MC20はマセラティが作った「本気のスポーツカー」。その全容を渡辺慎太郎が解読:後編

Maserati MC20

マセラティ MC20

マセラティが投じる最新モデル「MC20」。モデナから世界へ放つ渾身のイタリアンスーパースポーツは、マセラティの新しい時代の幕開け役を担う重要なマイルストーンだ。自動車ジャーナリスト・渡辺慎太郎によるMC20の最新レポート、後編をお届けする。(前編/後編)

マセラティ MC20の工場イメージ

1基を3日かけて作るV6エンジン

“ネットゥーノ”と名付けられたV6ツインターボエンジンはまったく新しいユニットで、自社設計のみならず自社生産でもある。マセラティは1998年以降、フェラーリにエンジンの生産を委託してきたので、自社生産は22年ぶりの復活ということになる。

バンク角は90度で排気量は3.0リッター。ボア×ストロークは88mm×82mm、圧縮比は11:1、燃料供給は直噴とポートインジェクションの併用。部品点数は300以上でサイズは全幅1000mm、全高650mm、全長600mmで重量は220kg未満。最高出力は630ps/7500rpm、最大トルクは730Nm/3000-5500rpmを発生する。基本的にはハンドメイドで1基の組み立てに要する時間は約25時間、およそ3日だという。

マセラティ MC20のネットゥーノエンジンイメージ

プレチャンバー技術に挑んだネットゥーノ

注目すべき技術はプレチャンバーの採用だ。プレチャンバーとは簡単に言えば、点火プラグとシリンダーの間に小さな部屋を設け、この部屋に混合気を噴射して点火し、火炎をシリンダー内へ送り込むというもの。

通常はシリンダー内で点火プラグを用いて燃焼させるが、シリンダー内の1点で火花で燃焼して伝播させるよりも、火炎を噴射して燃焼させるほうがシリンダー内の隅々まで速くきれいに燃えて燃焼効率がアップするという仕組みである。なお、通常の点火プラグとの併用なのでいわゆるツインスパークとなるから、ネットゥーノには12個の点火プラグと6個のプレチャンバーが付属する。

燃料を効率的に燃焼できるため、パフォーマンスを大幅に向上させると同時に燃料消費量を低減できるというのが、プレチャンバーの最大の利点となる。部品点数が増え制御が難しくなるが、よくぞこの難問をクリアしたものである。自社開発/自社生産だからこそ実現できたのかもしれない。メーカー公表のパフォーマンスデータは0-100km/hが2.9秒以下、最高速は325km/h。なおトランスミッションは8速のDCTが組み合わされる。

マセラティ MC20のネットゥーノエンジンイメージ

至極真っ当なスポーツカーづくり

今年の春くらいに、「マセラティがミッドシップのスポーツカーを作っている」という噂を耳にした。こういう言い方はちょっと失礼かもしれないけれど、こんなに真面目なスポーツカーだとは思わなかった。ボディサイズはできるだけコンパクトに収め、タイヤはいたずらに大きくせず、スタイリングは機能性をかなり優先していて装飾や演出的な造形はほとんど見当たらない。インテリアも同様で、華やかさや豪華さよりも運転に集中できるコクピットの風情を重視している。

こんな格好でミッドシップなら、誰でもV8やV10が搭載されていると思うし、きっと搭載したかっただろうけれど、あえてV6を選んだ。そのV6はドライサンプにして重心を下げているし、車両重量も1.5トンを切って1470kgを達成している。つまり、MC20のパフォーマンスにはかなり期待が持てるのではないかと思った。

ダラーラの風洞実験室でのマセラティ MC20のテストイメージ

MC20がミッドシップを選んだ理由

一方で「V6」と聞いた時、こういうご時世なので当然のことながらモーターと組み合わせたマイルドハイブリッドだろうと想像したものの、まさかのコンバッションエンジン単独だった。

「ほんとに大丈夫?」と心配になったが、リトラクタブル・ハードトップを持つスパイダーと共にBEVバージョンが追加されるというアナウンスを聞いて安心した。開発初期の段階で、エンジン搭載位置についての議論もあったそうだが、最終的にミッドシップを選んだ理由がわかったような気がする。BEVもあるなら、ミッドシップのほうがコンバートが簡単だからだ。

マセラティ MC20の俯瞰目イメージ

もしエンジンをフロントに置くFRや4WDだったら、プロペラシャフトを無くしたりモーターとバッテリーを置く場所を確保したりと大改造になってしまう。ミッドシップなら、極端に言えばリヤのバルクヘッドから後ろをそっくりそのまま、エンジンからモーターとバッテリーに置き換えれば済む。

MC20は、やっぱりマセラティが本気に真面目に取り組んで作り上げたスポーツカーなのである。

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)

【SPECIFICATIONS】

マセラティ MC20

ボディサイズ:全長4669 全幅1965 全高1221mm

ホイールベース:2700mm

トレッド:前1681mm 後1649mm

車両重量:1500kg

エンジン:V型6気筒DOHCターボ

総排気量:3000cc

ボア×ストローク:88.0×82.0mm

圧縮比:11:1

最高出力:630ps/7500rpm

最大トルク:730Nm/3000-5500rpm

トランスミッション:8速DCT

サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン

駆動方式:RWD

ブレーキ:前ベンチレーテッド(6ピストン) 後ベンチレーテッド(4ピストン)

タイヤ:前245/35ZR20 後305/30ZR20