ブガッティ シロンを徹底解剖。最高速度420km/hの秘密を暴く 【Playback GENROQ 2016】

Bugatti Chiron Tech & Design Workshop

ブガッティ シロン テック&デザイン ワークショップ

 

 

究極が生まれた地で大谷達也がシロンを紐解く。

シロンが開く現代ブガッティ伝説の第2幕。単なるヴェイロンの焼き直しではない──。
はたしてシロンはどのような進化を遂げたのか? あるいは別物か? そのすべてを白日の下にさらす。

ブガッティ シロンのフロントスタイル

「最高速での燃料消費は880リットル/h。100リットルを7分弱で使い切る」

むき出しのままディスプレイされたW16クワッドターボ・エンジンを目の当たりにして、まずはそのケタ違いの存在感に圧倒された。それは、最近のコンパクトな自動車用パワープラントとは別次元の、航空機や船舶に用いられるエンジンを連想させる威圧感と質量感を放っていたのだ。そして高さ1mほど、ギヤボックスを含めた長さは2mほどもあろうかと思われるこのパワーの源を目の前にして、ようやく排気量8.0リッター、16気筒、最高出力1500psという圧倒的なスペックが私のなかで咀嚼できたように思う。

「アルミ製エンジンは重量436kg。最高出力時には1時間あたり880リットルのガソリンを消費します。その際、冷却水が循環するスピードは毎分800リットル、エンジンオイルは毎分120リットルとなります」

パワートレインの説明員はそう語る。ちなみに燃料タンクの容量は100リットルなので、最高出力時には7分弱ですべてのガソリンを使い切ってしまう計算だ。まあ、どうでもいい情報といえばそれまでだが、そういった数字を知れば知るほど、1500ps、1600Nmのパフォーマンスがどれくらいとてつもないものかがわかってくる。

ブガッティ シロンのエンジン

「従来の形式を改め、8気筒でふたつのターボを駆動」

ニューモデル“シロン”に搭載されるこのエンジンはW16、排気量8.0リッターというスペックのほか、ボア×ストロークやボア・ピッチなども前作ヴェイロンのものを引き継いでいるが、ブロックなどはすべて新設計とされた。特徴的なのはその過給システムで、クワッドターボという構成はヴェイロンと同じながら、4気筒ごとにひとつのターボチャージャーを割り振っていた従来の形式を改め、8気筒でふたつのターボを駆動する。

そのうえで、3800rpmまでは排気経路の一部を閉じることで各バンクひとつずつのターボを作動させ、それを超えると合計4つのターボが過給を始めて最大1.85barのブーストを生み出す。これにより低負荷時のターボラグを大幅に軽減してドライバビリティを改善するとともに、2000rpmから6000rpmまで1600Nmの最大トルクを発揮することが可能になった。なお、ターボチャージャーのサイズは4基とも同じで、ヴェイロンより69%大型化されたという。

同じくヴェイロンから引き継いだ7速DCTはパワーアップに応じてクラッチ、シフトフォーク、シンクロナイザーなどを強化、潤滑系にも改良の手が加えられた。重量は120kg。なお、ギヤボックスを生産するのはイギリスのリカルドだ。

ブガッティ シロンのスケッチ

「相反する要求を両立するアクティブ・エアロダイナミクスを採用」

420km/hでスピードリミッターが作動するシロンにとってエアロダイナミクスが重要であることはいうまでもない。ただし、最大で1.5Gの横Gを生み出すには強大なダウンフォースが必要となる一方で、400km/hオーバーの速度域ではドラッグを極力抑えることが不可欠。この相反する要求を両立させるため、シロンではアクティブ・エアロダイナミクスが採用された。

これは高さと迎角が変化するリヤウイングと、前輪の直前に装備されて角度のみ調整可能なフラップで構成されるもので、両者は4種類が用意されたドライビングモードに連動して設定が変わる。ちなみにCd値はトップスピードモードの0.35が最小で、最大はハンドリングモードの0.4。ただし、高速時からの急減速時にはエアブレーキが作動してCd値0.59の空気抵抗を生み出すと同時に巨大なダウンフォースにより車体の安定性を確保する。また、アクティブ・エアロダイナミクスは前後のサスペンションに取り付けられた車高調整装置とも連動し、ピッチング方向の姿勢を変化させることで空力効率の最適化を図っている。

ブガッティ シロンの足まわり

「ブレーキの冷却性能はヴェイロンよりも50%向上している」

サスペンションは前後ともダブルウイッシュボーン式で、スプリングは意外にも金属製。これに前述した油圧式車高調整装置が組み合わされる。ZF製のダンパーは無段階で減衰力を調整可能。アルミ製の単筒式アダプティブ・ダンパーを採用したスーパースポーツカーはシロンが史上初だとブガッティは主張する。

カーボンセラミック・ブレーキはAPレーシング製で、F1で得られたノウハウが活用されている模様。ブレーキ冷却も念入りに設計されており、ヘッドライト周辺の3ヵ所から冷却用の空気を採り入れるほか、ガイドレインと呼ばれる整流装置をホイールの内側に取り付けて効率的に熱気を排出するなどした結果、冷却性能はヴェイロンよりも50%向上している。

ブガッティ シロンのモノコック

「ル・マン24時間を戦うLMP1マシン並みのシャシー剛性」

ダラーラと共同開発したカーボンモノコックはイタリアのカマティーニ製。フロア部分はレーシングカーさながらにアルミハニカムをサンドイッチして高剛性化と軽量化を両立させているが、興味深いのはボディのアウターパネルも特殊な発泡剤を挟み込むことで軽量化に努めた点にある。もうひとつ、ヴェイロンと決定的に異なるのがリヤのサブフレームがアルミ製からカーボンコンポジット製に改められたこと。これで8kgの軽量化を達成した。ちなみに捩り剛性は5万Nm/度、前後アクスルに負荷をかけた場合の変位量は1トンあたり0.25mmで、これはル・マン24時間を戦うLMP1マシン並みのシャシー剛性だという。

では、ヴェイロン16・4スーパースポーツが保持している量産車の最高速度記録、431.072km/hをシロンは上回ることができるだろうか? エンジンが1200psから1500psにパワーアップし、エアロダイナミクスも大幅に進化したのだから記録更新は間違いないはずだ。

一方で、ワークショップの参加者の中には「装備を簡素化したサーキット専用仕様を造れば、さらなる速度記録が期待できるのではないか?」と質問する人もいたが、それは的外れというものだ。ブガッティはロードカーの常識を越えたパフォーマンスを、最上級の快適性、目を見張るほどラグジュアリーな世界とともに実現したところに価値があるのであって、性能だけをがむしゃらに追い求めるようなブランドではない。戦前のグランプリカーがエレガントとさえいえる機能美を備え、豪華極まりないロードカーがグランプリカー並みのパフォーマンスを備えていたのと同じように、ラグジュアリーと高性能を高い次元で両立してこそ、ブガッティの名を語る資格があるのだ。その意味でシロンは、ブガッティの遺伝子を受け継いだ正統な後継モデルといえるだろう。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/BUGATTI AUTOMOBILES S.A.S.

※GENROQ 2016年 9月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。