伝説の異端児・フェラーリ 288GTOが生まれた本当の理由とは?【Playback GENROQ 2019】

Ferrari 288GTO

フェラーリ 288GTO

時代が生んだ異端児

1984年に登場した288GTOは、そもそもレーシングシーンへ投入するためのホモロゲーション用モデルだったと言われる。結局レースへの参戦は果たせなかったが現在へと続くV8スペチアーレの礎となったのは、間違いなくこのクルマである。スーパースポーツに造詣が深いモータージャーナリストの山崎元裕氏が、異端の出自をもちながらその後のフェラーリの方向性に大きく影響した288GTOを、日本のストリートで改めて検証する。

フェラーリ 288GTOのフロントスタイル

「複雑な社内事情から生まれたとしても歴史に残る1台」

1984年のジュネーブ・ショー。そのフェラーリ・ブースには、当時の308シリーズのシルエットを継承した、しかしながら実際にはさらに戦闘的な、そして力強さに満ち溢れたフォルムを持つ一台のニューモデルが出品されていた。この時フェラーリからメディアに配布されたリリースによれば、それは「GTOと呼ばれる、グループB車両である」と説明されていたが、それが企画されて実際に完成するまでのプロセスには、さまざまな紆余曲折があったことはあまり知られていない。

なぜならフェラーリがこのタイミングでグループB車両をデビューさせたとしても、すでにそれによって戦うべき世界選手権は事実上存在しなかったからだ。その唯一の場ともいえたWRC(世界ラリー選手権)の上位はAWDモデルによって独占される状況であったし、スポーツカー選手権は新たにグループCで争われることが決定していた。なぜこのタイミングでフェラーリはグループB車両をデビューさせたのか。後に288GTOと呼ばれることになるニューモデルのデビューに立ち会って、そのような疑問を抱いた者は、けして少なくはなかったはずである。

フェラーリ 288GTOのインテリア

「グループBをビジネスのツールとして使って生まれた」

それから長い時間を経て、その疑問を解いてくれたのは、288GTOの開発プロジェクトにおいてチーフ・エンジニアの役を担った、二コラ・マテラッツィ氏本人だった。それはこの288GTO、そしてそれをベースとしたエクスペリメンタル・モデル(実験車)たる288GTOエボルツィオーネを経て、F40へと至る一連のプロセスを取材していた時、まさにその原点たる288GTOに関するインタビューを行うチャンスを得た時のことだった。

氏はきわめてシンプルに、そして明確に答えてくれたのだ。288GTOは最初からグループB本来の目的などを意識して開発したモデルではなかった。それはフェラーリとしてはおそらく初めて、セールス&マーケティングの観点から企画、そして製作されたモデルであったのだという。つまりフェラーリはグループBをビジネスのツールとして使ったのだ。

フェラーリ 288GTOのメーター

「フェラーリのファンからは究極のコレクターズ・アイテムのひとつにあげられる」

しかしながらそのような社内的な事情があったにせよ、実際にレオナルド・フィオラバンティをチーフ・スタイリストとしていたピニンファリーナと、フェラーリという黄金のコラボレーションによって誕生した288GTOは、現在でもフェラーリのファンからは究極のコレクターズ・アイテムのひとつにあげられるほどに魅力的なモデルに仕上がった。

前でも触れているように、そのボディデザインには308シリーズのシルエットが受け継がれたほか、1960年代にスポーツカーレースで数多くの勝利を収めた250GTOのフロントフェンダーにあった3本のスリットが、リヤフェンダーへと移動して採用されており、これもまたフェラーリのヒストリーを熟知する者には大きな共感を生み出した。

一方でインテリアはいかにもピュアスポーツのコクピットらしく、機能性のみを追求したかのような、シンプルかつスパルタンなデザイン。ちなみに288GTOは、フェラーリに残る記録によればグループBの最低生産台数たる200台を大幅に超え、トータルで272台が販売されたが、最初にプロトタイプとして製作された一台のみがイエローであったほかは、すべてがフェラーリ・レッドでデリバリーされている。

フェラーリ 288GTOのエンジン

「歴代フェラーリの中でも、特別なオーラを発するモデル」

メカニズム面で、288GTOが最も大きな特徴としていたのはエンジン、そしてその搭載方法だった。308シリーズが自然吸気の3.0リッター V型8気筒を横置きミッドシップしていたのに対して、288GTOは2.85リッターのV型8気筒ツインターボ。これは当時のグループB車両におけるターボ係数、1.4を乗じると4.0リッター以下の排気量となることから設定されたものだった。注目の最高出力は400ps。これに5速MTを組み合わせ、当然ながら後輪を駆動する。

シャシーは、当時のフェラーリにとってはスタンダードともいえた鋼管スペースフレームで、サスペンションは前後ともダブルウイッシュボーン。ホイールベースは308シリーズのそれと比較すると110mmほど長い設定となる。さらに興味深いのは、ストレスのかからないボディパーツなどにカーボンケブラーなどの軽量素材が使用されていることで、これは後の288GTOエボルツィオーネ、そしてF40にもさらに積極的に受け継がれるテクニックだ。

デビューから30年以上もの時を経て改めて見る288GTOは、やはり歴代フェラーリの中でも、特別なオーラを発するモデルだった。そのいかにも戦闘的なスタイルは現代のフェラーリをも大きく超える魅力を感じさせるものであるし、またV型8気筒ツインターボエンジンのスパルタンさは、あるいは後のF40にも迫り、また超えるものとも思える。

フェラーリ 288GTOの走行シーン

「まさにフェラーリの歴史に残る、最高傑作のひとつだ」

かつてこの288GTOをサーキットドライブした時に感じたのは、やはり後のF40と比較すると、あらゆる部分で未完成さが目立つ、それゆえの危うさが身に染みたものだったが、もはやフェラーリでいうところの、新車の生産から20年以上を経たクラシケ(クラシック)となった288GTOで、現代のフェラーリのような走りを望む者などはいないし、288GTOが演出する世界は、これからも変わることはないだろう。

フェラーリは2010年、この288GTOに続くGTOとして599GTOを誕生させるが、エンスージアストからの注目度は288GTOの方が高いように思える。(もちろん250GTOはさらに別格だが)それはまさにフェラーリの歴史に残る、最高傑作のひとつだ。

REPORT/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)
PHOTO/平野 陽(Akio HIRANO)

【SPECIFICATIONS】

フェラーリ 288GTO

ボディサイズ:全長4290 全幅1910 全高1120mm
ホイールベース:2450mm
乾燥重量:1160kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:2855cc
最高出力:294kW(400ps)/7000rpm
最大トルク:496Nm(50.6kgm)/3800rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前225/50R16 後255/50R16

※GENROQ 2019年 8月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。