した各国のジャーナリストの間でも、スピードスターをベストとする意見が圧倒的に多かった。

しかしながら、スピードスターが実用性、快適性を度外視した特別なモデルであるのは間違いない。では、スタンダードな356はどう進化したのか? その答えが1963年式の356B 1600スーパー90だ。

ポルシェ356B 1600 Super 90 Coupeの走行シーン

Porsche 356B 1600 Super 90 Coupe

ポルシェ356B 1600スーパー90 クーペ

「RRのネガが薄められたナチュラルで安定したハンドリングに仕上がっていた」

356Bは1959年に登場した、いわば356のビッグマイチェン版というべきモデルである。

その最大の特徴はシャープになったボディデザインで、メカニズム的に大きな変更は行われていないというが、全長が60mm伸び、車重が85kg増えたことでシャシーバランスが改善され、良い意味でどっしりとした落ち着きが生まれている。

特に90psの1.6リッターエンジンを搭載するスーパー90では、1枚の横置きリーフスプリングで左右のリヤサスペンションを結ぶ補強が行われた効果もあり、RRのネガが薄められたナチュラルで安定したハンドリングに仕上がっていた。

ポルシェ356B 2000GS Carrera2 Cabrioletの走行シーン

Porsche 356B 2000GS Carrera2Cabriolet

ポルシェ356B 2000GS カレラ2 カブリオレ

「今で言う911 GT3 RSのようなモデル」

そしてもう1台、違うベクトルで356の進化を感じられたのが、1962年式の356B 2000GS カレラ2 カブリオレだった。

130psを発生する1966ccフラット4に4カム・ユニットを搭載し、前後に804F1から流用した軽量2ポット・ディスクブレーキを採用するカレラ2は、今で言う911 GT3 RSのようなモデルである。しかもロードスターは、34台しか製造されていない超希少車なのだ。

ポルシェ356B 2000GS Carrera2 Cabrioletのエンジン

「拍子抜けするほど乗りやすい。ポルシェの“強さ”の原点を見た気がした」

実はこの個体、ジャーナリスト諸氏には「期待していたほどエキサイティングではなかった」とあまり評判がよくなかった。というのもスピードスターの倍近いパワーを発揮しているのにトルキーで扱いやすいばかりか、シャシーも一切の破綻をみせずに安定しており、拍子抜けするほど乗りやすいからだ。

でも個人的にはこのカレラ2にこそ、あらゆる状況で速く、扱いやすく、乗りやすいクルマに仕立てるという、ポルシェの“強さ”の原点を見た気がした。

今回の試乗を通じて、どれがベストだったか? を答えるのは難しい。しかしひとつだけ言えるのは、ポルシェが356とともに過ごした15年間は、RRレイアウトのアンバランスさを克服すると共に、現代のポルシェに繋がる基礎を確立した大事な学習期であったということだ。

REPORT/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
PHOTO/Porsche AG

※GENROQ 2018年 9月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。