酔狂極まる!? マセラティ グランスポーツとレクサス RC Fが全日本ラリー選手権に参戦 !【レースレポート】

全日本ラリー選手権「NISSIN ラリー丹後2020」に異色のエントリー

北は北海道から南は九州までを舞台に開催されている全日本ラリー選手権。参戦しているのはほとんどが日本車。そんなガチの競技に1968年製アルファロメオ 1750GTVで参戦していた桝井和寛選手。オープンクラスとはいえ、周りは現役最新の国産競技車両だらけ。

そんな中にあってひときわ異彩を放っていたのが桝井選手のアルファだった。ラリーの本場ヨーロッパではヒストリックラリーカーを本気で走らせるラリーが多数開催されていて、FIAのシリーズ戦も開催されているほどだ。現代の技術で製作されたヒストリックラリーカーは、その現役当時よりも安全で、そして何よりめちゃくちゃ速いのだ。

NISSIN ラリー丹後2020ラリーレポート、マセラティ グランスポーツのピットシーン

フロントタイヤをリフトさせながらコーナーを立ち上がる桝井選手のアルファロメオを初めて見た時、ようやく日本でもヒストリックラリーカーを本気で走らせる人が現れた! と妙に感動したのだった。そんな桝井選手が先日開催された全日本ラリー第5戦・ラリー丹後にマセラティ グランスポーツでエントリー。

エントリーリストを見た時、頭の中を「?」マークがグルグルとまわりだし、まずは世界中の戦歴からマセラティを探してみた。すると、2011年にイタリアで開催されたラリーにビトゥルボが0カーとして走っているのが確認できたのみ。グランスポーツが日本のラリーでどんな走りを見せるのかが気になり、久々に全日本ラリーの取材へと出かけることにした。

NISSIN ラリー丹後2020ラリーレポート、マセラティ グランスポーツの走行シーン

「グランスポーツを選んだのは、ラリーに快適さを追求した結果」

派手な競技車両の中にあって、一見地味なグランスポーツ。もちろんレギュレーションに合致するようにロールケージなどの安全装備は備えているけれどステアリングは純正のまま。そして当然だけどトランスミッションはATのままだ。一抹の不安が筆者の頭を巡る中、まずはこのクルマを選んだ理由を尋ねてみた。

桝井選手の答えは単純明快。「パワステとエアコン付きだったから」。折しも梅雨明け直後の丹後半島は猛烈な暑さに見舞われていた。競技車両であってもエアコンは必需品と言えなくもない。

NISSIN ラリー丹後2020ラリーレポート、マセラティ グランスポーツのシート

事実、全日本ラリーに参戦する車両の中でも、クラスによってはエアコンを残したままの車両も多い。取り外すと最低重量を下回ってしまうと言う理由もあるけれど、日本の夏は今や東南アジアよりも暑いのでエアコンはあった方がいいに決まっている。

ポルシェを買いに行ったつもりがなぜか買ってしまったグランスポーツは、元々は奥様用のクルマだったとか。快適かつ優雅な佇まいのグランスポーツがラリー車に生まれ変わった姿に奥様がどんな反応をしたかに興味はあったのだけど、なんとなく答えが予想でき、そこは触れずにおいた。

NISSIN ラリー丹後2020ラリーレポート、レクサス RC Fの走行シーン

「世界で唯一のレクサスのラリーカー」

一方、JN-2クラスに参戦しているレクサス RC F。ドライバーの石井宏尚選手はトヨタの社員。コドライバーの寺田昌弘選手はパリダカにドライバーとして参戦していた経歴の持ち主だ。この異色のコンビが選んだのがRC F。5.0リッターV8のパワーは魅力だけど狭い林道が主なステージとなるラリーで積極的に選ぼうとは思わない車種だ。

ところが、この巨体を補って余りあるパワーが武器となり、ステージによっては格上クラスのスバル WRX STIをも上回るタイムを記録するほど。もちろん、狭くてタイトコーナーが続くステージでは不利になるわけだが・・・。

NISSIN ラリー丹後2020ラリーレポート、レクサス RC Fのインテリア

JN-2クラスには他にトヨタ ヴィッツGRMN、GT86 CS-R3(市販車の86じゃなくFIA R3仕様!)、シトロエン DS3 R3T、シビック タイプRユーロと強敵揃い。特にR3仕様の2台はラリーに参戦するためにメーカーが製作した本気も本気の世界基準のラリー車だ。

この中にあってRC Fはロールケージやシートなどの安全装備の他は車高調とLSD、ブレーキパッドを交換した程度で、エアコンは残されているし、なんとマークレビンソンのオーディオもそのままだ。こんなに優雅で快適なラリー車があったのだろうかと思ってしまうほど。

NISSIN ラリー丹後2020ラリーレポート、レクサス RC Fの表彰シーン

「レクサス RC Fでのラリー参戦に可能性を見出した」

ラリーに向いている車種=ラリーで勝てる車種なんてそう多くはない。なので、参戦車種はどうしても偏りがちだ。そこにあえてレクサスで参戦し続けることは端から見ればただの酔狂と思えるかもしれないが、ドライバーの石井選手はそうは考えていない。

今までにない車種、それもRC Fで参戦することで今までラリーを知らなかった層にも興味を持ってもらえるから、というもっともらしい理由だけではなく、RC Fに可能性を見出したことが一番の理由。勝てる理由があるから選んだのだ。ハッチバックがほとんどのラリー車の中にあって、クーペ、それもかなり大柄なRC Fの存在感は圧倒的だ。V8サウンドも相まってサービスパークやリエゾンでの注目度も高い。

NISSIN ラリー丹後2020ラリーレポート、マセラティ グランスポーツとレクサス RC Fのツーショット

「ジェントルマンドライバーの選択肢」

今回取材した2台のV8マシンは選手権クラスとオープンクラスという違いもあり、それぞれラリーに対するスタンスは異なるものの「好きなクルマで走りたい」という欲求を実現した点は同じ。世界に目を向けてみると、FIA R-GTクラスにアストンマーティン V8ヴァンテージのラリー車も存在するのだ。

ともすれば珍車扱いされかねないけれど、RC Fがラリー丹後でクラス2位、しかも1位のシビックとわずか1.1秒差だったことを考えると「勝てる可能性を見出したから」という石井選手の選択が決して酔狂ではなかったことを証明している。

そして、周囲の不安をよそにほぼノートラブルで完走を果たしたグランスポーツだって、SSアタック中にエアコンすら使えるのだから、ジェントルマンドライバーには最適な選択だったと言える。ちなみに「いろいろ試した結果、ATモードで走るのが一番速かった」という桝井選手の言葉を付け加えておきたい。

PHOTO&REPORT/山本圭吾(Keigo YAMAMOTO)