マクラーレン セナをエストリルサーキットで試す:詳細解説&インプレッション編 【Playback GENROQ 2018】

McLaren Senna

マクラーレン セナ

アイルトン・セナの名を冠する究極のマクラーレン

マクラーレンのラインナップで究極のモデルレンジを意味するアルティメットシリーズの最新作がセナである。最高出力800ps、最大トルク800Nmという数字も驚異的だが、エアロダイナミクス、シャシーなどに様々な技術を備え、金字塔となるだろう1台にポルトガル・エストリルで試乗した。前編はGENROQ副編集長の吉岡がセナの詳細解説とドライブインプレッションをレポートする。(前編/後編

マクラーレン セナの走行シーン

吉岡卓朗「セナの目標は、まず究極のサーキット志向モデルであるということ」

サーキット志向のスーパースポーツ「プロジェクト15」の噂は、実のところ昨年から聞いていた。老舗F1コンストラクターが2010年にふたたび造り始めたスーパースポーツカーは、その登場以来いずれもヒットを飛ばし、今や確固たる地位を築きつつある。そのマクラーレンが、ラインナップ中最高峰となるアルティメットシリーズの最新作として開発したクルマは「セナ」と命名された。

車名の由来となった故アイルトン・セナについて多くを語る必要はあるまい。1980年代から90年代にかけてマクラーレンからF1に参戦し、記録よりも記憶に残るレースでファンを釘付けにした伝説のドライバーある。特にセナが活躍した当時、マクラーレンがホンダエンジンを搭載していたこともあって、日本のF1ファンの多くは熱狂した。その伝説のドライバーの名を戴くマクラーレン・セナの目標は、まず究極のサーキット志向モデルであるということ。そして最速のドライバーズカーであること。軽量で一体感のあるロード・リーガルカーであること。そして、なにより伝説のドライバー、アイルトン・セナに敬意をもたらすクルマであるということだ。

車両価格は67万5000ポンド(約1億円)だが生産される500台は即完売したという。それでも開催されたメディア試乗会の場として用意されたのはポルトガル・エストリルサーキット。高速の割にコースサイドの壁が近い、いわゆる昔ながらのサーキットだ。この高いリスクをとったのは、車両の性能に対する自信の表れか、はたまた試乗者に対する挑戦か。そんなことを思いつつ、ピットレーンに並ぶ5台の試乗車に視線を送る。あらためて、その異形の姿は圧巻という他ない。長いフロントスプリッターや、巨大なリヤウイングはGT3マシンのようだ。前日の技術説明で聞いたアクティブエアロデバイスが装備された様は、まさに“マシン”という表現が相応しい。「フォーム・フォローズ・ファンクション」(形は機能に従う)というが、好みは分かれるところだ。ただし、機能の高さはハンパない。

マクラーレン セナの走行シーン

「部品点数の削減という根本から軽量化を見直せる英断が素晴らしい」

最高出力800ps、最大トルク800Nmを発生する4リッターV8ターボエンジンはミッドに搭載される。組み合わされるのは7速DCTで、モーターのないピュアな内燃機関車だ。恐ろしく軽いディヘドラルウイングドアを跳ね上げて、低くマウントされたフルバケットシートに腰を落とす。ステアリング周辺のレバー類こそ720Sと同一だが、センター部分はドライブセレクタスイッチ、パワートレインとハンドリングの調整ダイヤルとそれを有効にするためのアクティブボタン、ESCオフ、それに8インチ縦型モニターのみ。それ以外のエンジンスタート/ストップ、レースモードなどのスイッチ類、ドア開閉レバー、ウインドウスイッチに至るまでルーフに集約したのは運転に集中するためだ。

ドアの開閉機構を電気スイッチに変更することで操作感覚はそのままに約20%減量したという。ドア内側のダンパーはむき出しで、部品点数の削減という根本から軽量化を見直せる英断が素晴らしい。もちろん外板やウイングなどの空力付加物にもカーボンを多用し、車体そのものが恐ろしく軽量化されている。乾燥重量は1198kg。スーパーシリーズの720Sが1283kgであるのと比べて、どれほど軽量化に腐心したかおわかりいただけるだろう。

シート下のレバーを引いて前後位置を調整する。オプションの6点式シートベルトは「サーキット専用」と明記されるが、車両中央側のバックルが3点式と共用されており合理的だ。助手席には、お目付役としてドライビングコーチ、オリー・ミルロイ氏が座った。20代後半のイギリス人プロドライバーはアジアン・ル・マン参戦のため日本にも来日しており、昨年のFSWでは3位に入ったという。「準備OK?」と促され、ピットロードを走りだす。エンジンは低回転域はマクラーレンらしくボーボー不機嫌そうな音を立てていたが、徐々にペースを上げていき8000rpmまで回していくと、その過程で音色が揃い、レーシングカーを走らせるかの高揚感が出てきた。さあ、ウォームアップを終えてアタックラップだ。

マクラーレン セナのステアリングホイール

「この高い精度を300km/hまですべてのレンジで実現可能なことは脅威的だ」

油圧で4輪を制御するサスペンションシステムは、マクラーレンライドとも言える独特の乗り味を実現している。レースアクティブ・シャシー・コントロールII(RCCII)はP1で初採用されたRCCを進化させたものだが、空力と連動して、タイヤ接地圧も制御するプロアクティブ・シャシー・コントロールⅡ(PCCⅡ)を組み合わせることでさらなる高みに到達した。走行状況に応じて地上高と油圧ダンパーの硬さを微調整し、マクラーレンライドを一段格上げした。

事前の技術説明で720Sとセナは、エストリルのラップタイムで6秒違うと聞いていた。実はセナ試乗の直前、コース習熟のために720Sで試走し、さすがスーパーシリーズとあらためて感心したがそれよりも6秒も速いというのだ。たしかに旋回速度も立ち上がり加速も別次元で、あれほど素晴らしいと思えた720Sのダイナミクスが、ロードカー寄りの性能に感じるほどだ。特に5速200km/h超で入る5コーナーは操舵し始めの反応から、720Sでは確実にアクセルを戻していくしかなかったが、セナならほぼ全開でいけた。恐怖から右足の親指だけはどうしても戻ろうとするのが・・・。ここはプロの運転で720Sと比べて10km/h以上も速いという。

最終コーナーを立ち上がると約1kmの直線だ。エンジンはソフトウェア変更だけでなく、軽量カムシャフトやピストンなどが採用され800psを実現している。なにしろ0-100km/h加速が2.8秒である。右手でパドルを引いてシフトアップしていくと、イグニッションカット・テクノロジーの効果もあって、まさに瞬間的な変速で加速が途切れることはない。しかし乾燥重量1.2t、800psならこの感覚は多少想像がつく。驚くべきは60km/h程度の低速域でもスピードコントロールが容易なことだ。試乗を終えた後の併走撮影中の低回転域でも1km/h単位で調整可能だった。この高い精度を300km/hまですべてのレンジで実現可能なことは脅威的だ。

マクラーレン セナの走行シーン

「高速コーナーでの安定感は桁違い。この高性能が300km/hまで続く驚異」

1kmの直線の後に控えるのはタイトな1コーナー。まだ様子見だったとは言え、720Sでは220m手前で踏んでいたブレーキがセナでは190mまでつめられた。300km/h近い速度で硬いタッチのブレーキペダルを蹴飛ばしても、乱れることなく減速していく。超高速からのブレーキでこれほど修正舵が必要ないクルマは初めてだ。ブレーキペダルの重さはいつものマクラーレンで、踏力はそれなりに求められるがペダルの剛性感もあって、まさに安心感の塊である。

6周の後、ピットイン。タイヤ温度は、いつの間にか90度に達していた。この日はポルトガルらしい青空が広がっており、気温は36度以上。それでも数周はエアコンオンで走れたのだからセナの頑強さには舌を巻く。なお装着タイヤはセナ専用のピレリ・トロフェオR。公道でも使用可能なサーキット向けタイヤだが、雨でもセナを堪能したい向きには、ウェットにも対応するPゼロを選択することをオススメする。

もう10年ほど前になるがスーパーGTの500クラスに参戦していたNSXが退役する際にメディア向け試乗会が開催され、ほんの少し、冬のツインリンクもてぎで試乗できたことを思い出した。あの時感動したのは、200km/h以上でも精密機械のような精度で走ったこと。セナはこのイメージに近い。セナの品質は完全にレーシングカーだ。いや現代のレーシングカーは、出力もディメンションも様々なレギュレーションに縛られているのに、このセナはなんの規制もない自由な発想の元に生まれたクルマだ。マクラーレンは何よりパイオニアであり続けたいのだ。その車名からすぐさま連想できるようなピュアな性能はアイルトン・セナと同様、伝説となるだろう。

後編に続く)

REPORT/吉岡卓朗(Takuro YOSHIOKA)
PHOTO/McLaren Automotive

【SPECIFICATIONS】

マクラーレン セナ

ボディサイズ:全長4744 全幅1958 全高1229mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1198kg(Dry)
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3994cc
最高出力:597kW(800ps)/7250rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/5500-6700rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前245/35R19(8J) 後315/30R20(10J)
最高速度:340km/h
0-100km/h加速:2.7秒
車両本体価格:67万5000ポンド