ストリートでこそ輝くオープンモデル「マクラーレン600LTスパイダー」の刺激的なサウンドとは?【Playback GENROQ 2019】

McLaren 600LT Spider

マクラーレン600LTスパイダー

オープンスタイルが放つサウンドの刺激

現代に蘇ったLT(ロングテール)の称号を持つ600LTのスパイダーが日本に上陸した。スイッチひとつで開閉するカーボン製のルーフを備えながら、その速さとボディ剛性には一切の妥協はない。スポーツシリーズの頂点が手に入れた爽快な音と光を、モータージャーナリストの吉田拓生氏がレポートする。

マクラーレン600LTスパイダーの走行シーン

「屋根が開くからと言ってどんなメリットがあるのか、見当もつかなかった」

ごろドライブしたマクラーレン600LTクーペはマクラーレンの中では親しみやすいスポーツシリーズの最高峰であり、個人的にはベスト・マクラーレンとして記憶されている。

今回は“ロングテール・マクラーレン”のオープン版に試乗できるのだけれど、完全無欠ともいうべき600LTクーペを味わってしまった後では、屋根が開くからと言ってどんなメリットがあるのか、まったく見当もつかなかった。

待ち合わせ場所にやってきた600LTスパイダーはクローズドの状態だったので、近寄ってルーフの分割線を確認するまでスパイダーとわからなかった。クーペとほぼ同じ滑らかなサイドシルエットを持ちながら、優れた対候性をも提供してくれるリトラクタブルハードトップはマクラーレンのスパイダー・モデルのメリットと言える。

マクラーレン600LTスパイダーのフロントスタイル

「600LTクーペとはエンジンの淀みのなさやアシの座りが明らかに違っている」

さっそくワインディングに走り出してみると「拍子抜けしてしまった」というのが正直な第一印象だった。少なくとも、記憶の中にある600LTクーペとはエンジンの淀みのなさやアシの座りが明らかに違っている。1300km程度しか走行していなかったこともあり、5000rpmから上のV8ターボの鋭さにも少し丸みのようなものが感じられた。

タイヤを確認してみると、以前の600LTクーペが履いていたピレリPゼロトロフェオRでもPゼロコルサでもなく、MCマーク(マクラーレン専用)の入った素のPゼロが装着されていた。地面にへばりつくような600LTクーペのフィーリングを決定づけていたのは、セミレーシング・タイヤのおかげだったのだろうか。

ともあれ、600LTクーペのシャシーはピレリPゼロトロフェオRタイヤを見事なまでに履きこなしていたので、600LTスパイダーに関しても、PゼロトロフェオRを選べば、別次元のグリップが味わえるはずだ。

マクラーレン600LTスパイダーのシート

「オープン状態の600LTスパイダーはまったく別のクルマになっていた」

何しろマクラーレンの核となっているモノセルIIはカーボンファイバー製のフロアモノコックである。オープン化に伴って特別な補強を施していないことからも、固定ルーフのあるなしがシャシー剛性に与える影響はほとんどないのだと思われる。

箱根の山頂でセンターコンソールのスイッチを操作し、トップを下ろしてみる。リヤのバルクヘッド上にふたつのカウリングが備わるため、オープン化によって得られる開口部の面積は大したことがない。けれどオープンにした600LTスパイダーを色々な角度から眺めてみたのだがまったく破綻は見られなかった。それでもまだ、スパイダーの存在意義を咀嚼できないでいる。オープンエア・ドライブを楽しみたいのであればもっと大胆に空気と触れ合える選択肢はいくらでもあるし、純粋なドライバビリティを求めるのであれば600LTクーペがある。

ところがオープンの状態で走り出した600LTスパイダーは驚くべきことにまったく別のクルマになっていた。その最大の特徴は頭上から盛大に降り注いでくる音のシャワーだ。マクラーレンはこれまで排気音に対する評価が芳しくなかったのだが、600LTスパイダーのそれは、このモデルの特徴でもある上方排気も手伝って、コクピット内に素晴らしい音が充満する。これはまったく予想していなかった600LTスパイダー特有の美点といえる。

マクラーレン600LTスパイダーのインテリア

「音の塊が不規則に切り刻まれ、刺激的な不協和音が生成される」

3.8リッターのV8ターボはアイドリング付近では不機嫌そうなブツブツという音を奏でているが、そこから中間域まではNAエンジンのように音色が艶を増し、さらにトップエンドに向かう道中では高圧のスプレー噴射のような音が加わって、8500rpm付近のフィナーレへと突き進む。

しかもパドルスイッチによるシフトダウンの操作ひとつで音の塊が不規則に切り刻まれ、刺激的な不協和音が生成される。それはフェラーリやポルシェのような澄んだ美声ではなく、レーシングカー的な力のこもった肉声なのである。

一方コーナリングにおいてもオープンモデルのメリットが感じられた。というのも、オープンにしたことで重心が下がった効果をはっきりと体感できたからである。サイドとリヤの窓も下ろしてフルオープンの状態にすると、いよいよ重心が低くなり、ロールが減ってコーナーの切り返しがはっきりと軽快になる。そんな一部始終をはっきりと指摘できるのも、カーボン・シャシーの伝達能力の高さなのだと思う。

マクラーレン600LTスパイダーのサイドビュー

「公道で遊びつくそうというのであればスパイダー以外に選択肢はない」

ヘルメットを被ってサーキットをストイックに攻め込むのであれば600LTクーペを選ぶのが正解だが、ワインディングや高速道路といった公道で遊び尽くそうというのであれば、選ぶべきは600LTスパイダー以外にはないだろう。クーペではもたらされない音の強刺激が、LTの称号にさらなる伝説性をプラスしようとしているのである。

REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)

【SPECIFICATIONS】

マクラーレン600LTスパイダー

ボディサイズ:全長4604 全幅1930 全高1196mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1404kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3799cc
最高出力:441kW(600ps)/7500rpm
最大トルク:620Nm(63.2kgm)/5500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ(リム幅):前225/35R19(8J) 後285/35ZR20(11J)
0-100km/h加速:2.9秒
最高速度:324km/h
価格:3226万8000円

※GENROQ 2019年 8月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。