ヤマハ、転ばないバイクの開発へ。3輪スクーター『トリシティ300』に搭載されるLMWテクノロジーとは?

 ヤマハ発動機は8月24日、Leaning Multi Wheel(LMW)の説明と、『TRICITY300 ABS(トリシティ300 ABS)』の発表会をオンラインで開催した。オンライン発表会では、ヤマハ発動機 執行役員 MC事業本部長 木下拓也氏とSV開発部LMW設計グループ 浅野大輔氏が登壇し新型LMWトリシティ300について説明を行った。

 はじめに木下氏がLeaning Multi Wheel(LMW)について説明した。LMWはモーターサイクルのように車輪および車体全体が傾斜して旋回する3輪以上の乗り物に搭載されるヤマハ独自の技術であり、トランスフォーミングモビリティを具現化した技術のひとつだという。

ヤマハ発動機 執行役員 MC事業本部長 木下拓也氏
ヤマハ発動機 執行役員 MC事業本部長 木下拓也氏

 1970年代にはLMWのべースが存在しており、様々な施策を行いながらLMWの研究を進めてきたという。そして、世界の街角でたくさんの人に愛されるシティコミューターの新しいスタンダードになるように2014年に第一弾として『トリシティ125』が世界市場に投入。それに続いて2017年には『トリシティ155』、2018年には大型スポーツ『NIKEN』が発表された。

ヤマハMW-ビジョン(正面)
ヤマハMW-ビジョン(正面)

 また、ヤマハは2030年に向けた長期ビジョンの『ART for Human Possibilities』のなかで、重要な軸のひとつにモビリティの変革(Transforming Mobility)を掲げている。ヤマハは昨年の東京モーターショーにMWビジョンを出展したが、新形態の小型車両をはじめとして既存の枠にとらわれることなく、モビリティを変革させていくことで、さまざまな社会課題の解決に取り組んでいきたいと考えている。

ART for Human Possibilities
ART for Human Possibilities
モビリティの変革(Transforming Mobility)
モビリティの変革(Transforming Mobility)

 モビリティの変革を実現していくために新たな技術の獲得に注力しているヤマハは、知能化と高度なバランス制御を実装した、自らセンシングして起き上がり不倒状態を保つことができるプロトタイプのモトロイドを開発。さらにサーキットを高速で自立走行する人型ロボットのモトボットは、車両に手を加えることなく自動運転を可能にした。

 停車しても倒れることがなく走行中もライダーを支援して転倒を回避する2輪車をより安心快適な乗り物として変革させていくために様々な研究を重ねて制御技術を進化させたという。そして開発されたフロント2輪はどちらかがグリップしていれば安定して走行できるため、前輪スリップによる転倒リスクを軽減できること。フロント2輪による高いグリップ力でより強いブレーキングが可能なこと。衝撃吸収性が高く、段差乗り越え時にふらつきにくいなどの特徴がある。

Leaning Multi Wheel(LMW)
Leaning Multi Wheel(LMW)

 そんなLMWテクノロジーは『めざせ、ころばないバイク』を究極のゴールとして設定したヤマハ。バイクは傾けることで操る楽しさを得るものなので、転ばないバイクの実現は容易ではないわけだが、“ころばないバイク”に近づけるためには刻々と変化する走行環境やライダーのスキルを技術がどこまでアシストできるかということを実現しなければならないという。

■LMWテクノロジーとスタンディングアシストを搭載したトリシティ300

 LMWテクノロジーの説明後にはLMWシリーズ第4弾となる『トリシティ300』が発表された。トリシティ300は郊外からの通勤において賢い選択となることを目指したミドルクラスのLMWコミューターとしてつくられた。

ヤマハ発動機 SV開発部LMW設計グループ 浅野大輔氏
ヤマハ発動機 SV開発部LMW設計グループ 浅野大輔氏

 現在、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により社会や人々が新しい生活様式にシフトしていくなかで、2輪コミューターの機動性、手軽さ、経済性などが見直されている。ヤマハは“密”を避けて公共交通機関による通勤と通学の代替手段として、トリシティ300は確かな性能と機能で応えしていけるモデルだと確信しているという。

ヤマハ トリシティ300
ヤマハ トリシティ300

 メインターゲットは40代から50代で、郊外の自宅から都市部のオフィスまでクルマに変わる賢い移動を求める方などを想定。4輪の経験しかない方でも2輪車を操る楽しさを体感することができ、日本ではトリシティ125、トリシティ155ユーザーのステップアップを見込んでいるという。

 そんなトリシティ300はツーリングにも使用できるモデルであり、交通の流れに乗って高速に駆け抜ける幹線道路や、低速での安定感が求められる市街地や路地まで刻々と変わる道路環境にも対応。それぞれのシーンで高い価値を示す性能と機能を搭載しているようで、その機能のひとつにヤマハの市販モデルとしては初採用となるスタンディングアシストが搭載されている。

ヤマハ トリシティ300のスタンディングアシスト
ヤマハ トリシティ300のスタンディングアシスト

 スタンディングアシストは、完全に自立させる機能ではないが自立をサポートすることができる。一定の条件を満たした状態のライダーがスイッチ操作を行うことで、車両を軽く支えるだけで停車が可能となる。また、アクセルを開けるとスタンディングアシストは自動解除されるため、再発進もスムーズに行うことができる。

ヤマハ トリシティ300
ヤマハ トリシティ300

 車体が傾く機構のみをロックして、サスペンション伸縮機能は維持しているため、信号待ちなどの停車時だけでなく押し歩き時の段差の乗り越え、狭い場所での切り返しなどの車体バランスをとりづらいシーンでの使いやすさも高められている。

 トリシティ300には上述のLMWテクノロジーの搭載はもちろん、NIKENで実績のあるLMWアッカーマン・ジオメトリーが専用設計されて採用された。操舵軸とリーン軸をセットするヤマハ独自の設計となり、自然なハンドリングや快適で質感のある乗り心地に大きく貢献する。

ヤマハ トリシティ300のLMWアッカーマン・ジオメトリー
ヤマハ トリシティ300のLMWアッカーマン・ジオメトリー

 LMWアッカーマン・ジオメトリーは旋回時にリーンしている状況でもフロント2輪が向く方向をコントロールできるようにするため、内外輪差のうまれるフロント2輪が常に旋回方向を向く設計を成立。それにより同心円を描くなめらかな旋回が可能となり、快適な乗り心地を実現した。

ヤマハ トリシティ300はNIKENの技術を搭載しトリシティ125/155から進化した
ヤマハ トリシティ300はNIKENの技術を搭載しトリシティ125/155から進化した

 これらの技術が搭載されたトリシティ300は、NIKENで熟成された技術を応用することでトリシティシリーズの上位機種にふさわしい進化を遂げたということだ。2020年9月30日に発売が開始されるトリシティ300の国内モデルの販売計画台数は年間400台、メーカー希望小売価格は95万7000円(税込)となっている。