メルセデスAMG E 63 Sの冷静なる狂気:後編【Playback GENROQ 2017】

 

Mercedes-AMG E63S

メルセデスAMG E 63 S

AMG E 63 Sが放つ「冷静なる狂気」

メルセデスAMGの最新兵器、E63Sが日本上陸を果たした。4.0リッターにダウンサイズされたV8は、ツインターボで612ps/850Nmを絞り出す。駆動系には先代から引き継がれた4MATICを採用し、さらに完全FRとなるドリフトモードも搭載。恐ろしいまでの速さと楽しさ、そして完璧な快適性を高次元で満たす現代の万能マシン。モータージャーナリストの清水和夫と、西川 淳がその実力を試す。(後編)

メルセデスAMG E 63 Sのフロントスタイル

西川 淳「印象をひと言で表現するなら、それは『狂気の体現、メルセデス流』だ」

新型メルセデスAMG E 63 S 4マティック+が、試乗後の筆者に残してくれた印象をひと言で表現するとしたなら、それは、「狂気の体現、メルセデス流」ということになろう。

雨の小田原で車両を受け取った。箱根ターンパイクで“もどかしい”撮影を終えたあとらしい。朝からの雨で完全ウエット、小雨模様とはいえ、夕刻に近づいて気温も明らかに落ちはじめた。そこから高速道路を使って京都へ向かう筆者にしたところで、気分の良い試乗にはとてもなりそうにない。

なにせ相手は、612ps&850Nmというスーパーカー・スペックの4.0リッター V8ツインターボを積んだ、モンスターサルーン。いくら最新のAWDモデルで、きめ細やかな電子制御のサポートを受けることができるとはいうものの、あちこちに水のたまったワダチのある高速道路を、かっ飛ばして走る気になど到底なれない。

メルセデスAMG E 63 Sのインテリア

「やはりこのクルマはセダンの皮をかぶったスポーツカー、なのだ」

雨雲レーダーを見ると、西の方が晴れていた。箱根の山を越えるまでの辛抱、というわけで、東名高速の流れに乗って、まずはクルージング。この手のクルマに乗ると、ついつい忘れがちになる、やすらかな速度域でのインプレションを取ることにしよう。

前評判では、全域で以前より優しいタッチの乗り味が魅力、ということだったが、なんのなんの、日本の道が悪過ぎるのだろうか、コンフォートモードでもなかなかハードでダイレクト感ビシバシの乗り心地。もちろん、ひと昔前の高性能車とは一線を画するが、とはいえ、決して優しい雰囲気ではない。これは、辿り着いた京都の街中でもまったく同じ印象で、やはりこのクルマはセダンの皮をかぶったスポーツカー、なのだ。ちなみに、後席にも座ってみたが、特に強烈な左右のゲインをもろに被ってしまうから、これは完全に親(もしくは祖父母)不孝モードというべきだろう。

もっとも、速度域がさらに上がってくると、そんな印象もびっくりするほど跡形もなく消し飛んでしまう。極上のライドフィールになる。後席に座っていても、超高速域では非常に安定しており、乗り心地もなるほど柔らかい。

メルセデスAMG E 63 Sのフロントシート

「130km/hくらいで走っていい道路向けのビジネスエクスプレス」

要するに、アウトバーン専用の、もしくはせめて130km/hくらいで走っていい道路向けの、それはビジネスエクスプレスだということを、この際よく知っておいてもらった方が、よさそうだ。日本の道では、少なくとも胸を張っては、その本来の性能なり乗り心地なりを満喫することは、難しい。

9速MCTは緻密に制御され、非常に扱いやすく、滑らかな加速をもたらす。スーパーカー・スペックをいとも簡単に手なずけている、という点だけでも、このパワートレインには好印象を抱いた。100km/h巡航でわずかに1400rpmほど。高速クルージング時の燃費は、8km/L台だった。

硬い、とはいっても、路面からの入力をイッパツで収束させる制御はさすがで、80km/h前後こそ気持ちよくはないものの、そこから上の領域であれば、身体の方が次第に慣れていく程度の硬さ、である。筆者もまた、硬い心地好きだから、京都までのロングドライブでも、さほど気にならない。

いつもより、京都が近かった。

メルセデスAMG E 63 Sの走行シーン

「大きなセダンを操っているとは思えないほど、自在感があって、愉快だ」

翌日、“マイコース”の嵐山高雄パークウェイへと向かう。関西屈指のワインディングロードであり、マクラーレンや日産GT-Rでも楽しめる、といえば、素性も容易に想像できるはず。

ここでは主に、モードによるドライブフィールの違いについて、試してみた。結論から言うと、FRのドリフトモードを除いて、モード間の差は驚くほどには大きくはなかった。「コンフォート」モードであっても、けっこう楽しいハンドリング性能をみせる。

スポーツ度を上げていくに従って、フロントアクスルの自由度が徐々に増す感覚が確かにあって、ノーズの向きの変わる速さも増していく。とはいえ、フロントもまたしっかりと支えていてくれるという安心感が常にあり、決して不安になることがない。コンフォート以外では、ステアリングホイールを握る両手とフロントアクスル、シートを介した腰とリヤアクスル、それぞれの一体感がすさまじく、大きなセダンを操っているとは思えないほど、自在感があって、愉快だ。

メルセデスAMG E 63 Sをドライブする西川 淳氏

「路面への力の伝達が精密にコントロールされているがゆえに踏みっぱなしを許容する」

「インディビジュアル」モードで好みのセットを作る、のもいいが、各モードのデフォルトセッティングを随時、好みに替えてみるのも楽しい。例えば、「スポーツ+」でアシを柔らかくし、ESPをスポーツにセットする、という具合に。そうして見つけだしたホームコースでのベストセットを、「インディビジュアル」モードに記憶させておく、という使い方が有効だろう。

変速をマニュアルにしてパドルで楽しむ。M177系最強のスペックを誇る4.0リッター V8ツインターボの吹けがあまりにシャープで、何度もシフトアップミスを犯してしまった。路面への力の伝達が精密にコントロールされているがゆえ踏みっぱなしを精神的にも許してくれるから、ついつい遠慮なく、というわけなのだった。

REPORT/西川 淳(Jun NISHIKAWA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)

【SPECIFICATIONS】

メルセデスAMG E63S 4マティック+

ボディサイズ:全長4995 全幅1905 全高1460mm
ホイールベース:2940mm
車両重量:2070kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:450kW(612ps)/5750-6500rpm
最大トルク:850Nm(86.7kgm)/2500-4500rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前4リンク 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前390 後360mm
タイヤサイズ:前265/35R20 後295/30R20
0-100km/h:3.4秒
JC08モード燃費:9.1km/L
車両本体価格:1774万円

※GENROQ 2017年 8月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。