スーパーGTならではタイヤも含めた戦略がキモ。ニスモが苦闘の2戦で見つけた新車の『ブレイクスルー』

 第3戦鈴鹿、土曜の公式練習。走り始めから確実な手応えを持って逆バンクに飛び込んできたロニー・クインタレッリのドライビングに応え、23号車MOTUL AUTECH GT-Rはレスポンス良く向きを変えていく。

「これは速そうだ……」。そんな予感は土曜午後、日曜決勝まで持続され、松田次生/クインタレッリ組は予選フロントロウから3度もセーフティカーの出動する複雑な決勝にも動じず、完璧な今季初優勝を飾った。

 今季からGT500クラスが採用するClass1+α規定では、床下での空力自由開発領域が消滅。またサスペンションを構成するアーム類やプッシュロッド、ロッカーアーム、そしてアンチロールバーやアップライトに至るまで、全車が同一形状の共通品を使用する。

 これによりジオメトリーの自由度は大きく削減され、インボード側取り付け点でのアンチダイブ系の調整が可能な程度だ。ということは、この23号車の大幅な飛躍には、規定の勘どころを理解する『ブレイクスルー』があったと見るのが妥当だろう。23号車を担当する中島健チーフエンジニアは、その内実を次のように明かしてくれた。

「当然、みんな勝つつもりで来るけど、本当にこんなに何もかもがハマって良いレースができるとは、正直思っていなかった。開幕から第2戦で(セットアップの方向性を)結構変えて、変えたことで『これ良いな』『これダメだな』が見つかった。ここは鈴鹿なのでS字だったり130Rだったりに向けて良い部分を残しつつ、ハイスピードのところ、切り返しのところを良く出来るモノを仕込んでいこうと」

 そのため、この週末は走り出しからほとんどセット変更を経ておらず、中島エンジニアとしても「多分……自分史上初ぐらい、セットアップをいじってないです」と言うほど、何も調整することなく予選に挑んだという。

「持ち込みを一生懸命考えた甲斐があったな、って。つまりは僕のおかげってことで(笑)。富士ではセクター3を改善するには、ボトムスピードを稼いでストレートでなんとか頑張りたいとなる。でもそうすると、ハイスピードのAコーナーや100Rのバランスとは相反する。なのでこの高荷重サーキットの鈴鹿に向けては良いところを伸ばしたイメージ。案外、富士のデータは鈴鹿に転用が効きました」

 セオリーで考えれば、ハイスピードでのロール剛性を保ってステアリング操作に対する反応を得ながら、なるべく車高変動を抑えて空力側で旋回速度を助ける方向、となるだろうか。

「これが今季の規則のキモだと思うんですが、周囲のみなさんも『メカニカルバランス重視』みたいに言われてるじゃないですか。ちょっと個人的には『そこにこだわり過ぎてたな』って。去年のDTMとの交流戦ですごく苦しんで『もうとにかくメカニカル重視』みたいなことに頭がすり替わり過ぎてた。『いやちょっと待て、俺たちが使ってるタイヤはミシュランだぞ』と。タイヤにもっと合わせてクルマの素性をさらによく見直さないとな、って」

 コースサイドの観察中も、全メーカーがフロントエンジン(FR)となり共通のフロアや空力、そしてサスペンションを使用するだけに、速いマシンの挙動が似通ってきているような印象も受けた。

「結局タイヤをどう活かすか。DTM交流戦のクルマも、あのワンメイクの硬いタイヤをどう発熱させようってところから来てるセットアップ。多分、現状のGT500ではブリヂストンさんもダンロップさんも、みんな(サイドウォールの)タテバネや剛性はいろいろ違うと思うので、そこにビシッと合わせると、結果クルマのトータルの動きが一緒になる。クルマの持ってるパフォーマンスを活かすためにはロールし過ぎてもピッチし過ぎてもダメだけど、そこはタイヤ込みの動きが重要。そこが今回は上手く合わせ込めたのかな」

 例年なら3月の開幕戦岡山を迎えるまでに合同テストでデータを集め、季節が進むのに合わせてタイヤ開発や車体との相関、マッチングも得られたところだが、今季はパンデミックの影響を受け絶対的なテスト数が不足するうえに、真夏の開幕、そして短い間隔のレースウイークでその”スイートスポット”を探り当てなくてはならない。

「我々はタイヤもマルチメイク戦略ですので、その部分はわずかにディスアドバンテージな方向。キチッとデータを採って、マクロに見て統計的な見地から細部に到達するのは、たぶんライバルの方が早いでしょう。そこに対して我々は経験を活かしていかに近づけるか」(ニッサン松村基宏総監督)

 誰にとっても難しい条件の2020年シーズン。『Class1+α規定最適解』を探る旅は、ラウンドを経るごとにどんどん深みを増していきそうだ。