キャデラックの「V」が見せたスポーツセダンの新潮流。その実力はドイツ勢を超えるか?【Playback GENROQ 2016】

CADILLAC ATS-V / CTS-V

キャデラック ATS-V/CTS-V

エッジの効いた「V」の世界を垣間見る

キャデラックの高性能版“V”は本気である・・・。そう噂を耳にしたのは、ようやく最近になってのこと。しかも想定するライバルとしてドイツの強豪たちの名を挙げ、完全に打ち負かすべく開発したというから興味は尽きない。その真相は如何に? キャデラックの革命児と野口 優が向き合った。

キャデラック CTS-Vの走行シーン

「コルベットZ06譲りのV8を搭載するCTS-V。その完成度に“本気”を感じる」

噂は本当だった・・・。キャデラックがラインナップする「V」の名を冠するモデルは、これまでの“アメ車”のイメージを覆し、完全にメルセデスAMGやBMW Mをターゲットにしている-。

CTS-Vに乗り込み、早々にスターターボタンを押し、セレクターレバーをDレンジに入れアクセルを踏み出した途端、持ち前の“牙”を剥き出した。タダものじゃない! 何しろコイツに積まれるエンジンは、コルベットZ06譲りの6.2リッターV8 OHVスーパーチャージャーである。649ps&855Nmというパワー&トルクは明らかに挑戦的なスペックだ。アクセル開度と共に比例するスーパーチャージャーの過給音を耳にしながら踏み続けると、まるで永遠に続くような加速を見せた。

そんな馬鹿な・・・と呟きたくなったのはさらにその後だった。接地感はまるで欧州車のそれ。どっしりと構えながら重厚な加速感が得られ、さらにタイヤと路面との摩擦を感じながら走ることができる。もはやアメ車ではない! そう思わせたのは本当だ。しかもこのトルク感は尋常ではない。8速ATの出来も良いだけに信頼感すら芽生えてくる始末。確かにドイツ勢に喧嘩を仕掛ける姿勢としては、まさに正しいアプローチだと痛感させられた。

キャデラック CTS-Vのエンジン

「空気を切り裂くような加速感は、AMGやMを相手にするにも十分以上」

それだけではない。テスト走行するために深夜の首都高を回遊していると、そのコーナリングにも感銘を受ける。接地性が良いとあってリニアにグリップを感じられるどころか、足がきっちりと仕事をこなしている。特に強大なトラクションがかかるリヤのマルチリンク式サスのセッティングは見事というほかない。それでいてバタつくこともなく、乗り心地も良い。もちろん、フロントの足まわりに関しても追従性が高いだけに、予想以上に素直にトレースしていくから文句なしである。

これだけの出来となれば、たとえ車格は大きくとも遠慮なしに連れまわせるのは確かだ。だから今度は場所を変えるために東名高速に移動、箱根を目指してドライブすると、その高速性能に度肝を抜かれることになった。まさに“突進”である。空気を切り裂くようなこの加速感は、AMGやMを相手にするにも十分以上だろう。トルクとパワーの関係が見事で、かつスーパーチャージャーの活かし方が上手い。アクセルを“ガバッ”と開けた途端に始まる過給はレスポンスに優れ、1.9トンの車重をものともせずに引っ張り続ける。御殿場に近づくにつれ、現れる高速コーナーでも見事な姿勢を見せたから安定感も抜群である。

キャデラック CTS-Vのリヤスタイル

「これなら遠慮なく、ドイツ勢に喧嘩を売れるだろう」

しかもブレーキ性能も本物だ。そう思わせたのが箱根のワインディングで見せたコーナリング時。本来ならこれだけ車重があるとハードブレーキング時は、さすがに自重に負けてしまう印象の車両は多いが、CTS-Vは違う。それもそのはず。ブレンボを装備し、サーキット走行までも視野に入れてセッティングしたというだけあり、その効き方には信頼がおけるレベルにまで達している。フロント6ポット、リヤ4ポットキャリパーをもつから当然かもしれないが、それでも“やり過ぎ感”があるくらいで、大型サルーンらしからぬ、メリハリの効いた走りを峠でも見せるから、むしろ恐ろしくなる。

だからワインディングでも好印象。ただ、リニアに反応するステアフィールをもつ割りには、追い込んでいくとややハンドリングが希薄に感じる面もあるのだが、それでもこれだけの仕上げを実現しているから大してネガティブに思えなかった。あくまでも“あえて言うなら”程度である。それよりも驚くのは、標準タイヤにミシュラン・パイロット・スポーツを選択していること。つまり本気だという証しである。恐らくキャデラックの開発陣は、想定するライバルを確実に打ち負かすためにこのタイヤを選んだに違いない。“ニュル”仕込みでなければ、このタイヤは選ばないはず。これなら遠慮なく、ドイツ勢に喧嘩を売れるだろう。

キャデラック ATS-Vの走行シーン

「ATS-Vのパワーとシャシーのバランスは上々!AMGをも蹴散らせそうだ」

Vをメジャーにするために生まれたと言ってもいいのが、このATS-Vである。先のCTS-Vの弟分にあたり、その想定ライバルもメルセデスAMG C63やBMW M3と強豪が相手だ。それだけにキャデラックも本気の対応を見せるから面白い。パワーユニットは、V型6気筒DOHCツインターボ。470ps&603Nmというパワー&トルクを持つとあって完全にドイツ勢に応戦している。

CTS-Vのすぐ後にこのATS-Vに乗り換えたのだが、実のところ違和感はまったくなかった。つまり、同じテイストに仕上げられているという証しである。こういったところの一貫性もまたアメ車らしからぬところだが、逆に言えば他のモデルも含めてキャデラックは今や完全にグローバルモデルとして造られているのがわかる。

キャデラック ATS-Vのエンジン

「持ち前の高性能ぶりを、インテリアの中に機能として設けている」

正直に言わせてもらうと、個人的にアメ車が大の苦手だっただけに(いや、正確に言うと大嫌いである)、乗る前は抵抗があったものの、こうして乗り始めると、すんなりと受け入れられるから時代は変わったと心底思う。かつて見られた、あの緩さは微塵も感じないどころか、ボディ剛性は強靭、ハンドリングも節度感があるから、エンブレムを見ずに乗れば、どこかのヨーロッパ車のように思ってしまうくらいだ。

それに加え、インテリアの質感もその昔とは比べものにならないくらい出来が良い。ラグジュアリーを基本としつつもスポーツ性を強調したそのデザインは見事で、仕立て方がまるで欧州車。しかもCTS-Vはもちろん、このATS-Vにはレカロのパフォーマンスシートまで奢られている。乗車性を考慮しつつもホールド性の高さを実感させるそのデザインは、まさにこのVシリーズには打ってつけだろう。持ち前の高性能ぶりを、インテリアの中に機能として設けているのも褒めるに価する。

キャデラック ATS-Vのリヤスタイル

「活気あふれる走りを望む場合は自ずとこのATS-Vとなる」

さて、このATS-V、例え弟分といえども兄貴でも叶わない一面を持つのは確かだ。それが俊敏性である。この2台を比較するのはナンセンスかもしれないが、車格に応じて選択するよりも目的をもって選ぶなら、活気あふれる走りを望む場合は自ずとこのATS-Vとなることをあえて強調したい。とにかくコイツはバランスが良い。CTS-Vよりホイールベースが短いこともあって、取り回しの良さもさることながらトラクションの効きがスポーティで実に好ましい。それにターンインする際の動きの良さは間違いなくC63を上回るほど。足まわりのセッティングは見事で、このマグネティックライドによる効果は的確、とにかくよく動き、よく判断されていると思う。特にイン側の働きは感心するほどで、その接地性が良好なだけにコーナーを面白いように駆け抜ける。

ただし、ハンドリングは思いのほか重い印象。グリップの感覚を掴みやすいだけに如実にそう感じてしまうことがあった。それに加えて言うなら、8速ATも適切なスケジュールを組むし、パドルによるシフトも可能だから基本的には不満はないが、コーナリング性能が高いゆえに、出来ることならDCTにして欲しかったというのが本音。エンジンレスポンスも悪くないから、もしDCTとの組み合わせであればC63はおろか、M3にも大きくその差を広げそうな気がする。もちろん、CTS-V同様、このATS-Vもブレンボ製ブレーキシステムとミシュラン・パイロット・スポーツを組み合わせているとあって信頼性も抜群だ。

それにしてもこのデザインは、最近忘れかけていた強いエッジの効き方による“ちょいワル”感を醸し出しているのがいい。とにかくシャープだ。サルーンとは思えないほど、やんちゃ感があって主義主張を感じられる。今回、試乗している際、街中などでは両モデルともに、かなり視線が気になったのは事実。ボディカラーの効果もあるのだろう、ステルス戦闘機のような危うさが魅力のようだ。実際その走りも、かなり刺激的だから共通している・・・。

REPORT/野口 優(Masaru NOGUCHI)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)

【SPECIFICATIONS】

キャデラック CTS-V

ボディサイズ:全長5010 全幅1870 全高1465mm
ホイールベース:2910mm
車両重量:1910kg
エンジン:V型8気筒OHVスーパーチャージャー
総排気量:6156cc
最高出力:477kW(649ps)/6400rpm
最大トルク:855Nm(87.2kgm)/3600rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/35ZR19 後295/30ZR19
車両本体価格:1330万円

キャデラック ATS-V

ボディサイズ:全長4700 全幅1835 全高1415mm
ホイールベース:2775mm
車両重量:1750kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:3564cc
最高出力:346kW(470ps)/5850rpm
最大トルク:603Nm(61.5kgm)/3500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/35ZR18 後275/35ZR18
車両本体価格:990万円

※GENROQ 2016年 8月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。